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Xenoglossia  作者: Nego
要塞都市グラディアス
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Chapter2-2 ~三鼎~

 騎士と戦術の都グラディアスに足を踏み入れたレイカは、その町の構造が巨大な軍事要塞であることを理解した。分厚い外壁と、城壁の上に整然と並ぶ無数の訓練塔。そして、町の中心には、グラディアス騎士団の総本山であり、レイカの目的地である城、フォートレス・グラディアスがそびえ立っていた。


 この城は、騎士団の拠点でありながら、内蔵された訓練場と巨大な図書館は一般市民にも開放されていた。レイカは、身分を問わない開かれたシステムを利用し、すぐに図書館に籠もった。彼女は、長年探求してきたゼノグラシアの術式に必要な「大規模魔力運用戦術」と、過去の騎士団による「魔族集結の策略」に関する文献を探し始めた。


 レイカは、背中の羽根を引きちぎった際の大きな傷跡を、常に厚手のローブや外套で厳重に隠していた。その姿は、彼女の冷たい美貌と無表情な態度が相まって、周囲から孤高の存在として見られることに一役買っていた。


 情報収集の傍ら、レイカは自らの魔力を磨くため、城の広い訓練場を訪れた。彼女の放つ氷の魔法は、一世紀にわたる修行で、もはや自然現象を超えた冷酷な美しさと圧倒的な力を持っていた。訓練場の一角で、レイカは三人の若者と出会った。彼らは城の主力騎士団員と魔道士のようだった。


 レイカの魔法の練度を見て、まず声をかけてきたのは、一人の女性だった。金色の長い髪を持ち、レイカよりも背が高い、凛とした体躯の女騎士。彼女はレイカの魔法の練度を見て、目を細めた。

「凄い魔力だ。貴女は一体何者?…戦場で見かけたことはないな」


 その隣には、金髪で細身ながらもしっかりとした体つきをした男騎士がいた。彼は穏やかな笑みを浮かべ、レイカに優雅に会釈した。

「失礼、彼女はエナと申します。私はアラン。貴女の魔法は芸術的だ。ぜひ、我々の稽古に協力してくれませんか?」


 そして、二人の後ろから、赤髪で若く小柄な女魔道士が飛び出してきた。彼女はレイカと対面するや否や、目を輝かせた。

「わぁ……なんて可愛くて美しいお姿なのでしょう! 魔法も綺麗です~!」

彼女はレイカに抱きつきそうになり、アランに慌てて引き戻された。

「申し訳ありません、彼女はエリス。少々、人見知りを知らない子でして」

アランが苦笑いした。


 レイカは、この三人に、ゼノグラシアとしての自身の素性と、アルストラムを含む数々の世界を救おうとしていること、その第一歩として魔族の脅威に立ち向かおうという使命を抱えていることを、可能な範囲で打ち明けた。レイカの壮大な計画に、グラディアス騎士団の若き精鋭である彼らは強い関心を示し、快く協力を申し出た。


 フォートレス・グラディアスを拠点にしたレイカの修行は、過酷だった。レイカは、エナとアランから武術の稽古と戦術の勉強を受けた。魔族を自らの力で駆逐するには、魔力だけでなく、敵の動きを読む確かな武術と、軍団を動かす戦術が必要だ。レイカの観察眼は、彼らの教えを驚異的な速さで吸収した。アランの優雅な剣捌きとエナの力強い突進は、レイカの魔法の間合いを補完する新たな戦術的視野を与えた。



 フォートレスの巨大な訓練場。朝の冷たい空気の中、レイカとエナの稽古は静かに、だが熾烈に行われていた。エナの金色の髪が風に靡き、彼女の持つ騎士剣がレイカのローブをかすめる。

「甘いぞ、レイカ! 魔力に頼るな!」

エナは怒鳴るように指示する。レイカは氷の魔法で剣の軌道をわずかに逸らし、その隙に懐に入り込もうとするが、エナの剣の防御は鉄壁だった。


「…無駄な動きが多い」

レイカは冷たい声で呟くと、突然氷の薄膜を地面に展開した。エナがわずかに足を取られた刹那、レイカはすでにエナの背後に回り込み、刃を首筋に突きつけていた。エナは剣を下ろし、息を吐いた。

「…恐ろしい。貴女は、魔法をを戦術として使いこなしている。次は、軍団相手の戦術シミュレーションだ」

エナはレイカの冷酷な合理性に、戦士として静かな敬意を抱いていた。レイカは、一世紀の旅で磨き上げた非情さを、この稽古で武術へと昇華させていった。



 夜の図書館。アランとレイカは、分厚い革表紙の古文書が積まれた一角で、ロウソクの光を頼りに研究に没頭していた。

「レイカ、これを見てください。『多次元魔力転換の基礎理論』だ。古代の賢者が、魔族の脅威に対抗するために試みた、次元を超えるエネルギー操作の記述です」

アランは興奮気味に羊皮紙を指さした。彼の穏やかな顔には、知的好奇心と使命感が混ざり合っている。


 レイカは冷たい指で古文書に触れた。

「…この理論は、私の魔力の特性にしか適用できない。ゼノグラシアの存在を前提としている」

アランは頷き、続けた。

「この理論を完成させるには、膨大な魔力の制御と、正確な座標の指定が必要です。魔族の起源や、過去のゼノグラシアがどこへ行ったのかを知る鍵も、この理論の中にあるはずだ」

レイカは、アランの優美な外見からは想像もできないほどの深い知識と、冷静な論理に基づく戦術の構想に、信頼を置いていた。この図書館での時間は、レイカの孤独な旅の中で、最も確かな希望の光だった。



 一方、魔術の面では、エリスとの稽古と協力が驚くべき成果をもたらした。レイカの莫大な魔力を制御し、多次元的なエネルギーを扱うための術式を具現化する過程で、エリスの魔法陣構築の才が光った。エリスは、レイカの要求に応える形で、高度な座標指定と膨大な魔力増幅を可能にする異世界転移用の魔法陣をついに完成させた。


 エリスは、レイカの影のように付き従う、最も献身的な協力者だった。レイカがどれだけ冷たく振る舞おうと、彼女の無邪気な態度は変わらない。

「レイカ様、特訓の後の冷たい水です~! ぜひぜひ喉を潤してください!」

ある日の訓練の休憩中、エリスは自作の魔法で冷やした水を差し出す。


ある日、レイカがローブを脱いで魔力の回復を試みていると、隠していた背中の羽根の傷跡が露わになった。深い肉の裂け目は、一世紀経っても生々しい。

エリスはそれを見て、怯えるどころか、瞳を潤ませた。

「レイカ様…痛くはないのですか?私、治癒魔法は苦手ですけど…レイカ様の痛みが少しでもなくなりますように」

エリスはそっと、その傷に触れようとしたが、レイカは身を引いた。

「必要ないわ。これは、私の覚悟の証なの」


レイカは拒絶の姿勢を見せたが、エリスは悲しむこともなく微笑んだ。

「はい!私、レイカ様のために、転移の魔法陣を完璧にします!レイカ様の決意を、ちゃんと受け止めます!」


 エリスの才能は、レイカの魔力を制御し、多次元のエネルギーを扱うという難題を、驚くべき速さで実現させた。エリスとの稽古がなければ、異世界転移の魔法陣は、永遠に机上の空論で終わっていただろう。レイカは、エリスの献身を、その心で、確かに感じていた。

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