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Xenoglossia  作者: Nego
旅する妖精
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Chapter1-4 ~ゼノグラシア~

 エルフィンとエデラスの死から数週間、レイカとセフィラはアルストラムで最も巨大な知識の中心地、巨大な城塞都市アイビスへとたどり着いた。この都市は強固な防御壁と魔術の結界によって、まだ日常を保っていた。


 レイカが目指したのは、巨大な知識の殿堂アイビス大図書館。魔族の再封印、あるいは滅っする方法、そして何よりも、光から生まれた自身の誕生の秘密理由と存在意義、世界を救うための具体的な手段を探すためだ。


 セフィラは心身共に深く病んでいた。エルフィンとエデラスの惨殺、レイカによる報復と自己犠牲。彼女の心は、憎悪と悲しみに蝕まれ、旅の過酷さに耐えられる状態ではなかった。

「レイカ、どうして、人間が作ったこんな場所に…」

セフィラは、療養施設の薄暗い部屋で虚ろな目で呟いた。

「私たちは、ここで答えを見つける。あなたを、そしてこの世界を救う答えを」

レイカはそう言ってセフィラの頬に触れた。その手は、冷たいままだった。


 レイカは、セフィラを療養施設に預け、毎日の大半を図書館で過ごした。アイビスの人々は温かく施設の利用をはした金でも快く受け付けてくれた。魔族や封印術に関する情報は断片的で、レイカの特異な存在に関する記述は登場しない。失意の日々が続いたある夜、レイカは閉架書庫の最も深い棚で、埃を被った一冊の古い文献を見つけた。表題のない、分厚い革表紙の本。


 恐る恐るページを開くと、そこに記されていたのは、数万年前にも遡る記録だった。その中に、レイカの目を釘付けにする一節があった。

『調和が乱れた時、数々の世界で均衡を保つ使命を帯びた「ゼノグラシア」が降臨する』


 さらに読み進めると、その存在の特徴と使命が詳細に記されていた。

『ゼノグラシアは人の形を取り、魔素より生まれ、生命を持たず、莫大な魔力を操る。アルストラムにおいては魔族の封印もその役割に該当する。彼らの使命は一つの世界に留まらず、崩壊しかけた複数の世界を救う調停者である。過去にも一人、世界を救い、使命を果たしたゼノグラシアが存在した』


 レイカの全身に衝撃が走った。光から生まれたこと、冷たい体温、強力な魔力—全ての記述が、まるで彼女自身を指しているようだった。

「私の使命は…アルストラムだけじゃない。私は、ゼノグラシア…」


 魔族の封印は彼女の使命の一部に過ぎない。レイカは自分がなぜこの世界に生まれたのか、そして、自身の強力な魔法が何のためにあるのか、その答えを見つけた。彼女は、過去のゼノグラシアがどうやって使命を果たしたのか、異世界転移の術式、そしてゼノグラシアの力を完全に覚醒させる方法を調べ始めた。

「私は過去のゼノグラシアが辿った道を追う。そして、このアルストラムの魔族の脅威を断ち切る」


 翌朝、レイカは療養施設を訪れ、セフィラに全てを打ち明けた。

「セフィラ、私にはなすべきことが分かったわ。私はゼノグラシアとして、このアルストラムの危機を乗り越え、他の世界へも行かなければならない。そのために、このアイビスにはない、さらなる知識が必要よ。私は、旅を続けなければならない」


 セフィラは窓の外の薄暗い空を見つめたまま、レイカの言葉に反応しなかった。彼女の心は、もはや旅の過酷さにも、レイカの背負う重すぎる使命にも耐えられる状態ではなかった。

「もう…充分よ、レイカ。エルフィン兄様やエデラスが言っていたように、優しさだけじゃ誰も救えない。そして、憎しみも、あなたと同じ孤独な使命も、私には背負えない」


 セフィラは静かに、しかし決然とした声で言った。

「私は、ここで残るわ。この街で、もう戦いのない場所で、心を休ませたい。これ以上、誰も失うのも、あなたが変わっていく姿を見るのも、耐えられない」

セフィラの言葉は、レイカの胸を深く抉った。エルフィンとエデラスを失ったことで、レイカは強さを得たが、セフィラは優しさと共に、生きる気力まで失っていた。


「わかったわ、セフィラ。…ここに、ここに残って」

レイカは、セフィラの額に冷たい唇を押し当てた。それは、愛する者との痛みを伴う別れだった。


 レイカはアイビスの施設の職員にセフィラの護衛と療養を託し、図書館で得た新たな地図と、ゼノグラシアとしての使命だけを懐に、一人、アイビスの城門を潜った。彼女の背中の羽根は失われたままで、大きな傷跡もそのままに、その姿は以前のような神秘的な輝きを放ってはいなかった。しかし、その瞳には、かつての迷いや悲哀の影はなく、ただ一つの決意が宿っていた。

「待っていてセフィラ。必ず、この世界を救いあなたに平和な空を取り戻す。そして私は、次の世界へ向かう。これが、ゼノグラシアとしての私の使命」


 レイカは、愛する者たちとの別れと死の代償を、孤独な力の源へと変え、広大な荒廃した世界、アルストラムの奥地へと、ただ一人、歩みを進めた。

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