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Xenoglossia  作者: Nego
旅する妖精
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Chapter1-2 ~氷柱~

 スイの町を出てから、レイカたちの旅は過酷を極めた。魔族の魔力で荒れ果てた大地では、食糧を見つけるのも難しく、消耗が一行を苛んでいた。光から生まれたレイカは食糧を必要としなかったが、仲間のために常に気を張っていた。特に左肩の傷が癒えないエルフィンと、力の弱い妖精たちは、空腹と疲弊で限界に近付いていた。


 ある日、一行は人里離れた森の奥で狩猟用の小さな小屋を見つけた。小屋には体格の良い中年男性を中心に四人の男たちが身を寄せ合って暮らしていた。男たちは疲弊しきったレイカたちを見て、驚きながらも優しく迎え入れた。リーダー格の男はゼストと名乗り、新鮮な獣肉と温かいスープを振る舞ってくれた。


「こんな世の中だ。困ったときはお互い様だろう。怪我人もいるようだし、数日休んでいきな」

 彼の優しさに人間好きのエデラスはすぐさま心を許した。セフィラは依然として警戒心を解かなかったが、エルフィンは仲間たちの体力の回復を優先し、レイカの力を過剰に使わせることを避けるため、数日間この小屋に留まることを決めた。彼らは恩返しとして、男たちの狩りや薪割り、薬草の採集などを手伝った。


 三日目の昼過ぎ、レイカとセフィラは小屋から少し離れた場所で珍しい薬草の群生地を見つけ、採集に夢中になっていた。二人が小屋へ続く道を戻り始めた頃、セフィラが突然顔色を変えた。

「レイカ…血と魔力の匂いが混ざった嫌な匂いがする。小屋の方からよ…」


 レイカたちは警戒し、小屋へ向かって速度を上げた。しかし小屋の近くに差し掛かった瞬間、彼女たちの全身の血が凍りついた。


 小屋の入口には、横たわる数名の妖精たちの無残な姿があった。彼らの背中の羽根は、刃物で無理やり引きちぎられ、飛び散った血が土を赤く染めていた。呻き声も上げられないほどの重傷を負い、虫の息となっている仲間たちの姿。レイカの瞳は、一瞬にして感情を失い、深い青の凍てつく光だけを宿した。


「ああ…あああ…」

セフィラは口を覆い、その場に崩れ落ちた。

小屋の中からは、男たちの下卑た笑い声が響いていた。レイカは、一歩一歩、静かに小屋の中へと入った。


 小屋の中では、三人の男が、引きちぎった羽根を前に、酒を飲みながら哄笑していた。

「まさか妖精の羽根がこんなに簡単に手に入るとはな!あの女の羽根は特に上物だぞ!」

「チッ。もう少し優しくやればよかったか?まあいい、これで富も命も手に入る!」

彼らの足元には、仲間であった妖精たちの、血塗られた羽根の残骸が散らばっていた。


 レイカは、もはや怒りという生易しい感情ではなかった。それは、彼女の愛する全てを踏みにじられたことへの、絶対的な冷たい憤激だった。


「…あなたたちに、生きている価値はない」

 レイカの言葉とともに、小屋の温度が瞬時に零度以下に急降下した。

 男たちが何が起こったのか理解する間もなく、レイカの魔法は発動した。

「………」

 無言のまま、レイカは空中に氷柱を生み出した。床を這った冷気が、男たちの足を瞬時に凍りつかせ、レイカはまず、最も悪辣に笑っていた二人の心臓めがけて、鋭利な氷の刃を放った。ドスッという鈍い音と共に、二人の男は、喉から血を噴き出す間もなく、体内に発生した氷の刃によって絶命した。その顔は、驚愕と苦痛の表情を浮かべたまま、冷たく凍りついていた。レイカは、その凄惨な光景の中、微動だにせず立ち尽くした。


 生き残ったゼストは、友人の突然の死に恐怖で叫び声を上げた。ゼストは、レイカたちを「スイ」の町で見かけ、この罠を仕掛けた張本人だった。レイカの瞳に冷徹な殺意が宿り、彼女は次の標的であるゼストに向け、さらに強大な氷の槍を生成した。

「次はあなた」

ゼストは恐怖に顔を引き攣らせ、命乞いを始めた。

「待ってくれ!頼む!俺は、ただ…生きたかっただけなんだ!」

レイカは、彼の懇願を聞き入れることなく、ゼストに向けて、止めの一撃を放とうとした。


 その瞬間、小屋に戻ってきたエルフィンがその場に飛び込んできた。彼は小屋の入口で血塗れの仲間たちの姿を、そして小屋の中で氷漬けにされた男たちの死体を視界に捉えた。

エルフィンが見たのは、その背後に巨大な氷の槍を構え、まさに絶望に満ちた男の命を奪おうとする、感情を失ったレイカの、あまりにも冷酷な姿だった。


「レイカ!!やめろ!!」

 エルフィンの叫び声が、凍りついた森の中に、虚しく響き渡った。

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