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Xenoglossia  作者: Nego
Prologue
3/17

Prologue3 ~空が割れる~

プロローグラストです

 レイカが妖精の森で愛と哲学を吸収して数十年の時が流れた。エルフィンが予感していた世界の危機は、突然、最も残酷な形で訪れた。それは、妖精たちが変わらない日常を送る夜の始まりだった。


 予兆なく、森全体を凍りつかせるような邪悪な魔力の奔流が空を覆った。それは、数万年前に封印されたはずの、恐るべき魔族の再来を告げる波動だった。

「この嫌な魔力…!まさか、封印が破れたのか!」

エルフィンは顔を蒼白させ、即座に集落の防衛を命じた。レイカの青い瞳は、一瞬にして誕生当初の凍てつく光を宿し、大樹の根元へと駆け出した。


 上空には、歪んだ魔力の塊が渦巻いていた。そして、空がひび割れ異形の魔族たちが、黒い津波のように押し寄せてきた。彼らの目的は、太古から魔力の源である妖精の大樹の破壊と、その力の奪取だった。


 妖精たちは森の結界を頼りに奮戦した。エルフィンは、長として結界の最前線に立ち、防衛魔術を指揮する。

「皆、怯むな!森の力が、僕らと共にある!」

エルフィンが放つ魔術は、太陽の光を凝縮したかのような強大な熱の光弾となり、魔族の先鋒を焼き払う。そして、その炎を突き破るように、冷たく美しい光が森を照らした。それは、レイカの放つ氷の魔法だった。

「貫け」

レイカの魔力は、森の空気を瞬時に凝固させ、無数の鋭利な氷の槍へと変える。青白い輝きを放つ氷の槍は、エルフィンの炎熱を掻い潜り、魔族の硬い装甲を紙のように打ち砕いていった。彼女の魔法は、攻撃の威力、そして放出の精密さにおいて、妖精族の中でも群を抜いていた。


 しかし、魔族の数は絶望的に多かった。次々と新たな魔族が森に侵入し、光と氷の魔法で開けられた穴を埋めていく。

「レイカ!結界がもたない!生き残った皆を連れて、この場を離れるんだ!」

エルフィンは、結界が崩壊寸前なのを見て取ると、声を張り上げた。彼の顔は汗と魔力の消費で青白くなっていた。


「兄様!あなたは?」

セフィラが泣きながらエルフィンを振り返る。

「僕は最後尾から援護する!レイカ、君の氷結魔法で壁を築くんだ!君の氷で、奴らを分断する!」


 エルフィンとレイカは頷き合った。二人の協力が、生き残るための唯一の道だと悟っていた。レイカは通路を確保するため、全魔力を込めた渾身の魔法を放つ。

「全て閉ざせ!」

大地から瞬時に巨大な氷の壁が出現し、魔族の侵入を遮断する。その威力は凄まじく、一時的に魔族の動きを封じた。しかし、その隙を狙って、一際巨大な魔族が闇の刃を振りかざし、エルフィンの側面を強襲した。

「ぐっ!」

エルフィンは光の盾で防ごうとしたが、闇の力に押し負け、左肩に深手を負った。血が飛び散り、彼は膝をついた。

「兄様!」

セフィラが叫び、魔族へ向かおうとする。

「来るなセフィラ!エデラス、連れて行け!」

エルフィンは歯を食いしばり、最後の力を振り絞って闇の刃を焼けるような光で弾いた。


 エデラスは苦渋の決断を下した。彼はセフィラと、意識を失いかけているレイカを抱え、森の外へ向かって飛んだ。

「エルフィン!必ず生きて追いつけよ!」

エデラスの叫びが、氷の壁の奥で消えた。


 エルフィンは魔族の追撃を光の魔法で焼き払い、自身の傷を応急処置しながら、最後の力で氷壁の僅かな隙間から、辛うじて森の外へと続く道に滑り込んだ。彼の瞳は、故郷である妖精の森が、黒い炎と邪悪な魔力に覆われ、静かに沈黙していく光景を、焼き付けるように見ていた。


 森の外へと続く出口で、エルフィンはレイカ、セフィラ、エデラス、そして数名の妖精たちと合流した。エルフィンは左肩から血を流し、レイカは魔力の過剰な使用で衰弱していたが、彼らは皆生きていた。焼け落ちた森を前に、セフィラは嗚咽し、エデラスは拳を握りしめ、言葉を失っていた。レイカの瞳には、エルフィンを負傷させた魔族への、深い悲哀と、燃えるような憎悪と決意が宿っていた。


 エルフィンは、痛む肩を押さえながら、静かに、しかし力強く言った。

「泣いている暇はない。魔族の狙いは、この森の破壊ではない。世界アルストラム全体を闇に塗り替えようとしているのだろう」

レイカは、エルフィンの言葉に頷いた。


「私は、森の外へ出る。旅をするわ。私を育ててくれた森の犠牲に報いるために。そして、この世界を救うために」

エルフィンは、レイカの肩に手を置いた。

「君が、君の力がこの世界の希望だ。レイカ、僕たちは共に行く。僕が君の盾となり、君の力を導こう」


レイカ、エルフィン、セフィラ、エデラス、そして生き残りの妖精たちは、滅びた故郷を背に、未知なる世界へと足を踏み出した。彼らが歩み出す道は、エルフィンが教えた共存とはかけ離れた、戦いの冷たさを帯びていた。

次回から本編に突入します

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