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Xenoglossia  作者: Nego
要塞都市グラディアス
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Chapter2-6 ~賭け~

 エリスの献身的な協力により、地下深くの秘密の部屋に、異世界転移用の巨大な魔法陣がついに完成した。レイカの膨大な魔力を制御するため、エリスが持つ魔法陣構築の天才的な才能が結晶した成果だ。レイカの当初の目的は、自身の極大な力でアルストラムの魔族を完全に駆逐することであり、そのためには自らの命を懸けても良い覚悟でいた。彼女の表情は、旅立ちを目前に控え、研ぎ澄まされた刃のように鋭い。四人は、青白い光を帯び始めた魔法陣の前に立っていた。転移の実行は、星辰の配置が整う数日後と定められた。


 レイカが最終決戦の準備を整える中、女騎士のエナは、レイカの計画と一世紀を経てもなお根絶できない魔族の脅威を比較し、静かに、しかし決然とした口調で口を開いた。

「レイカの魔法は確かに最強だ。それは我々も、このグラディアス騎士団の総力を以て証明するだろう。だが、その命を懸けた一撃で、本当に全ての魔族が駆逐されるのか? 我々は、魔族の起源も、その本質も知らぬまま、千年近く戦い続けている」


 エナの深紅の瞳は、魔法陣の青い光を反射し、冷たい決意を宿していた。彼女の言葉は、騎士としての合理的で、ときに非情とも言える判断に基づいていた。

「レイカ、貴女はゼノグラシア。世界を渡り、均衡を保つ使命を持つ。貴女自身がこの異世界転移の魔法陣を使って別の世界に行き、魔族に対抗するより強力な術をもって帰ってくることができるのではないか?」

それは、レイカの自己犠牲による一撃ではなく、アルストラムを救うための究極の賭けだった。


 この提案を聞いた瞬間、優しく思慮深いアランが強く反対した。彼の穏やかな顔に焦りが浮かぶ。

「待て、エナ! それはあまりに危険だ! 転移した先でレイカ殿が無事である保証はないし、戻る術が見つからなかったらどうする!? 我々は、レイカ殿と共にこの世界で魔族と戦うために、これまで準備をしてきたはずだ!」

アランはレイカの孤独な覚悟を理解していたからこそ、これ以上の単独での行動を許容できなかった。彼は一歩踏み出し、レイカの目を真っ直ぐに見つめた。

「レイカ殿、貴女を一人で送り出すことはできない。私が一緒に行きます。私は剣術だけでなく、古文書の知識もある。別の世界で貴女の探索の助けになれるはずだ。二人で行けば、危険も半減するでしょう!」

エリスは不安そうにレイカを見つめていたが、アランの提案に小さく頷いた。


 しかし、レイカはアランの善意と勇気を冷たく撥ね退けた。彼女の瞳は、すでに異世界を見据えていた。

「…無理よ、アラン。この術式は、ゼノグラシアの莫大な魔力と、次元の境界に存在する私の特異な存在を前提に構築されている。私以外の存在をこのまま転送すれば、安定しない魔力の奔流で、貴方の体が消滅してしまうわ」

レイカの口調は、この時ばかりは有無を言わせぬ絶対的な断りだった。


 エナは静かにアランの肩に手を置いた。

「アランの気持ちは理解できるが、レイカの言う通りだ。我々がすべきことは、彼女を万全の態勢で送り出し、彼女が帰ってくるこの世界を無事に守り抜くことだ」

エナの合理的で非情な言葉は、レイカの決意を後押しした。一世紀の旅で得た知識をもってしても、魔族の根本的な脅威を排除する方法は確立できなかった。


「…それが、最短でこの世界を救う道かもしれない」

レイカは静かに呟いた。ゼノグラシアの使命を考えれば、他の世界にアルストラムを救うための究極の鍵がある可能性は否定できない。レイカの冷たい瞳に、強い決意の光が宿った。彼女は、不安と心配の視線を向ける二人をよそに、エリスと完成させた異世界転移の魔法陣の中央へと静かに足を進めた。ローブの下には、エリスが贈った小さな竪琴が隠されている。


「私は、異世界転移を試みる」


 この決意から、転移実行までの数日間、フォートレス・グラディアスの地下室は、張り詰めた静寂に包まれた。三人は、それぞれの不安を押し殺しながら、最後の準備を進めるレイカの傍を離れなかった。

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