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Xenoglossia  作者: Nego
要塞都市グラディアス
12/17

Chapter2-5 ~人繋ぐ調~

 ある穏やかな午後、エリスはレイカの「異世界のための準備」と称して、音楽の授業を始めた。エリスにとって、音楽は騎士団での厳しい任務から心を解放する唯一の趣味であり、彼女が最も大切にしているものだった。


「レイカ様!異なる世界で一番大切なのは、きっとコミュニケーションです!」

エリスは、地下室の片隅に、幾つもの楽器を持ち込んでいた。レイカは、普段の魔術研究とは全く異なるそれらの道具を、珍しそうに見つめた。


「魔力や戦術が通じない相手もいるかもしれません。でも、音楽はいつの時代も、どこの国でも、人々の心を繋ぐ鍵になると思うんです~!」

エリスはそう言って、まず自身が愛用している小さな木製のフルートを手に取った。彼女は、騎士団の厳しい訓練の合間に、いつもこのフルートを吹いて心を落ち着かせているのだという。彼女が奏でる旋律は、地下室の冷たい空気を温めるように優しかった。レイカは、一世紀の旅の中で、様々な世界の音楽を聴いてきたが、エリスの奏でる音は、彼女の純粋な心そのものが形になったようで、静かに響いた。


 エリスの音楽の授業は、レイカにとって技術的な難易度はなかった。レイカは、一度見ただけで楽器の構造を理解し、一度聞いただけで旋律を再現できる驚異的な才能を持っていた。


 二人の練習は歌から始まった。エリスはグラディアスに伝わる、家族の愛を歌う穏やかな曲を選んだ。

「さあ、レイカ様、ご一緒に!~~~~~~~♪」

エリスは優しく歌い、レイカはそれに続く。

「ーーーーーーー♪」

しかし、音程や歌詞に狂いはないもののレイカの歌声は、どこか感情が欠けていた。エリスはレイカの手をそっと取り、熱心に教えた。

「レイカ様、もっと優しい気持ちを声に乗せてみてください。家族を想う時の、あの温かい気持ちです!レイカ様は、アルストラムを救いたいっていう、とっても大きな優しさを持っているんですから!」

レイカは、過去の記憶に触れられ、わずかに顔を強張らせたが、エリスの真剣な瞳に促され、感情を乗せることを試みた。彼女の歌声に、少しずつ、以前はなかった柔らかな響きが加わり始めた。

「―――――――♪」


 エリスは息を飲み、目を丸くした。

「綺麗……。そうです!レイカ様、とってもお上手です~!」

エリスは称賛の言葉を述べながらレイカに抱き着いた。レイカは少し驚きながらも自身の歌を褒められたことを密かに誇っていた。


 次に、様々な楽器を試させた。大きなリュート、小さな太鼓、そしてフルート。レイカは、触れた全ての楽器を、すぐに完璧に弾きこなすことができた。それは、彼女の魔力制御の精密さが、指先の微細な動きにまで応用された結果だった。しかし、レイカの心に残る楽器は、エリスが最後に持ち出した、手のひらより幾分か大きい銀色の小さな竪琴だった。


 レイカがこの竪琴を弾くと、他の楽器の力強く正確な音とは異なり、どこか儚く、優しい音色が響いた。それは、レイカの持つ氷の魔力のように冷たく澄んでいるが、同時に、エリスの純粋な心のような温かさも秘めていた。完璧な音を奏でるレイカが、唯一感情を乗せることに心惹かれたのがこの竪琴だった。


「…この竪琴の音は、他の楽器と違うわね」

レイカが尋ねた。冷たい口調ではあったが、その目には明確な興味があった。

「はい!これは、私が初めて自分の魔力で精製した銀で作ったものなんです。そして、竪琴の弦は、少しでも気持ちが動くと、澄んだ音色を奏でるんです。…これ、レイカ様にお贈りします」

エリスはそう言って、レイカに差し出した。

「レイカ様が誰かと心を通わせたいと思った時、誰かを優しく慰めたいと思った時、これを使ってください。レイカ様の美しい魔法の冷たさではなく、その奥にある優しさを伝えてくれます」

エリスは真っ直ぐにレイカの青い瞳を見つめ、熱を込めて言った。

「音楽は、いつの時代も、どこの国でも、人々と心でつながるための鍵になるんです。レイカ様は、たくさんの世界を救わなきゃいけないから。武器ではなく、この優しい音色を、持っていってください!」


 レイカは、竪琴を受け取った。銀の表面は冷たかったが、エリスの熱い思いがレイカの心に届いた。レイカは、ローブの下にそっとそれを隠し、誰もいない時に、この竪琴を爪弾き、歌を歌った。彼女の冷たい指先が弦を弾くたび、竪琴は優しく、澄んだ音を奏でた。それは、レイカの孤独な旅立ちを前に、唯一の温かい贈り物となった。

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