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社畜転生 〜魔物と為りて世界を覇す〜  作者: ただの酒呑み
第1章 魔族ゼルド顕名編
9/28

9.崩壊する前線

 ゼルドやガルザークの奮戦により、魔王軍は快進撃を続けていた。


「なんだあの黒炎は……!」

「このオークめ!凄まじい大地魔法だ!」


 敵陣は蹂躙され、魔物の歓声が荒野を揺るがす。

 目的地の都市イシュタルはすぐそこだ。


 誰もが「今日の勝ちは揺るがぬ」と信じて疑わなかった。


 だが、その確信は――たった一人の騎士によって粉砕される。


「来たぞ……聖騎士団の幹部、ジルベルトだ!」


 前線の叫びが伝播した瞬間、戦場の空気が変わった。


 白金の甲冑を纏い、巨剣を携えた男が歩み出る。その足跡から血泥が消え、純白の道が伸びる。

 まるでこの戦場そのものが、彼の到来を歓迎しているかのように。


「……今日は雲行きが怪しいな。指揮官の私自らが戦況を変えてやろう」


 ジルベルトの声は確信に満ちていた。

 荒れ狂っていた魔物どもは、彼の姿を見ただけで後ずさりする。


「防衛戦の要……"逆律剣"ジルベルト・ピーター・リンチ……!」

「聖騎士団の中でも三本の指に入る男だ……!」


「怯むなァ!俺たちバロッサ隊が押し返す!」


 吼えたのは上級魔物ーーバロッサ。粗暴だが部下想いの大隊長は巨腕を振り抜く。


「"轟腕崩破(ごうわんほうは)"ッ!!」


 拳から圧縮された衝撃波が螺旋のごとく走り、前列の人間兵列を木端微塵に砕いた。血が飛沫となって舞う。


「どうだジルベルト! これが俺の拳だ!」


 勝ち誇るバロッサに、ジルベルトはゆっくりと歩み寄る。剣を抜くでもなく、ただ視線を送るだけだ。


「……悪くない。だが――ここは私の"逆律領域(ぎゃくりつりょういき)"だ」


 ジルベルトが剣を一振りすると、周囲の空気が軋むように歪んだ。

 人間側もまた、強者は魔法を操る。


 バロッサが再び魔震豪裂を放つ。

 拳が空気を裂き、衝撃波が走る。


 ーーしかし次の瞬間、衝撃は逆流するかのように反転し、放った者自身めがけて跳ね返った。


「ぐあっ……な、何だと……!」


 バロッサの胸を己の衝撃が貫き、巨躯が大きくのけぞる。膝をついたところへ、ジルベルトは容赦なく斬り掛かった。


「がはッ……!」


 巨体が裂かれ、部下の目の前でバロッサは崩れ落ちる。


「バロッサ様ぁぁッ!」

「嘘だろ……。あんな、いとも簡単に……!」


 ジルベルトは声を張り上げた。

「皆!魔物などこの程度に過ぎん!いま一気に畳み掛ける!」


 頼みの綱を失ったバロッサ隊は一瞬で瓦解した。

 数百の魔物が悲鳴を上げ、散り散りに斬り伏せられていく。


 続いて――名を知られる鉄壁の中隊、古参の狼牙隊、血煙を上げる砲兵隊。

 彼らが次々と前に出たが、結果は同じだった。


 ジルベルトの逆律領域は、放たれる魔法をそのまま反転し、術者の意図を己へ返す。上級の魔法を封じられた魔王軍は次々に切り捨てられていった。


「なんだあの剣は……!」

「魔法も、武器も、効かない……!」


 怒号はやがて悲鳴に変わり、戦意が霧散していく。

 優勢だった魔王軍は、ジルベルトが前線に立って以降、気づけば上級部隊三隊を失っていた。


 数的有利を取り戻した人間側は勢いづき、今や戦を終らせにかかる。


「敵の指揮官は魔族ナディーンだ!見つけ出して首を取れ!」


 魔王軍の勝利の太鼓は、いつしか敗走の鐘のように聞こえる。


 ――そのときだった。


 暗天を切って、漆黒の翼がひらめいた。

 丘の向こうから、黒炎を纏った一人の男が降り立つ。


 彼に導かれるように、千を超える魔物の群れが雪崩れ込んだ。


「あちらの敵は潰した。面倒だ。さっさと指揮官を連れて来い」


 ゼルドが冷たく言い放つと、ゼルド隊とガルザーク隊が咆哮と共に武器を掲げた。


 それを見たジルベルトが、眉を寄せて最前線に出る。

 剣を構え、白いマントが微かに翻った。


「……おい、魔物。図が高い。降りて来い。私が直々に相手をしてやる」


 ゼルドは満面の笑みを浮かべて答えた。


「見るからにエリート様だ。いいだろう。人間が如何に卑小な存在か、思い知らせてやる」


 夜空に黒炎が揺れ、二つの視線が戦場で交差した。

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