7.七大魔将ナキ
戦の後、数日が経った。
村の広場に魔物たちが集められ、昇格の儀が行われる。
壇上に立つのはガルザーク。その背後に俺とラグが並んでいた。
「この戦で最も功を挙げたのはゼルドとその小隊だ」
ガルザークの野太い声が響く。
「本来ならば順序を踏むべきだが……俺は魔族様に掛け合った。ゼルドの力は中級に収まらぬ。よって本日より――上級魔物に昇格とする!」
途端、広場が騒然となる。
下級は驚愕し、中級は顔をしかめた。
どうやら異例の昇格らしい。
共に戦った小隊の者たちは万歳を叫び、目を輝かせていた。
「また……! 敵将を討ち取った功により、ラグを中級に昇格させる!」
今度は方々から歓声が湧き上がる。
凡庸な男の成り上がりは、卑屈だった下級どもに強い希望を与えた。
導いた俺は崇拝の対象――思惑通りだ。
その他、古参の魔物二名が中級に昇格し、儀は幕を閉じた。
「……先日拳を交えた時、俺は過小に評価したようだ。ゼルド、強い隊を作れ。貴様ならば魔族にも手が届くかもしれん」
俺はゆっくり頷き、ガルザークが突き出した腕に、自分の腕を重ねた。
その後、祝勝の宴が始まった。火の粉が舞い、笑いと酒の匂いが広場を満たす。
「こ……これがお酒……」
ラグが不思議そうに杯を見つめる。
下級に配られることは少なく、彼にとっては初の酒だった。
「グイッ!」
一口呑んだ次の瞬間。
ラグは顔を真っ赤にして、立ち上がった。
「俺は中級だーっ!」
「黙れラグ! 身の程を知れ!」
「ゴブリンごときが! 調子に乗るな!」
酔ったラグが裸で暴れている。
奴は意外と力が強いらしい。中級数人で止めに掛かっていた。
俺は杯を傾けながら考える。
――足場は固まった……だが、これはまだ入り口に過ぎない。
その時だった。
――ドォンッ!!
空が裂けるような轟音。
瞬間、赤黒い光が村を覆い、烈風が広場の屋台や木々を吹き飛ばした。
上空から、巨大な影が炎を纏って急降下する。
地面が爆ぜ、直撃の中心にいた下級魔物が数体、肉塊となって潰れた。
血の霧が広がり、宴は一瞬で凍り付く。
誰もがその姿を仰ぎ見た。
赤黒の甲冑に身を包み、深紅の長髪をなびかせる長身の魔物。
その切れ長の眼は燃え上がる刃のようで、口元には好戦的な嗤い。
酔っていたはずのラグが顔を伏せ、声を震わせる。
「……な、七大魔将……“炎帝”ナキ様……!」
広場の魔物たちは一斉に膝を折り、頭を地につけた。
ガルザークでさえ歯を食いしばり、額に汗を滲ませている。
目に映った瞬間に理解した――。
こいつは他の魔物とは訳が違う。
これが七大魔将。
存在そのものが、支配と破壊の象徴だ。
ナキは赤黒のマントを翻し、真っ直ぐに俺の方へ歩いてくる。
周囲の魔物たちは無言で道を開けた。
眼前に立ったナキが、嗤い混じりに言った。
「おい、そこのお前。名は何という?」
俺はナキの眼を真っ直ぐに見て答える。
「……ゼルドだ」
「そうか……良い名だ。先日の戦、遠視水晶を通して見ていたぞ。お前……本気を出していなかったな?」
背筋が粟立つ。――見抜かれている。
「翼の一振りで軍列を吹き飛ばせる力を隠し、小隊の功績に譲った。この場は自分に相応しくないと示すように……」
そして、ナキは豪快に嗤い、大剣を地に叩きつけた。
大地が裂け、近くの下級が悲鳴を上げて逃げ惑う。
「良い! お前は魔族になれる器だ! だが――今すぐではつまらん」
深紅の瞳が、爛々と燃え上がる。
「近く、人間共の交易都市ーー"イシュタル"を堕とすべく、我が配下が戦を起こす。そこで隊を率い、圧倒的な戦果を残せ」
「そうすれば、俺の名で魔族へ昇格させてやろう」
広場が騒然とする。
誰もが俺を見つめ、次の言葉を待っていた。
俺は杯を置き、一歩前に出あ。
「……いいだろう。見ていろ、七大魔将ナキ。必ずや、お前を満足させる」
ナキの嗤いは更に深くなる。
「いいぞ、ゼルド! その野心、俺は嫌いじゃない。次の戦を楽しみにしているぞ!」
赤黒のマントを翻し、夜空へと飛び立つナキ。
残されたのは、血の匂いと、絶対的な恐怖ーーそして興奮だった。
俺は静かに拳を握る。
――魔族への道は、次の戦で切り開く。力と知恵、両方でな。




