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社畜転生 〜魔物と為りて世界を覇す〜  作者: ただの酒呑み
第1章 魔族ゼルド顕名編
6/28

6.完全勝利、征服の前触れ

 戦場では呻き声と断末魔が混じり合い、まさに地獄だった。


 俺たちの小隊は必死に踏みとどまっていたが、敵は粘り強い。

 人間兵の盾列は未だ健在で、槍の穂先がこちらを何度も貫こうと迫ってくる。


「ぐっ……!」


 ラグが肩を掠められ、血を滲ませる。隣の魔物は喉を突かれ、絶命した。

 残った者たちの目には、闘志と恐怖が同居している。


 ――俺はというと、途中から加減して戦っていた。


 背の翼を全開にして風を起こせば列は崩れ、腕を振れば敵は簡単に砕ける。

 この程度の戦であれば、俺一人で大半を殺せることがわかった。


 だが、それでは俺の名だけが戦場に刻まれる。

 "ゼルド小隊の戦果"とはならず、忠誠の広がりは見込めない。

 勝利の主体を組織に置く――それが長期的な支配を生む。仕事と同じことだ。


 何より、戦がどのように展開されていくのか、見ておきたかった。


 自分の力に頼るだけでは、今後の戦いは危ういはずだ。

 指揮官としての想像を巡らせる機会にもしたい。


 そんな折、戦場の奥に華やかな兜を戴いた兵が顔を出した。

 金の装飾が夕陽に反射し、隊を纏めるその姿は指揮官の象徴。

 彼の声一つで人間の列は再び整い、勢いを取り戻す。


 ――俺が殺してやってもいいが……これしきの手柄は部下にくれてやろう。


「ラグ、見ろ。あれが敵の兵長だ。奴を討てば、この戦は終わる。そして奴を討った者は……ガルザーク隊の英雄だ」


 ラグの眼を直視する。恐怖と期待が交差している。


「……英雄には、さぞ美味い肉が待っているぞ……?」


「……う、うわあああっ!」

 ラグは一心不乱に駆け出した。


 俺は後ろから舞台を整えた。


 突風により敵の矢を落とし、隊列を乱す。

 小隊の者が危機に瀕すれば、その周辺の兵士を屠る。


 目立つほどの衝撃は与えない──だが、確実に牙城を崩していく。


 そして……真っ直ぐに駆け込んだラグが、兵長の目前に躍り出た。見るからに力の差は歴然だ。


 兵長は余裕綽々と前に出て、黄金の刃をラグに振るう。


 刹那。俺は近くにあった弓を投擲。兵長の足に突き刺す。

 バランスが崩れ、刃の軌道が外れるーー。


 ラグが叫び、渾身の一撃を振るった。

 金の兜が弾け、血が弧を描き……首が地に落ちる。


 戦場が静止するような瞬間だった。


 静寂の後、徐々にざわめきが広がる。

 ラグは血まみれの剣を握りしめ、震えながらも立ち尽くしていた。瞳には恐怖ではなく、強い誇りが宿っている。


 俺は大声で叫んだ。


「聞け!この戦場で敵の兵長を討ったのは、俺ゼルドの小隊だ!……この戦は魔王軍の勝ちだ!」


 声は乾いた風を伝って広がった。

 下級どもが次々と雄叫びをあげ、前に出る。

 人間兵たちは動揺し、一気に後退していった。


 ガルザーク隊の完全勝利で終息した後、周囲の中級魔物たちはざわめいていた。


「無名の下級が、敵の指揮官を討っただと……!」

「いや…仕立てたのは、あのゼルドという新参だ…。あいつは何者なんだ……」


 その時だった。


 地を揺らす足音。戦場の奥から、巨躯の影が歩み寄ってくる。ガルザークだ。

 両腕を組み俺たちを見下ろす。


「……なるほど。期待以上だ」


 ガルザークの紫の瞳が俺を射抜く。


「ゼルド、よくやった。だが忘れるな。これは始まりに過ぎん。戦果を重ね、血を流し、ようやく名は刻まれる。お前が上を目指すというなら……その道は地獄より険しいぞ」


 脅しにも似た声。だがその奥に、確かな信頼を感じる。


 俺は笑みを浮かべ、答えた。

「望むところだ。地獄でも何でも渡り切り……俺は頂点に立つ」


 それを聞いていた下級魔物たちが膝をつき、頭を垂れた。小隊以外の者も大勢いるようだ。


 代表したラグの声が、震えながら響く。


「ゼルド様……俺たちは、どこまでもあなたについていきます」


 血に濡れた夕陽の中、俺は確信した。

 ――今日ここに、俺の支配は始まった。

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