4.上級魔物との邂逅
▪️魔王軍体制
・魔王
・七大魔将(それぞれが十万体規模を掌握)
・魔族(一万体規模を掌握)
ーー以下が魔物
・上級魔物(五百-千体規模を束ねる)
・中級魔物(百体規模を束ねる)
・下級魔物(最下層、細かくは更に階級あり)
黒鉄の腕輪を嵌めた俺は、村の広場に立ち、深刻な面持ちで考えていた。
ーーああ、腹減ったな。昨日から何も食ってねえな。魔物って何食うんだ。吉野家ないのか…。
広場ではざわめきが走っている。徴兵所での一幕を見ていた野良や下級たちが、恐る恐る視線を寄越す。
翼を広げただけで魔王軍に入った存在――それが彼らにとっての俺、ゼルドだ。
「……すごい。あの中級が、あそこまで怯えるなんて」
ラグが震え混じりの声で呟いた。
だがその直後、重く響く足音が村に迫った。
広場の端。石造りの建物の影から、巨躯の魔物が姿を現す。
立派な毛皮。額に湾曲した一本角。
両腕には鎖のような筋肉が絡み、深紫色の目が鈍く光る。
――オークというやつか。
「……あれは」
ラグが顔を伏せて囁く。
「この村出身の上級魔物、ガルザーク様です……八百を従える大隊長」
上級ーーこんなに早く出会えるとは。
ガルザークは一瞥しただけで俺を射抜くように見据えた。
「……新顔だな。翼に鱗。下級の風貌ではないが……何者だ」
その声は地響きのように重く、広場全体に圧を撒き散らした。
俺は一歩踏み出し、静かに答えた。
「名はゼルド。今日、魔王軍に加わったばかりだ」
「……ゼルド」
その名を転がすように呟き、ガルザークの口元に不敵な笑みが浮かぶ。
「面白い気配を持っているな。だが、魔王軍は遊び場ではない。力を示さぬ者に居場所はない」
周囲が凍り付く。試すつもりだ。
俺は肩をすくめ、口の端を歪めた。
「力、ね。……なら見せてやろうか?」
背の翼をわずかに広げただけで、突風が土埃を巻き上げる。
ガルザークの瞳が細くなった。
次の瞬間、地面が揺れた――奴が一気に踏み込んだからだ。
俺の目前に迫った巨拳を咄嗟に受け止める。
掌と掌がぶつかり合い、空気が爆ぜた。
刹那、考えが巡る。
ーーあれ…?全然強くないな。
しかし今こいつを殺しても、旨味はないはず。
一旦は引き下がってやるか……。
俺が力を弱めた瞬間、ガルザークも拳を引き、静かに笑った。
「……なるほど。新参にしては上等だ。だがまだ、上級の域には届かん」
挑発めいた言葉。しかし、その目には確かに“認める色”が宿っていた。
ガルザークは背を向け、低く言い放つ。
「早速部隊に配属してやる。初陣で血を流せ。……生き残れたなら、その名をもう一度呼んでやろう」
そう言い残し、威圧感を背に去っていった。
静寂が訪れる。広場にいた魔物たちが一斉に俺を見た。恐れと畏敬の入り混じった眼差し。
……悪くない。
最短で頂点に行くには、こうして目立ちつつ、上に取り入るのが一番だ。
ラグたちが恐れながら駆け寄る。
「ゼルド様……あなたは一体……」
順調な出だしに満足しつつ、一方由々しき問題があった。
「……腹が減った」
「……!少々お待ちを……!」
俺の声に慌てて用意されたのは……腐りかけた肉と一握の木の実。水すら濁っている。
「お前たちは普段こんなものを食っているのか……」
ラグは俺をちらっと見て、悔しそうに答える。
「肉は……滅多に食えません……」
――この村なりのご馳走というわけか。
どうやら、こちらの世界の格差は想像以上のようだ。
あのガルザークの体躯を見る限り、強い者は満足な生活が出来ているのだろう。
俺は異臭のする肉を噛みちぎり、宣言した。
「ラグ……安心しろ。こんな世界は俺が正してやる。……次の戦を見ておけ」
ろくに喧嘩もしたことがないのに、不思議と自信が漲る。
弱かった人間時代の反動なんだろうか。
「ゼルド様……!」
ラグたちの期待の眼差しを受け止めつつ……俺は肉を吐き出した。
「臭えっ!」




