3.徴兵の黒鉄紋ーー我が名は"ゼルド"
翌朝、俺はラグたちを伴い、荒野の奥にある魔物の村へ向かった。
「……着きました。ここが俺たちの村です」
ラグの声に導かれ、石塀に囲まれた小さな集落が見えた。掘っ立て小屋と、煤まみれの道。
そこかしこに、痩せ細った魔物たちがうずくまり、怯えた目でこちらを見ていた。
ラグが声を潜めて説明する。
「魔王軍に入れるのは、下級魔物以上の力を示した者だけです。ここにいる連中は……いわば“野良”です。軍に拾われず、使い潰されるのを待つだけの存在」
足元に転がる骸骨のような影を見下ろしながら思う。ここでも「強さ」が生死の資格を決める。
やがて村の中央にある広場へ出た。
そこで俺は再び問いを投げかけた。
「昨日の話を整理しろ。魔王軍の階級、もう一度説明してくれ」
ラグは姿勢を正し、部下たちも怯えながら耳を傾ける。
「はい。最上位はもちろん魔王。その下に最強格である“七大魔将”がいます。彼らは魔族の中でも特別な存在……」
……七大魔将。なかなか手強そうだ。
「その配下に一般的な"魔族”がいて、領地を与えられます。彼らも本来、我々と同じ魔物ですが、魔族になった途端、魔物と呼ぶことは禁じられ、別格となります」
「ふむ……そして魔物は?」
「魔物の中でも階級は細かく分かれています。まず魔族の直下に"上級魔物”がいて、大隊規模を率います。次が“中級魔物”で分隊長格」
「その下が我々"下級"。最下層ですが……ここにも小さな上下はあります」
なるほど、大体理解できた。やはり会社のように確りとした指揮系統があるわけだ。
▪️魔王軍体制
・魔王
・七大魔将(それぞれが十万体規模を掌握)
・魔族(一万体規模を掌握)
ーー以下が魔物
・上級魔物(五百-千体規模を束ねる)
・中級魔物(百体規模を束ねる)
・下級魔物(最下層、細かくは更に階級あり)
「じゃあ、ここでうずくまってる野良魔物は?」
ラグは眉をひそめ、声を落とした。
「……奴らは魔王軍に属する力すらない。徴兵されれば囮や奴隷兵にされるだけです」
側にいた痩せた魔物の子供が、苦しそうに呻く。言葉すら喋れないのだろう…。
その無力さに、胸の奥が妙にざわつく。だが同時に、冷たい計算も働く。
――生活基盤を与えれば、こいつらも従う。頭数を揃える最短ルートだな。
広場の一角に、魔王軍の徴兵所があった。黒鉄の看板に刻まれた紋章。
粗末な机の後ろで、中級魔物らしき鎧姿が書類を睨んでいる。
「新参か?」
俺を見上げた瞬間、その瞳が驚愕に染まった。
背の翼と鱗に気づいたのだろう。
「……野良の姿ではないな。貴様、何者だ」
俺は静かに笑って答えた。
「名乗るほどのものじゃない。ただ役には立てるはずだ。魔王軍に入れてくれ」
「……おい貴様!何者か知らんが、中級の私に向かって何たる口ぶりだ!」
立ち上がった奴を制するように、俺は翼を広げた。 すると突風で背後の石壁に亀裂が走る。
「ひえっ……!」
中級の眼に恐怖が映った。
「とにかく……魔王軍に入れてくれればいいんだ」
後ろにいた魔物は唖然とし、慌てて書類を取り出した。
一式を纏めた中級が、平静を装うように聞いてくる。
「それで貴様…名は何という?」
「ふっ俺の名か……」
……あーーやべ、考えてなかった。
人間時代の本名は嫌だし、んーーそうだな。
「……ゼルドだ。我が名はゼルド」
俺は紙に爪痕のような署名を刻み、黒鉄の腕輪を受け取った。下級魔物の印らしい。
これで俺も……魔王軍の一員か。
視界に広がるのは、まだ貧しい村。
だが俺の眼には、すでに一国を築く未来が映っていた。
「よし。これで道が見えた。野良も下級も関係ない。俺の下に来るなら全員使ってやる」
その言葉に、ラグたちは膝をつき、頭を下げる。
俺は満足げに笑った。
「征服の始まりだ」




