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社畜転生 〜魔物と為りて世界を覇す〜  作者: ただの酒呑み
第1章 魔族ゼルド顕名編
23/28

23.滅びの鐘、鳴り響く

 ――それは、天が裂ける音だった。

 イシュタル上空に現れた巨大な影。


「ゼルド様っ……! あれは……!」

 ラグの声がかすれる。


 老学者ミルカスが瞳を細めた。

「……“魔王の使者”、ですな」


 ――バサッ!!バサッ!!


 轟音と共に舞い降りた黒鳥は、瞳を鈍く光らせ、低く告げた。


「……魔族ゼルド。魔王陛下より、緊急召集である」


 エリスとザイオンが息を呑む。

「魔王……直接、ですか?」

「……聞いたことがないぞ」


 ーー“魔王”。

 魔物の頂点に君臨し、この世界で最も恐れられる存在。


 こんなに早く出会えるとは思っていなかった。

 だが間違いなく、名を上げる絶好の機会だ。


「少し出る。留守を頼む」

 そう言い残し、ゼルドは黒鳥とともに姿を消した。


 気が付くと、そこは闇の宮殿。

 ――魔界中枢、永劫の殿堂(アビュソス・ドーム)


 ゼルドが到着した時には、すでに多くの魔物がいた。

 知らぬ顔ばかりだが、おそらく全員が魔族――それも、強者の集まりだ。


 中央には四名の魔物が座していた。

 彼らは“魔将”と呼ばれる別格の存在。


 “轟破”ドルガント・ネメシス。

 地脈のような傷を全身に刻み、腕を組む。


 “妖織”マルフィーナ・チャム・カーリマ。

 長い髪を床に垂らし、ゼルドを熱く見つめる。


 “炎帝”ナキ・オーディンソン。

 紅蓮の髪を靡かせ、堂々と居座る。


 “虚鏡”モルディア・ヘラ。

 真っ白な仮面をつけ、静かに佇む。


「七大魔将が、実に四名……」


 側で呟いたのは、“賢者"ナディーン。

 イシュタル侵攻戦を率いた、ナキ配下の魔族だ。


「……早くも登ってきたな、黒炎のゼルド」

「その節はどうも、ナディーンさん。……ところで何だ、この会合は?」


 ナディーンはゼルドの顔を見ずに答える。

「……何を言っておる。火種は貴様だ……」


 他にも、各地を治める上級魔族たち。

 その全てが、ゼルドを“異端”の眼で見ていた。


「奴がゼルド……。黒炎を操る新参魔族」

「あの“氷牙”を葬った男か……」

「……人間と共生しているなど、なんと汚らわしい」


 ざわめく空気を沈めたのは、中央で座していた七大魔将――ナキ。


「ようやく来たか、ゼルド!」


 威圧感を纏い、満面の笑みを浮かべて近付く。


「お前、八闘剣の一角を葬ったそうだな。しかも“氷牙”を! 見事だ!」


 途端、ナキの周囲から業火が立ち上る。


「俺の眼は間違ってなかった……! おいゼルド、今ここで殺り合おう。俺に勝てば、お前は七大魔将。悪くない話だろ!」


 そう言って眼を輝かせた次の瞬間――ナキはゼルドへと飛び掛かった。


 ゼルドも咄嗟に翼を広げ、構える。

「黒炎……!」


 だが、ゼルドが繰り出すより早く、巨大な拳がナキの顔面を捉えた。

 体ごと叩きつけられ、地面が割れて振動が走る。


 拳の主は――七大魔将ドルガント。

「……場をわきまえろ。直に御方が来られる」


 ナキが無傷で立ち上がり、紅色の眼を光らせる。

「相変わらずの魔力だな、ドルガント! そうだな……久々にお前と戦るのもいい……!」


 そのときだった。


 風が止まり、闇が膨張した。

 すべての音が遠ざかり、光が押し潰されるように消える。


 玉座の空間が歪み、異空間と接続する。

 その中から、ただ一つの“存在”が現れた。


 見た瞬間、すべての魔族が膝をついた。

 ナキも、ドルガントも例外ではない。


 ただ一人、ゼルドだけが、静かに片膝をつき、顔を上げていた。


 歪んだ空間の間際。闇が徐々にを取る。

 漆黒の輪郭の内側で、冷たい瞳がゆらめいた。


 ナディーンが小さく呟く。


「……魔王……"アトラ=ヴェルゼ"様……。万魔を統べる王にして、この世の絶対……」


 その名を聞いた瞬間、ゼルドの皮膚に“刻印”のような痛みが走った。

 存在を名で支配される感覚。


 これが――魔王。


 ゼルドはわずかに息を吐き、己の黒炎を抑え込んだ。


 玉座に腰掛けたその姿は、影のようでいて形を持たない。

 だが視線が動くだけで、世界が軋む。


 魔王は全体を一瞥してから、静かにその声を発した。


「……八闘剣の一人を葬り、世界の均衡を崩した者よ。名はゼルド、であったな」


 ゼルドは片膝をついたまま応じる。

「……いかにも。お会いできて光栄です、魔王様」


 宮殿内の空気が固まった。

 ドルガントがゼルドに視線を送る。


「見事だ。その功は称えよう――。だが同時に、貴様の行いは“異端”でもある」


 ざわり、と魔族たちの気配が動く。

 ナキが口の端を上げ、マルフィーナが面白げに瞳を細めた。


「人間を支配せず、共に住まう……か。黒炎のゼルド。貴様は魔族の矜持を忘れたのか?」


「いいえ」

 ゼルドの声は静かだった。


「支配とは、ただ滅ぼすことではない。生かし、使い、秩序を築くこと。私はそれを試みているだけです」


「秩序、だと?」

 魔王の声が、わずかに低くなる。


「愚かな……人間どもに秩序など不要。奴らは我に滅ぼされるだけの存在だ」


 沈黙。

 ゼルドの瞳が、かすかに揺らめく。

 その揺らぎを、魔王は見逃さない。


 玉座を中心に、宮殿全体の空気が震えた。


「――八闘剣が死に、滅びの鐘は鳴った。我が軍勢は動く。世界は再び、魔の支配下に戻るのだ」


 その言葉が落ちた瞬間――方々から殺気と歓喜が沸き起こった。


「おお……ついに……!」

 最初に声を上げたのは、ナキだった。紅蓮の炎が燃え上がり、彼の笑みが獣じみる。


「これでようやく、火の雨を降らせられる!八闘剣を焼き尽くす時が来た!」


 マルフィーナは艶やかに唇を歪めた。

「ああ……。沢山の悲鳴と絶望を抱きしめられる……」


 ドルガントはただ拳を鳴らし、モルディアは無言のまま悦に浸る。


「七大魔将は至急各軍を整えろ。先陣は“朱喰”ラズナーに任せる」


 魔族たちが次々と頭を垂れ、殿堂の床にひれ伏した。


「人界は崩壊へ向かう。さあ、新たな“夜明け”だ」


 その瞬間、世界の理が、静かに軋んだ。

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