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社畜転生 〜魔物と為りて世界を覇す〜  作者: ただの酒呑み
第1章 魔族ゼルド顕名編
2/28

2.破壊衝動は腹の底で目を覚ます

 日が落ちきらぬうち、荒野の風が肌を撫でた。

 頭が潰れた屍を背に、跪く数体の魔物をざっと見渡す。


 奴らは互いに目を伏せ、誰も口を開こうとしない。

 恐れと迷いが混ざった空気だ。


 ――ちょっと強く言ってみるか……。


「名と役割を言え。ちなみに。話す内容に嘘があれば……殺す」


 それっぽく低い声が出た。

 自分が急激に冷徹になっていく感覚。


 緑色の細面をした魔物が、躊躇いながらも前に出た。

 "ゴブリン"ってやつかな?


「……ラグと言います。俺たちは下級の魔物です。行軍と見回りと、補給の残りをすする日々です」


 ラグの言葉は短い。だが重みがある。

 背後の者が少しだけ身体を寄せるのが見えた。


「"下級"?どういうことだ?この世界にはどんな階級があって、誰が権力を握っている」


 魔物たちは皆驚いたような表情を見せる。


「……何も知らないんですか?あなた、どこから来たんですか?」


「いいから知っている事を全て話せ」


 ラグは頷き、淡々と話し始めた。

「世界は二分されていますーー魔物と人間。魔王軍と人間軍が日々激しく争い合っている」


 なるほど……定番の世界観だ。


「魔王軍には色々階級があり、魔王直属の者だけが"魔族”を名乗れます。魔族は勝手に名乗れるものじゃない。力と知性を示して、上位魔族に認められる必要があります」


 言葉の一つ一つが、この地の残酷な秩序を立体化する。


「俺たちはこの地域一体を治める魔族の軍に属しています。そこで死んでいるものが、我々の小隊長。彼も含め、小隊全員が下級の魔物…最下層です」


「魔王直属か……つまり、魔族になり更に階級を高めれば、権力を一度に掴めるってわけだな」


 ラグは小さく頷く。だがその目には諦めが漂っている。


「しかし魔族になる事は簡単ではありません。小隊長は昇格試験に何度も落ち、我々に苛立ちをぶつけていました。夜間の無意味な見回り、配給の遅延、暴力。俺たちは人形です。死ぬか、壊れるか」


 耳に入る語彙は、俺が以前に味わったそれと同じ匂いがした。


 終電、未払い、消費される時間――会社の蛍光灯の下で擦り切れた日の数々が一斉に胸中に蘇る。


 そしてラグの最後の言葉が冷たく脈打った。


「人間側は“八人の英雄"を頂点に、連邦国軍を組んでいます。だが彼らも政治の道具だ。国は利権で動き、聖職者は伝説を食い潰す。どこも似たようなものです」


「ドンッ!」


 急に岩肌を殴った俺に、ラグたちが怯える。


 話を聞いていて、唐突に思ったのだ。

 ――俺の力で、全部ぶっ壊してやりたい……。


 社畜として潰され続けた日々の恨み、無意味なルールへの嫌悪、それらが混ざり合って、純粋な破壊衝動になっていた。


 何かを滅ぼすことで初めて得られる高揚。

 今、裸でそれを認める自分がいる。


「お前らはどう生きたい?」


 問いは単純だが、答えはもっと単純だった。

 ラグは少し躊躇した後、答えた。


「眠りたい。飯を腹一杯に食いたい――そんな平凡がほしいです」


 嘘偽りのない言葉だ。


 なるほど、仕組みは今までの世界と変わらない。

 持たざる者が奪われ、疲弊し、不満を溜め込んでいる。


 革命の旗を立てるには、多くの頭数が必要だ。

 その為にはーー"奪いつつ与える"。


 魔族としての地位を得て、魔王軍の回路を奪う。

 力で階層を踏み越え、制度を自分の意志で書き換える。


 人間側に媚びる時間は無駄だ。


 俺は静かに言った。


「よく眠り、たらふく飯を食べたければ、まず俺に従え。従うなら満足な生活を保障する。だが裏切れば、死ぬだけだ」


 彼らの目に、恐れと希望が同時に映る。


 遠くで獣が吠え、夜が深まっていく。

 俺の胸の中の衝動は、もう理性的な説明を要さない。


「よし、決めた。俺は魔族になる。お前らも付いてこい」


 返事は無い。

 だが、四体の影が、ゆっくりと近づき、俺の周りに固まった。


 俺は一人静かに笑った。

 破壊と支配の均衡を握るために必要なのは、力と意志と――何より、恐れを操る冷酷さだ。


 世界を壊して作り替える道は始まったばかりだ。

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