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社畜転生 〜魔物と為りて世界を覇す〜  作者: ただの酒呑み
第1章 魔族ゼルド顕名編
18/28

18.黒炎vs氷牙ーー支配か誇りか

 前線に立った白銀の剣士。

 八闘剣の一角――“氷牙”カリス・ウィルバーン。

 美しく冷たい顔立ちの下に、抑え込んだ怒りが燃えていた。


 ゼルドが皮肉を込めて言う。

「八闘剣が、これしきの戦に姿を現すとはな。……なぜ来た?」


「……黒炎の噂を聞いた。生物の営みを奪い、未来を焼き払う力だと」


 カリスはゼルドを真っ直ぐに見つめる。


「これ以上、貴様の侵攻を許せば、人々は明日への希望を失う。だから俺が来た。ここで――貴様を殺す」


 その声は透き通る氷の刃のように響き渡り、黒炎の脅威に怯えていた兵士たちの胸に、わずかな光を戻す。


「大層な言い方だが――戦の本質は奪い合いだ。その中での善悪など、ただの自己満足。そして人間も魔も、真の“救い”を理解していない」


 ゼルドは翼を広げ、漆黒の焔を噴き上げる。


「救う為に先ず焼き尽くす。正義も枠組みも、この世界ごと――!」


 次の瞬間。ゼルドが仕掛けた。


「……黒炎!」


 放たれた炎が竜巻のように戦場を飲み込む。

 触れた物体は瞬時に灰と化し、空気そのものが唸って裂ける。


 だがカリスは微動だにしない。蒼剣を静かに振り抜く。


「"氷華(グレイシャル)葬送(・レクイエム)"」


 氷の花弁のような斬撃が幾千と咲き乱れ、黒炎を受け止めた。

 花弁は触れては蒸発し、消えた場所からまた無数に舞い上がる。


 「燃えるより早く、凍らせればいい」


 黒炎の"抹消"に抗う為の"絶え間ない供給”――。


「……ほう。さすが八闘剣。ならこれはどうだ」


 ゼルドは指先に黒炎を収束させ、圧倒的な魔力を解き放つ。


「"黒炎竜覇(こくえんりゅうほう)"」


 炎が竜の貌を取り、咆哮とともにカリスへと襲いかかる。

 カリスは剣を構え直し、大地に突き立てた。


「"絶氷(アブソリュート・)(ウォール)"」


 大地そのものが隆起し、氷壁を作り出す。

 黒炎の竜と激突した瞬間、衝撃波が戦場全体を飲み込んだ。


 下級魔物や人間兵は吹き飛び、血と氷片が空を舞う。


 黒と蒼、二つの力が拮抗する光景に、誰もが息を呑んでいた。


「……幾つか問おう、魔族ゼルド」

 カリスの声は澄み渡り、戦場に凍気と共に響く。


「その力があれば、魔王軍に降る必要はないだろう。何を得るために支配を望む?貴様が言っていた"救い"とは何だ?」


 ゼルドは冷ややかな笑みを浮かべて答える。


「……支配とは、秩序と保障だ。今のこの世は力なき者がただ搾取されるだけの腐った構造で満ちている」


 そして何かを思い出し……表情を変えた。


「俺が最も忌み嫌うのは、そんな階層と利権の蠢きだ。だが絶対の力があれば、平等に、徹底して支配できる」


 一呼吸置き、確信に満ちた声で続ける。


「俺が、今の構造ごと燃やし尽くし、代わりに"恐怖による秩序”と“生き延びるという希望”を与える。暴れる魔物も怯える人間も、すべて俺の鎖で繋いでやる」


「そうしてしか、この世界を『救う』ことはできない――それが俺のやり方だ。」


 カリスの瞳が鋭く細められる。


「……違うな。力による支配は恐怖を植え付けるだけだ。恐怖に縛られた民は、やがて誇りを失い、屍同然と化す」


 正義の言葉は揺るがない。


「民の力を信じ、自由な発展を願うべきだ。その自由と安全を護るべく、我々八闘剣がいる」


 ゼルドは肩をすくめ、黒炎を指先に凝縮させながら薄く笑う。


「誇り?英雄気取りの貴様にはわからんだろう。今も人間の大半は、誇りなど持たず、ただ搾取され踏みにじられている」


 黒炎が音を立てて揺らぎ、ゼルドの言葉が戦場に重く響く。


「俺は等しく支配する。恐怖も、希望も。苦しみも、安堵も。生も、死も……。すべてを均しく俺の手で束ねる。それこそが、真の"平等”だ」


 兵たちの背筋に冷たい戦慄が走る。

 ゼルドの声は狂気でありながらも、確かな論理を孕んでいた。


 カリスは冷たく吐き捨てる。


「平等?それはただの暴君の戯言だ。力で従わせる支配に、人は心を委ねぬ。残るのは従属ではなく、反抗の火種だけだ」


「何より――貴様に、どうして人間の心が語れるか」


 ゼルドの笑みは消え、眼光に狂気が宿る。


「……もういい。俺に逆らうものは燃やし尽くすだけだ。貴様が正義の象徴というなら、尚更な――!」


「やってみるがいい!血に汚れた怪物め――!」


 次の瞬間、ゼルドの全身から黒炎が一気にあふれ出す。

 その炎は単なる攻撃ではない。空気や地平を飲み込み、領域そのものを塗り替えていく。


「"灰燼界域(アッシュ・ドミニオン)"」


 空は漆黒に染まり、地は赤黒く爛れた。

 兵士も魔物も、足元から炎に侵され、叫び声を上げて退く。


 だが、カリスも臆しない。

 蒼氷の剣を天に掲げ、静かに呟いた。


「……凍てつけ、永劫の氷よ」


 剣先から奔る冷気は吹雪と化し、砦全体を白銀に染めた。

 大地は凍りつき、時間さえ止まったかのような錯覚を与える。


「"凍絶(フローズン・)領域(エタニティ)"!」


 黒と蒼。二つの界域が激突した瞬間、天地が悲鳴を上げた。


 炎は氷に呑まれ、氷は炎に灼かれる。

 光と影が幾度も反転し、視界そのものが割れるような衝撃。


「……す、すげぇ……」


 誰かが呟いた。

 その声すら、轟音にかき消される。


 怪物と英雄、その闘いが決着しようとしていた。

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