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社畜転生 〜魔物と為りて世界を覇す〜  作者: ただの酒呑み
第1章 魔族ゼルド顕名編
16/28

16.刻印の戦場

 荒野に黒炎の旗が掲げられていた。

 ゼルドが魔族に昇格してから初めての戦。標的は辺境の砦――人間たちの小拠点である。


 魔族には「戦を起こす権利」が与えられており、周辺の魔物を召集することが出来る。


 イシュタルを中心に勢力を広げるには、この砦を落とすことが絶対条件だった。


「集合ーーッ!」


 高台に立つゼルドは、眼下に広がる軍勢を見下ろした。

 黒炎を纏い、漆黒の翼を広げる姿は、兵たちに絶対の畏怖を植え付ける。


「聞け――これから俺たちは、この砦を灰に変える」


 軍勢の胸がぞわりと震えた。

 ゼルドはさらに声を張り上げ、黒炎を掲げる。


「だが、ただ勝つだけでは足りぬ!俺が求めるのは"刻印”だ!肉に、骨に、魂にまで、我らの名を焼き付けろ!」


 その声は荒野に反響し、魔物も人間も震え上がる。


「勝つまでは徹底的に蹂躙しろ!泣き叫ぶ声を喉の奥から引きずり出せ!絶望を与えろ!それこそが我らの戦だ!」


 軍勢は息を呑む。だが、次の瞬間。


「……しかし、勝敗が決した後は殺すな」

 ゼルドの声は冷徹に変わった。


「剣を捨て、膝を折った者は生かせ。俺が欲しいのは死骸ではない。恐怖に震え、己の無力を呪い、なお生き延びた敗者だ。


「生き延びた者こそ、俺の"支配"を最も深く刻まれる」


 静かに笑みを浮かべる。

 その姿は、狂気と理性を兼ね備えた“悪の支配者”そのものだった。


「血と炎で刻め! だが屍ではなく、生きた魂を鎖で繋げ! 死ではなく――“生かされた敗者”をもって覇道を築く!」


 軍勢から咆哮が巻き起こった。

 恐怖と興奮、残虐と忠誠が入り混じり、兵たちの目が狂気に染まっていく。

 

 数秒後。角笛が鳴り響き、両軍が衝突した。


「突っ込めぇえッ!」

 角鬼族の戦士が盾列を粉砕し、人間兵の血と骨を撒き散らす。


 戦場にはイシュタルに住む魔物も召集されていた。


「影盾、展開」

 冷徹に命じたのは、鳥の姿を持つ魔物――グレンダ。


 翼を広げ、槍を閃かせ、影盾の兵が一斉に動いた。

 抵抗する人間兵を次々と串刺しにしていく。


「……なんだこいつら!速すぎる!」


「逃げるな。影盾の目からは誰も逃れられない」

 そう言って兵の首を刎ね、滴る血を翼で払った。


 別の戦列では、岩巨人族の石工長――ザイオンが進軍する。


 普段は工匠局を束ねる寡黙な石工。

 だが戦場では巨体そのものが兵器だ。


 片腕で大岩を引き抜き、人間兵の陣に投げ込む。

 砕けた石片が飛礫となり、兵をまとめて押し潰す。


「……だめだ……死ぬ」

「こんなの無理だ……」


 戦場は地獄と化した。

 血の霧が舞い、肉片が飛び、鉄の響きと悲鳴が渦を巻く。

 

「もっとだ!壊せ!蹂躙しろ!」


 ゼルド自身の隠し切れない破壊衝動――。

 それに呼応し、兵たちは狂気に飲まれ、残虐さを増していく。


 やがて砦の防衛線は崩壊し、人間軍は総崩れとなった。

 剣を投げ捨てる兵が続出し、膝をつく者も現れる。


「降伏すれば生かす!だが抗うなら、その瞬間に灰だ!」


 ゼルドの声が戦場を支配した。


「こりゃ俺たちの勝ちですね」

 ラグも余裕そうに笑う。


 魔物側の圧倒的優勢ーーそう思われた、その時。


 突如として戦場に冷気が走る。

 炎と血の臭いに満ちていた空気が、一瞬で凍りついた。


「……なに……?」

 魔物たちが震え、白い息を吐く。


 砦の上に、白銀の鎧を纏う男が立っていた。

 蒼氷の剣を構え、その周囲には雪片が舞う。


「……八闘剣……"氷牙"カリス・ウィルバーン……!」


 人間兵が歓声を上げ、魔物たちは言葉を失った。


 本来、この場に八闘剣がいるはずはなかった。

 だがゼルドの黒炎を恐れ、人間軍は急遽、最強の一角を送り込んできたのだ。


 ゼルドはゆっくりと翼を広げ、黒炎を纏う。

「……ほう。俺の力を試すには、上等な客人だ」


 その顔には狂気と愉悦が入り混じった笑み。


「さあ――氷と炎で、戦場を飾ろうじゃないか」


 黒炎と氷牙。二つの異能が、激突しようとしていた。

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