12.黒炎の魔族、誕生
ナキに呼び出されたゼルドは、ついに魔族に昇格します。以下おさらいです。
▪️魔王軍体制
・魔王
・七大魔将(それぞれが十万体規模を掌握)
・魔族(一万体規模を掌握)
ーー以下が魔物
・上級魔物(五百-千体規模を束ねる)
・中級魔物(百体規模を束ねる)
・下級魔物(最下層、細かくは更に階級あり)
灼熱の炎が渦巻く城塞の大広間。
七大魔将のひとり、炎帝ナキが玉座に腰を下ろし、その黄金の瞳で俺を見下ろしていた。
大剣を片手に持ちながら、その存在そのものが火山の噴火のような圧を発している。
「来たか……ゼルド」
低く響く声に、従者たちが無意識に身を震わせた。
俺は歩を進め、臆せずその玉座の前に立った。
「……七大魔将、ナキ。呼び出しとあれば、断る理由はない」
ナキの口角がわずかに吊り上がる。
「強気だな。……ならば確認させてもらおう」
そう言って、玉座から立ち上がると、大剣を抜き放った。
刃先から火花が散り、床の黒鉄を焦がしていく。
「お前の黒炎。伝承にのみ語られ、秩序そのものを焼き尽くすとされた焔だ。本当にそれが使えるのなら――俺の剣を受けてみろ」
空気が一気に張り詰める。
従者たちが青ざめ、慌てて壁際に退いた。
炎帝と黒炎の魔物――この場で戦えば広間ごと消し飛ぶだろう。
俺は一歩前に出て、ナキの黄金の瞳を真っ向から見据えた。
「……興味深い申し出だ。だが、俺は断る」
広間がざわめいた。従者たちが驚愕に声を失う。
ナキの顔にも一瞬だけ、楽しげな光が走った。
「ほう? 恐れをなしたか?」
俺は笑い、黒炎を指先に灯す。
「恐怖ではない。戦いは資源だ。今ここで力を消耗するのは愚かだ。戦場こそが俺の舞台――。そちらで存分に見せてやる」
挑発にも似た俺の返答に、ナキはしばし沈黙した。
やがて大剣を肩に担ぎ、豪快に嗤う。
「なるほど……! 戦を資源と呼ぶか。お前らしい考えだ。だが覚えておけ、ゼルド。黒炎は秩序を否定する焔。秩序を焼けば、必ず混沌を招く。扱いを誤れば、自らをも呑み込むぞ」
その声には、炎帝と呼ばれる者なりの真剣さがあった。
だが俺は笑みを深める。
「ならば俺は混沌さえも支配する。……そのためにこそ、この力がある」
黄金の瞳が細められ、ナキは愉悦の笑みを浮かべる。
「面白い……やはりお前はただの魔物ではない」
ナキは片手を掲げ、炎を灯す。
「ゼルド。お前を“上級”から引き上げる。ここにいる全てが証人だ。今この瞬間より――お前は“魔族”だ」
炎の光が俺を包み、全身に轟音のような衝撃が走る。
黒炎と混ざり合い、血肉の隅々にまで刻まれるような感覚。
次の瞬間、俺の背から放たれた黒炎は、従来の比ではない奔流となって広間を揺るがした。
従者たちは絶叫と共に膝を折り、地に額を擦りつける。
「……魔族……! 本当に魔族に……!」
「黒炎の怪物が……魔族へ……!」
俺は静かに拳を握りしめた。
ーー最高だ。ようやく、舞台が整った。
ナキが笑いながら告げる。
「よし、黒炎の魔族ゼルド。領地を与える。此度の戦で制圧した人間どもの交易都市ーー"イシュタル"だ。人間軍の補給拠点だった都を、黒炎で染め上げてみせろ」
従者が広げた地図に赤で囲まれていたのは、人間の中規模都市。
イシュタル――。俺の胸に熱が灯る。
都市を治める。それは単なる破壊者ではなく、征服者の証。
社畜として支配される側にいた俺が、今度は支配する側に立つのだ。
「……望むところだ。人間の都の支配など造作もない」
ナキが豪快に爆笑する。
「はははっ! 面白い! ならばやってみろ。次の大戦までに、イシュタルをお前の黒炎で征服しろ!」
炎帝の宣告に広間が震え、従者たちは一斉に頭を垂れた。
俺は漆黒の炎を纏ったまま立ち尽くし、静かに笑う。
――これで舞台は整った。
戦場だけでなく都市をも掌握し、力を肥大化させる。
炎帝すら認めたこの黒炎で、俺は支配者への道を駆け上がる。
「真の征服は、ここからだ」
黒炎の灯が、玉座の間をさらに深い闇と熱で塗り潰した。
次回からはゼルドによる領地支配ーーイシュタル編です。人間たちの都をどう支配するか?社畜時代の経験が大いに活かされます。