1.社畜、ある日魔物になる
悪役主人公が無双するお話です。出来るだけ高頻度で更新していきますので、宜しくお願いします。
目を開けた瞬間、視界に広がっていたのは、赤黒い空だった。
空気は濃く、重く、どこか淀んでいる。喉の奥に苦味が広がり、思わず咳き込む。
――ここは……どこだ?
直前の記憶はハッキリとある。
超が付くほどのブラック企業で、終電を超えて拘束される日々。休日もタスクの山。
睡眠不足、頭痛に胃痛、友人ゼロ、娯楽ゼロ、彼女…いるわけ無し。
齢30にして、残るのは疲労と苛立ちだけ。
その日は、3日間徹夜で取り組んだ仕事を漸く終え、体力はとうに限界を迎えていた。
デスクの上に溜まったエナジードリンクの缶を片付けながら、思う。
「……俺、なんで生きてんだろ」
ふらつく足取りで会社を出た瞬間、急に世界が歪んだ。
身体に力が入らず、床に崩れ落ちる。そのまま視界が暗転し、流れの速い渦に飲み込まれるような感覚。
遠のく意識の中で、誰かの声が不思議とはっきり聞こえた。
《転生にあたり、固有能力を付与します》
《条件:長時間労働による極限耐性、社畜根性MAX、世界を恨む破壊衝動、過労死に伴う神の祝福》
《結果:固有能力【史上最強】を獲得しました》
《固有能力【史上最強】により、身体能力を最大値まで引き上げます》
ーーなんだ?史上最強?何のことだ?
そして目覚めたときには、この世とは思えない殺伐とした荒地にいたわけだ。
これはもしかして、俺、死んだのか?
不安に駆られ、近くの小さな水面に顔を映すと…。なんと、そこにあったのは醜い人外の姿。
浅黒い鱗に覆われた肌。
血のように赤い瞳。
背には漆黒の翼。
「うわっ!……ははっ、魔物かよ。よりによって、こんな姿に転生とはな…」
嘲るように呟きながらも、胸の奥が妙に高揚している。
自暴自棄になっていた俺は、この急な展開を不思議と楽しんでいた。
何より…この体には力がある。そんな予感が全身を駆け巡る。
――史上最強とか言ってたな。
試しに拳を振るうと、目の前にあった岩山が轟音と共に砕け散った。衝撃波が足元の砂塵を巻き上げる。
「……なんだこれは…」
胸の奥にあった長年の鬱屈が、一気に歓喜に変わった。
これが俺の力……最高だな。是非、上司に食らわせてやりたい。
そこへ現れたのは、自分とは姿形の異なる数体の魔物。槍を持った斥候部隊らしい。
何故か俺を見下し、鼻で笑いながら近づいてくる。
「おい、お前。服も着ていない、階級すら与えられていない魔物と見える。ここは魔王軍の領域だ。身分を明かせ。答えなければ殺す」
――直感でわかる。こいつらには勝てる。
「穏便には済まないのか?」
「なんだと、この…」
最も身分の高そうな魔物が槍に手を掛ける。
瞬間、俺は動いた。
言葉より早く、魔物の頭を片手で掴み、そのまま地面に叩きつける。グシャッという鈍い音と共に大地が砕け、紫色の鮮血が舞う。
「な、なんだこいつは……!」
「ひぃ……!」
他の魔物は凍りついたように動かない。
俺はゆっくりと足を踏み出し、頭上から見下ろす。
今までの俺なら、怯えて土下座でもしていただろう。だが今は違う。
「俺に従え。従うなら命は保証する。逆らえば……殺す」
自分でも驚くほど冷酷に告げた言葉に、魔物たちはガクガクと震え、膝をついていった。
その光景を見ながら、俺はつい笑ってしまう。
「はっはっはっ!こりゃいい。人間の社畜としてこき使われた日々は終わりだ。
これからは俺が使い潰す番――この世界を、俺の欲望のままに統べてやる」
その瞬間、後に史上最強魔族と言われる男の物語が始まった。
次回、使役した魔物たちからこの世界のことを聞き出した彼は、自身の野望を固めていきます。