ー5ー
「……これはあるのか」
探偵事務所の床下に隠し扉がある。元が倉庫という事もあり、誰かが使っていたんだろう。
そこにあるのはリボルバー式の銃が一丁。
師匠から譲り受けた物だ。普通の探偵なら必要のない代物だが、危ない依頼を扱っていたという事だ。
それは現実での話なわけだが、頭に強く印象に残っているからこそなのか。【ロストワールド】に武器が必要なのか。
プレイヤー以外誰もいなかったという話であり、武器についても何も触れてなかった。
ボダさんが聞き耳を立てていただけであり、情報も途切れ途切れなのだから仕方ないわけだが……
「念の為だ。持っていこう。弾はシリンダーに六発。他は無さそうか」
依頼者に会いに行くわけだが、何が起きるかも分からない。仮想世界だからこそ、そのように仕向けた可能性が高い。
死ぬ事はないとしても、体に反動が起きる事もゼロではない。何の説明なしにこの世界に入ったわけだ。疑うべきところだろう。
依頼者に武器を向ける事も……
「行き先は【朽ち果てた城】だが、現代をモチーフにしてるのなら、すぐに分かる場所にあるかだ……な」
事務所のドアを開けた瞬間、その風景に脳内が僅かに停止してしまった。
夜空……というのが一番良いのか。
月明かりと壊れた電灯等が点滅している事で、周囲の景色を教えてくれている。
一番最初に目に入ったのは海。
これも現実での探偵事務所を出た時と同じ。
次に廃墟となった建物群。
舞台が荒廃した世界なら、建物が廃墟になっているのは分かる。
だが、どれも俺が知っている建物ばかり。隣に並ぶ倉庫。コンビニとコインランドリー、店店の並び順。信号機の位置。
潰れていたとしても、馴染みの喫茶店の看板を間違うはずがない。
「現代だけじゃなく、N市が舞台になってるのか?」
となれば、参加者達全員がN市に在住なのか。
俺が選ばれたのもN市にいる探偵だからか。
開始場所がN市なだけかもしれないが、事と次第によっては調べる必要が出てくる可能性はある。
「だとして、【朽ち果てた城】は何処になる? N市に城なんかないぞ」
N市には歴史に残る城がなく、新しく建設されたわけでもない。
有名なのはエルドラド国が経営する外国人学校。エルドラド人は当然として、様々な国の教師や学生が通っているようだ。
仮想世界に関しての授業、実習も積極的に組み込んでいる学校でもある。
次点でエルドラド国が援助する巨大ショッピングモール。
敷地の広さはあるが、城とは言えないだろう。
「もしかして……あの場所か」
俺はアレがあるであろう場所に視線を向ける。
まだ建設中であり、完成してない場所。
荒廃された世界が未来であるなら、選ばれてもおかしくはない。
城ではなく、ビル。
ムーンライトタワー。最大の高さを持つビルであり、月に一番近い場所と題されている。
完成予想図も発表されており、下層部分を見ると城のようにも見える。
「建物が崩壊しているせいか、かなり離れた場所からでも、あそこだけはよく見える。……行ってみる価値はありそうだ」
ムーンライトタワーだけが現実と変化していない。建設中の高さまでは十分あり、そこまで崩れていない。
それだけではなく、僅かながらに紅い光が発光している。まるで居場所を俺に教えているかのように。




