ロストワールド ー1ー
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「今日もまともな依頼はなしか。依頼自体が滅多に来ないからな。そもそも場所が悪いのもあるんだが……そこは仕方がない」
H県N市のとある埠頭にある倉庫。
そこを探偵事務所兼住居にしている。事務所よりも住居スペースの方が大きい。ベッドもあれば、トイレもシャワーも一応はあるが……
理由は幾つかあった。
人目に付きにくい。依頼人が誰にもバレずに来れる場所ではある。
この探偵事務所で働いているのは俺一人だけ。広さを必要としてない。
独り立ちする時に、与えられた場所でもあり、家賃が低い。
探偵の仕事も水物だ。依頼のあるなしで変化する。金の節約は必要ではあるが……
怪し過ぎて、逆に来にくい。依頼者も直接事務所に来ず、VR内での接触やネットによる依頼が多くなっている。
勿論、前から分かってる事ではあったんだが、それが出来ない存在もいたのを知ってるからだろう。
「腐っても仕方がない。少しでも金稼ぎをするか」
PCから探偵事務所のホームページじゃなく、何でも屋のページを開く。
何でも屋は仮想空間における便利屋だ。
アイテム探しや人捜し。様々な情報の入手等、やってる事は現実と変わらない。
違いはファンタジーにおける戦闘のあるなしぐらいか。
だが、こっちの方が依頼が来る事が多い。それだけ仮想空間の世界が浸透し、現実世界から離れていく人々が増えている証拠だ。
「幾つかあるが……向いてないのばかりだな。登録してない世界もある。新しく作られた物か?」
VRは千差万別。個人で生み出す世界もあれば
チームで作り出し、世界を管理する場合もある。
人気が出れば、人々が集まり、繁栄していく。
条件はあるが、VRの通貨も現実に反映され、交換する事も可能となっている。逆もまた然り。
ただし、別々のVRは不可。現実を通らなければならない。
「おっ!! ボダさんからの依頼か。また別のゲームで婚活……前のが上手くいかなかったのかよ」
ボダというのはうちの常連客。色んな仮想空間でパートナーを探している。
最初は客を増やすため、俺から声を掛けたわけだが、そこから気に入られたようで、何度も頼んでくる。
何度か成功はしたが、その先が続かないようだ。流石に付き合った後までのフォローは無理だ。
「恋愛が多いな。探し物や戦闘の方がまだましなんだが……」
今回、学校をメインにしたVR世界が多い。舞台は高校生活が多数か。
学校生活ともあって、青春するのが目的。
実際、それを求めているのは大人だ。仮想空間だけの関係に終わるのか。現実でも会うのかで全く違う結末なる可能性が高い。
ボダさんとも現実で会った事はない。仮想空間内では姿を変えられる。若くも出来れば、年も取れる。声質だけでなく、男女の変更も可能だ。
彼(彼女)は世界によって姿を変えている。いつも男の姿ではあるが、実際は分からない。
とはいえ、俺自身は姿を全く変えず、どの世界でも同じまま。その方が依頼者も分かりやすいからだ。
二十八歳男性。身長百八十センチ。細身の筋肉質。髪形は白髪混じりのオールバック。髭はなし。
VRゲームを開始時、そのままの姿を反映するかの選択があり、それを使用している。
「ボダさんが俺の事を誰かに紹介したのか? 色んなVRゲームをしている分、顔が広いからな。ありがたいような、ありがたくないような……」
依頼にしても内容による。ボダさんのように恋愛関連の依頼は苦手な部類に入る。
「やるとしても……新規依頼が入ったな」
恋愛関連ばかりなら、ボダさんの依頼を引き受けるつもりだったが、何でも屋ではなく、探偵側に依頼が来た音が鳴った。




