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「四階は……宝物庫か? それにしても」
ムーンライトタワー四階。洋式の城であるのは二階と同じだ。
ただし、崩壊したというよりも荒らされているというのが正しいだろうか。
宝箱は開けられ、そこに絵画が飾られていた形跡がある。だが、この世界での価値があるかどうか。
現実で金に変換出来るのは通貨のみ。それも条件が必要となる。
宝自体、その世界で一度売らなければ意味がない。荒廃した【ロストワールド】でそれが可能かどうか。
「宝箱というよりも棺に近いな」
宝箱は人が入る棺程の大きさがある。
中身は空。死体や骨があるわけでもない。
あったとしても、それは本物でなく、用意された物だろうが……
この宝箱の中に依頼者の言う【血】があったのか。
確認したのは宝箱の一つ。全てを見る必要はないと判断。
四階に中央にあるエスカレーターは壊れておらず、そこから五階へ。
五階がムーンライトタワーの最上階だろう。外側から見た限り、五階までが形を残している。
現実世界でも五階までは完成していたはずだ。
「貴方が来るのを待ってたわ。私の名前はメイデン=ヴァンダイク。吸血姫よ」
腰にまで届く程にある銀の長髪。肌白く、金色の瞳。潔白のような青と白のドレスを身に纏っている。
その背後には紅い月。そのせいが、彼女が高潔、儚い存在に見える。それだけでなく、俺に恐怖と威圧も与えてくる。
「……どうかしましたか?」
「いや……探屋真実だ。先に色々と尋ねたい事があるんだが……いいだろうか?」
【血の奪還】という依頼を受ける前に、彼女の事を知る必要がある。
俺が一瞬黙ってしまったのも、メイデンの姿が師匠と似ていたからだ。
髪や瞳の色、声、違うところは幾つもあるが……そう思わせる雰囲気があった。
だからといって、師匠本人ではない。
【ロストワールド】では自身の姿が模倣され、別の姿にはなれない。
師匠だけが例外になる事はないだろう。当然、参加者五人のそのままの姿を見ているはず。
「問題ありません。勿論、全てを語るわけにはいきませんが」
彼女が俺を品定めするかのように、笑みを向けてきた。
「それで構わない。まずは……貴女はこの世界の住人で間違いないか?」
「なるほど……面白い一手ですね。真理を突いています」
住人=NPC。彼女の言葉、姿からして十分ありえる。
彼女が依頼者であるのは間違いない。だとすれば、自身を管理者ではなく、【吸血姫】と名乗るのはおかしい。
【吸血姫】と名乗るに相応しい姿ではあるが、現実の姿が反映されているとは思えない。
管理者だけが別の姿になり得たとしても、【吸血姫】と名乗る必要もない。
【血の奪還】という依頼。蝙蝠を伝言に使った事で、吸血鬼という悪魔をモチーフにして、作られた存在……という可能性が出てくる。




