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第9話 ゲルトの種馬殺し 後編


「おーっほっほっほっ! 夜分遅くに失礼しますわよォォォ!!」


 飛び散る窓ガラス、迫り来るヒーローキック――いや、淑女キック。


「あぎゃあああ!?」


 突き刺さるヒール!


 片目が潰れたダリル王子は全裸で床をのたうち回りながら絶叫を上げる。


「ごきげんよう、ポルノプリンス! ハッピーかしらぁ?」


 悲鳴を上げる彼に対し、リゼリアはニヤッと笑いながら魔砲を抜く。


 そして、ダリル王子の股間に一発ぶち込んだ。


 魔砲に装填されていたのは火属性の魔術、リゼリア特製のエクスプロージョン弾だ。


 そう、彼の股間は大爆発したのである。


「ひえ……」


 一部始終を見届けたミミの顔が引き攣る。


 なんたって、一国の王子が死んだカエルのように股をおっぴろげ、その股間からモクモクと煙を上げているのだから。


「あ、うあ……」


「ひ、ひぃ! まだ生きてる!」


 しかも、まだ死んでいない。


 見習い侍女ミミちゃん、そのしぶとさにもドン引きである。


「まぁ! さすがはロイヤルブラッドの持ち主! 股間が大爆発しても生きているなんて、普段から神に守られてる~とかヌかしているだけありますわねぇ!」


 ヒュゥ! と口笛を吹いたリゼリアは再びダリル王子の股間に発射口を向ける。


 再び発射。二度目の股間大爆発。


「ハッピー?」


「…………」


 リゼリアが耳に手を当てながら問うも、王子の反応はない。


 さすがに死んだか。


「ミミ、殺害依頼を遂行する際は死亡確認を忘れないように。基本を徹底することも一流の証ですわよ」


 きめ細やかな仕事をモットーとし、誰よりも一流である淑女は基本も忘れない。


 彼女は王子の顔面にもう一発ぶち込んだ。 


『殿下! 殿下! 何事ですか!?』


 確実に殺害したところで、廊下から慌ただしい声が聞こえてきた。


 さすがに変態王子の断末魔が上がれば、騎士達も「こりゃプレイじゃねえな」と異変に気付く。


 彼らはドアをドンドンと叩き、今にも突入してきそうだ。


「ど、どうするんです!? 窓から逃げますか!?」


 ミミは自分の体を抱きしめながら焦りの表情を浮かべるが、問われたリゼリアは鼻歌交じりに魔砲のイジェクトボタンを押す。


 半分に折れた魔砲の中から装填済みだった魔術シェル――光輝石を薄い金属で覆ったもの――を取り出し、別の魔術シェルを装填。


「逃げる? 私が? あり得ませんわ」


「じゃ、じゃあどうするんです!?」


 魔砲を正常な状態に戻すと、再装填(リロード)された二丁をドアに向けた。


「こうしますの」


 ニヤリと笑ったリゼリアはドアに向かって魔砲を連射。


 再装填された魔術は風魔術のスピア弾だ。


『ぎゃああ!』


 プライバシーに配慮された厚い木製ドアを容易に貫き、その向こう側にいる鎧を着た騎士の体も貫いてしまう。


『敵だ! 中に侵入者――』


 外から声が聞こえてくると、リゼリアは握った魔砲をドアから壁へとズラす。


 そして、再び連射。


 聞こえてきたのは五人の断末魔だ。


 壁越しに五人を仕留めると、片方の魔砲をホルスターに収める。


 代わりに胸元から取り出したのは光輝石を利用した魔術爆弾。


 見た目は金属で作られたリンゴのよう。


 口でセーフティとなっている金属ピンを抜き、魔砲でドアを支える金属金具を破壊して。


「さぁ、お鳴きなさい」


 ぐらついたドアが廊下側に倒れ込むと同時に、握っていた魔術爆弾を放り投げる。


 正面の壁に当たった爆弾は廊下の左手に跳ね返り、跳ね返った先で爆発。


 爆発と共に騎士達の悲鳴が聞こえてくると、リゼリアはもう一つの爆弾を取り出して、今度は右手側に跳ね返るよう投げた。


 右手側からも同じく悲鳴が聞こえてくる。


「さぁ、ミミ! パーティタイムといきますわよォ!」


 リゼリアは再び二丁の魔砲を握り、廊下に向かって飛び出した。


 飛び出した瞬間――怪我人を引き摺ろうとしていた騎士に向かってニヤリと笑う。


「さぁさぁ! 貴方達も存分に踊って下さいまし!」


 廊下にいた騎士へ魔砲を連射。


 怪我人を出すことで控えていた騎士を釣り、釣った騎士達を穴だらけにしていく。


「いたぞ!」


 逆側からも騎士達がやって来た。


 だが、リゼリアは片足を軸に華麗なターンを決める。


 くるんと身を翻し、ドレスのスカートをたなびかせ、舞踏会で踊るダンサーも思わず熱い吐息を漏らすほど完璧なシルエット。


 そして、迫り来る騎士達へ魔砲の発射口を向けて連射、連射、連射。


「ぎゃああ!」


「やたらに突っ込むな! 相手は一人なんだ! 追い込めば勝てる!」


 続いて第三の隊がやって来るが、彼らは曲がり角の陰に隠れながら魔砲を向けてくる。


 身を隠しながらの応戦。数の有利を活かし、リゼリアを魔力切れに追い込もうとする作戦だ。


「お隠れにならないで? 貴方達の貧相なお顔をよぉく見せて下さいまし」


 しかし、角から顔を覗かせた瞬間にヘッドショットで殺されてしまう。


 迂闊だった騎士のミソをぶちまけたと同時に、リゼリアは一気に距離を詰めて隠れる騎士達の正面に躍り出る。


 そして、再び連射。


 魔砲を構えていた騎士達を穴だらけに。


 途中、片方の魔砲を連射しながらも、もう片方の魔砲に魔術シェルをリロード。


 隙の無い洗練された動作。息を吸うように魔砲を扱う。


 もはや、止められない。


 止められる人間などこの屋敷に存在しない。


 騎士達の血と肉、ミソと臓物が廊下を染め続ける。


「おーっほっほっほっ! ゲルト男児は随分と軟弱ですこと! どいつもこいつも飼育された豚と変わりませんわねぇ!」


 コツ、コツ、コツ、と死神の足音が廊下に鳴る。


 タン、タン、タン、と独特な死の音が屋敷の中に響く。


 ――既に騎士達は戦意喪失。


 王子を失い、指揮官を失い、家主である伯爵もいつの間にか巻き込まれて死亡。


 指揮系統は失われ、軍隊としての意味を失いつつある。


「ひ、ひぃぃ!」


「あん。逃げないで下さいまし」


 加えて、圧倒的な力を見せる淑女。


 絶世の美を持ち、一つ一つの挙動が洗礼されていて優雅。床に倒れた騎士の頭部を撃ち抜く姿すらも気品が感じられる。


 実に非現実的だ。


 繰り広げられる殺戮の様とそれを成す者の姿が乖離しすぎている。


 それが余計に恐怖を増幅させ、騎士達の心を支配していく。


 恐怖に支配された者は本来の力が発揮できず、逃げ出すその足は泥沼に囚われたかのように重くなる。


 そうなってしまえば容易い。


 淑女にとっては、あまりにも容易い。


「…………」


 逃げ惑う騎士達の背中を撃ち抜いていくリゼリアの姿を見るミミの瞳には、憧れと恐怖の入り混じった色が浮かぶ。


「……ふぅ。これで終わりかしら?」


 やがて、屋敷の中から騎士の声が聞こえなくなった。


 聞こえてくるのは逃げ遅れて物陰に隠れているであろう、使用人達のすすり泣く声だけだ。


「ミミ、仕上げに入りますわよ」


「し、仕上げですか?」


「ええ、そう」


 リゼリアは満面の笑みを浮かべる。


「屋敷の中にある金品を全て回収しますわ。お金、宝石、高そうなアクセサリー。それら全てを回収しますのよ」


 彼女はミミを連れて部屋を一つずつ回っていく。


「依頼料だけじゃつまらないでしょう? どうせ持ち主は死んでいますし、有効活用しないと。綺麗な宝石達もそう言っていますわ」


 綺麗な宝石を片手にリゼリアはニコリと笑い、途中で拾った革袋の中に放り込む。


 加えて、リゼリアは集めて行く過程で屋敷に特殊な爆弾も設置していく。


 そんな量、一体どこに保管していたんだ? と言わんばりの量を。


 屋敷を丸ごと吹っ飛ばすには十分すぎる量を設置し終えると――


「さぁ、ミミ。帰りましょう」


「は、はい。んしょっと!」


 リゼリアとミミは金品がパンパンに入った革袋を肩に担ぎ、正面玄関から堂々と外へ。


「は、はわわ……」


 外に出た際、ミミの困惑する声が漏れる。


 正門まで続く道には騎士の死体が散乱しており、屋敷正面を彩る噴水の水も真っ赤に染まっているのだ。


「貴女が合図をくれるまで暇でしたの」


 つい殺っちまったんだ! と言わんばかりの軽いリアクション。


「え、えへ……」


 もはや、ミミは顔を引き攣らせながら笑うしかない。


 そして二人が敷地を出ると、リゼリアはパチンと指を鳴らす。


 鳴ったと同時に彼女の指から小さな魔術の光が迸り――背後にあった屋敷が大爆発を起こした。


「おーっほっほっほっ! 私ったら今回も完璧でしたわね! 金貨と宝石もたくさん! これだから王族殺しは辞められませんわ!」

 

 彼女の高笑いが赤く染まる夜空に響く。


「ホテルに帰って優雅な夜を過ごしましょう!」


「え、えへぇ……」

 

 淑女流のやり方を初体験したミミは、ホテルの部屋に帰るまで尻尾がぴんぴんに伸びっぱなしだった。


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