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第22話 狙いはどっち?


 クルストニア王国王都から戻ったリゼリアとミミは、その足でブーニーズへと向かった。


「ブーニー、状況はどうですの?」


「おう、お前の予想通りだ」


 タバコを吸いながらグラスを磨いていたブーニーはカウンターへ二人を手招きすると、何枚かの紙を取り出す。


「お前に言われた通り、あの女を監視してたんだがよ。お前と入れ替わりでクルストニア王国の傭兵団が街に入って来た」


 第二王子フィルの殺害依頼を受けた際、リゼリアはブーニーにルイーゼの行動を監視するよう頼んでいた。


 正式に依頼するまでの一週間、ルイーゼはクルストニア王国王都へ足を運んでいたことが発覚。


 だが、それは殺害依頼をスムーズに進行させるための根回しや情報収集の可能性もあったため、ブーニーは「まだ確定じゃない」と彼女に伝えていたが。


「あの女と仲良さそうに話し込んでいたってよ」


 しかし、依頼を受けたリゼリア達がクルストニア王国へ向かった直後、クルストニア王国で有名な傭兵団がクッツワルドにやって来たという情報が入る。


 傭兵団とルイーゼが接触しているところも目撃されており、彼女が傭兵団を呼び込んだと考えて間違いなさそうだ。


「野郎共、観光に来たってわけじゃなさそうだ。戦争おっぱじめようって人数と装備を揃えてやがる」


 やって来た傭兵団はクルストニア王国最大規模を誇り、リーダーは元騎士団に所属していたという経歴を持つ。


 そのため、クルストニア王国騎士団とも強い繋がりがあり、騎士団幹部経由で正式採用装備を入手し扱っている。


 他のメンバーも元騎士団、あるいは現役の騎士を引き抜いたりと実力者揃い。


 ある意味、騎士団外部に作られた汚れ仕事専門の特殊部隊と言っても過言ではない戦力だ。


 クッツワルドを拠点とする小悪党あがりの傭兵団とは規模も実力も桁違いな連中である。


「個人の問題か?」


「さぁ? 私に心当たりはありませんが……。もしかして、私の美しさに嫉妬してしまったのかしら?」


 リゼリアは本気でそう思っているようだ。


 目がマジである。


 ただ、向こうが何かを企んでいると感じた瞬間はあったとも語る。


「彼女、二人目を殺した際に驚いていましたわ。その直後に見せる表情もおかしかったですし」


 二人目のターゲットであるクリス王子を殺害して戻った来た後、ルイーゼは無傷のリゼリアを見て驚いていた。


 その後に見せた表情も彼女が無傷であることを残念がっているような表情だった。


 本人はフードで隠そうとしていたようだが、それをリゼリアは見逃さなかったというわけだ。


「不審に思ったので貴方に監視を依頼したのですけど」


 嫉妬じゃないなら一体何が問題なのかしら? とリゼリアは可愛らしく首を傾げる。


「俺としちゃ、個人の問題かそうじゃないかが重要だ」


 ブーニーズは他の街からやって来た仲介人との間で起きた問題には干渉しないルールだ。


 あくまでも個人の問題は個人で解決しろ、というのが基本原則。


 ただ、これがブーニーズにも関連する問題であれば別。


「うちの縄張りを奪おうってんなら話は別だ」


 ブーニーズのような組織は世の中にたくさんある。


 どこぞの馬鹿が事業拡大を目論んで他の街にも支店を置こう――という話だったとすれば、ブーニーズも本気を出すことになるだろう。


 しかし、ここでブーニーズが早とちりして行動を起こしても面倒事が増える。


「クルストニア側の同業者と敵対はしたくねえ。だから、確実な情報が必要だ」


 同業者同士、色々と面倒な協定は存在する。


 それに触れたらブーニーズも無傷というわけにはいかない。


 最悪、ブーニーも命の危機を覚悟せねばならない状況になりかねないからだ。


「じゃあ、確かめてみましょう」


「どうやって?」


「これから私が一人で街をブラつきますわ。ミミはブーニーズで待機させます」


 その状況下でリゼリアが襲われたら個人の問題。


「シンプルで分かりやすいでしょう?」


「……分かった」


 リゼリアはミミに待機するよう命じ、一人で店の外へと出た。


「…………」


 店を出た彼女は一瞬だけ周りを見渡す。


 その瞬間、自分に向けられている視線を見逃さない。


「フフ……」


 むしろ、分かりやすすぎた。


 相手は隠れているつもりだったのかもしれないが、女性という生き物は男が思っている以上に向けられる視線に敏感だ。


 リゼリアはわざと裏路地へ続く道へ入り、人気の無い場所へ自ら進んでいく。


 すると、前方から道を塞ぐように二人の男が現れた。


「あら、意外とせっかちですのね?」


 後ろにも二人。


 後ろの二人は店を出た際に彼女へ熱い視線を送っていた者達だ。


「…………」


 男達は何も言わず魔砲を構える。


「少々お待ちになって? 狙いは私かしら? それともブーニーズの縄張りも狙っていまして?」


「……ターゲットはお前とガキだ。組織は関係ない」


 彼女の質問にすんなりと答えたのは、彼らもまた裏の人間だからだろう。


「そう。それは良かった」


 フッと彼女が笑った瞬間、一瞬で表情が変わる。


 真剣な顔になったリゼリアはホルスターから魔砲を抜きつつも身を屈める。


 直後、男が発射した魔術が彼女の頭上を通過。


 初撃を躱した彼女が反撃し、前方を塞いでいた男二人を早撃ちにて射殺。


「チッ!」


 後方の男二人が慌てて魔砲を撃つが……。


「まぁ、まるで素人ですわね?」


 背後から迫る魔術に対し、彼女は体を反らしつつ軸足で回転しながら躱す。


 くるんと軸足でのターンを決めつつ、同時に二人へ魔砲を放った。


 一人は脳天に命中。


 もう一人は肩に。


「クソッ!」


 瞬く間に仲間を失った男は、肩を押さえながら逃げようとする。


「あ~ら、お待ちになって!」


 当然、彼女は逃がさない。


「ぐあっ!」


 逃げる男の足をぶち抜き、倒れた男にゆっくりと近付いていく。


「貴方達、ルイーゼの依頼で動いていますの?」


 そして、男の背中を踏みつけながら問う。


「…………」


 しかし、男は喋らない。


 喋らなかったので、彼女は穴の開いた足をヒールでグリグリと踏みつけた。


「ぎゃあああああ!!!」


「喋る気になりまして? 貴方達はあのアバズレに依頼されましたの? ケツの穴を増やされたくなければすぐ答えなさい?」


「そ、そう――あああああッ!!」


 何か喋り始めた男だったが、同じタイミングでリゼリアは左の尻肉に穴を開けた。


「ああ、申し訳ありませんわね。喋らないと思って撃ってしまいましたわ」


 彼女は肩を竦めながら「それで?」と問う。


「そ、そうだ! あの女からの依頼だ!」


「ふぅん。どうして私を殺そうとしているのか知っておりまして?」


「そこまでは知らな――ぎゃああああ!!」


 そう問いながらも、彼女は反対側の尻肉に魔砲を撃ち込む。


「失礼、今度こそ喋らないと思って」


 また早とちり!


 なんてお茶目な淑女だろうか!


「知らねえ! 知らねえって言ったのにぃぃぃ!」


 完全に戦意喪失した男は「楽にしてくれ……」と彼女に懇願する。


「最後の質問に答えたら叶えてあげましょう。貴方達の拠点はどこですの?」


「ほ、北東の倉庫に……」


「そう、ありがとうございますわ」


 礼を言ったリゼリアは男の頭部をぶち抜いた。


 魔砲をホルスターに収めた彼女は再びブーニーズへと戻り始める。


 しかし、店のドアは半開き状態になっていて……。


「戻りま――」


「おいおいおい! 嬢ちゃん、おめえは頭イカれてんのか!?」


 店の中には男三人の死体が転がっている。


 どれも首を斬り裂かれて死んでいるのだが、男達を殺したであろうミミは一人の首を完全に切断しようとしている最中だった。


「騒がしいですわね」


「おい、お前! この嬢ちゃんにどんな教育してやがる!?」


 リゼリアに気付いたブーニーはブチギレ状態で詰め寄った。


「この嬢ちゃん、殺した野郎の頭をケツにぶっ刺すとか言い出したぞ!? 悪魔に憑りつかれたイカれ芸術家かよ!?」


 絶対にお前のせいだ! と喚くブーニーだったが、イカれ芸術家ミミちゃんはすごく真面目な表情で――


「前にリゼリア様がやってたから」


 などと供述したのである。


「ほらぁ! 教師が悪魔なら生徒も悪魔になっちまうんだ! もう世も末だね! ハイ、終了! ウチの店は悪魔崇拝イカれ女共が通う店になりました!」


 こんなところを見られたら常連客がカルト集団ばっかりになっちまう! と頭を抱えるブーニー。


「貴方、まだ自分の店が健全だと思っていますの?」


 常連客は血生臭い傭兵や殺し屋ばかりなのに、と。


「快楽殺人犯やらカルト野郎共が集まるよりマシだろうが!?」


 あまり差は無いように思えるが、ブーニーにとっては大問題だったようだ。


「そんなことより、相手の狙いが確定しましたわ。向こうの狙いは私とミミ。個人の問題で間違いないみたいですわね」


 リゼリアは改めて「心当たりはありませんけど」と付け加える。


「ったく……。マジで勘弁してくれよ……」


 疲れ果てたのか、ブーニーはカウンターの中に戻りながらタバコに火を付ける。


「向こうはお前達を殺して報酬金をケチろうってか? それとも気に障ることでもしたのかよ?」


「だから、知りませんわよ。私は依頼された人物を殺しただけですわ」


 確かに彼女の言う通りだ。


 リゼリアは依頼を忠実に遂行しただけであり、途中でミスを犯したというわけでもない。


 毎度毎度派手に屋敷を吹っ飛ばしているが、それが問題になる要素もなかったはず。


「はぁ……。まぁ、いいさ。ウチが関係ねえってんなら干渉しない。お前らが片付けろよ?」


「もちろんそのつもりですわ。報酬も回収しなきゃいけませんし」


 リゼリアが肩を竦めると、ブーニーは大きな煙を吐いてから後頭部をガシガシと掻きむしる。


「……これは独り言だぜ」


 ブーニーは二つのグラスを用意し、上等なブランデーをそれぞれのグラスに注ぐ。


「うちの縄張りに余所モンがズカズカ入り込んだ時点でイラつくが、俺に一言スジを通さないのもムカつくぜ。店の床を汚されたことが一番腹立つが」


 舌打ちしながらブランデーの瓶を叩きつけるように置いた。


「俺はこう見えて古臭い人間なんだ。礼儀やスジってもんを重視するんでね」


 そして、片方のグラスをリゼリアの方へ押す。


「私だってこれからバカンスへ行こうと思っていましたのよ? なのに、報酬が支払われないなんて最悪ですわ」


 リゼリアはグラスを持ち上げながら口元に三日月を浮かべる。


「私、今とてもムシャクシャしていますの。報酬を回収するついでに馬鹿な傭兵団も皆殺しにしてしまいそう」


「おお、こええ。お前がどこで暴れようが、俺は見たくもないし話も聞きたくないね」


 ブーニーもグラスを持ち上げ、これからリゼリアが起こすであろう行動に「関知しない」と意を示した。


 これは仮にクルストニア側の組織が何かを問うてきても、リゼリアに対する情報などを一切喋らないし、今回の騒動に関する情報も明かさないという意味だ。


 つまり「好きなだけやれ」ということ。


「ふふ」


「フッ」


 二人は小さく笑いながら乾杯し、同時にブランデーを飲み干した。


「それではごきげよう。ミミ、行きますわよ」


「はいっ」


 二人はブーニーズを後にし、未払いの報酬を取り立てに向かった。


 ――余談だが、二人が話している間にミミは芸術品をしっかりと完成させていた。


 それに気付いたブーニーが床に崩れ落ちたことをここに明かしておきたい。


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