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第15話 ハンティング大会


 ハーデンジア王国東部ジルコア領にある大きな森にて、第一王子クリスが主催するハンティング大会が開催された。


「殿下、今日は絶好のハンティング日和ですなぁ」


「うむ。今日は楽しむぞ」


 力強く頷くクリス王子――短髪で背が高く、筋肉質な男。


 いかにも軍人といった感じの男だが、片方の耳たぶが欠けているのが特徴だろうか。


 彼は動きやすい服装にハンチングを被り、愛用のライフル型魔砲を携えて椅子に座っていた。


 その他、ハンティングに同行する貴族の数は五名。


 どいつもこいつも軍部の人間であり、クリス王子をヨイショすることが生き甲斐の老害共だ。


 加えて、クリス王子が元々所属していた部隊のOBや現役騎士が十名。王家を守る近衛騎士が五名。


 最後に彼らを世話する使用人達など、雑用をこなす人間が十名ほど参加している状態であった。


 現地に到着した一行は、しばしの雑談とコーヒータイムを楽しむ。


 十分ほどすると追加の馬車が現れて……。


「殿下、本日の獲物が到着しました」


 遅れてやって来たのは、本日の獲物役となる罪人達だ。


 ロープで腕を縛られた罪人達が続々と馬車を降りてきて、総勢二十名の男女が横並びに整列を強いられる。


「本日の高得点はどうしますかな?」


 ここで更なる悪趣味要素が明かされる。


 彼らは罪人に『点数』を付与し、獲得した点数に応じて本日のヒーローを決める――というのが毎回の恒例であった。


「ふぅむ。そうだな……」


 クリス王子は罪人達を順に目で追っていき、半ばにいた老人に視線を固定した。


「やはり、こいつだろう」


 ニヤつくクリス王子が指差した老人、彼は元貴族の人間だ。


 元々は司法省に所属していた伯爵位の人間であり、彼は狂い始めている王子の蛮行を世に明かそうとした人物である。


 そう、彼はこのハンティング大会などを始めとした王子の猟奇的で加虐的な面を数週間前に指摘し、告発したのである。


 サディズムに満ちた王子が次期王となれば、いつか国民に対して苦難を強いるかもしれないと。


 純粋に王国の行く末を案じ、勇気をもって王子の蛮行を王の前で告発した――のだが。


 告発したものの、証拠不十分で逆に逮捕されてしまった。


 いつの間にか彼が秘匿していた証拠資料が紛失しており、万が一に備えて複製していた証拠を預けた友人も数時間後に謎の死を遂げるという不運っぷり。


 長年献身的に務めた司法省の同僚からも「最近はどうにも様子がおかしい。気が狂ってしまったようだ」と心配する声まで上がって。


 最後には家族からも「家で不審な行為を続けていた」と証言され、家に仕える使用人達からは「旦那様は心労がたたって気がおかしくなってしまった」と涙ながらに語る証言も。


「こんなこと、間違っている……」


 元貴族の男はクリス王子を睨みつけるが、睨みつけられた本人は「フン」と鼻で笑う。


「国家転覆を企てた罪人が何を言う」


 結果、彼は未来ある王子を陥れようとした罪で有罪判決が下った、というわけだ。


 他、十九名の罪人も似たような罪である。


 隣の中年は街の酒場で王子の陰口を叩いて捕まった者だし、右端にいる若い元令嬢はクリス王子の欲望発散を拒否した罪。


 彼女の隣にいる女性はクリス王子派の貴族に息子を殺されたと嘘を吐いた罪。


 因みに息子の死体には多数の傷が残されていたものの、医者の判断は『流行り病による衰弱死』である。


 とまぁ、全員の罪を説明するのは省いておくが、どいつもこいつもクリス王子本人かその仲間と関連性のある罪となっている。


 つまり、彼らに関われば死に至る。


 現在のハーデンジア王国はそういう国、という説明で納得して頂きたい。


「よし、点数の付与は終了したな?」


 端から適当に点数が割り振られ、本日の高得点獲物――元貴族の老人には百点が付与された。


 付与が終わったところで、王子の右腕である貴族の男が罪人に向かって「注目!」と叫ぶ。


「よく聞け! 優しい殿下は貴様ら罪人にチャンスを下さった!」


 貴族の男は背後にある森を指差す。


「今から貴様達は森の中に解き放たれる。解き放たれてから四時間、生還できれば有罪を取り消そう!」


 森の中で四時間生き抜けば、彼らの罪は無効とされる。


 自由が保障され、家に帰れると説明された。


「罪人を森へ!」


 男の号令で軍人達は罪人を森へと連れて行く。


 この際、罪人の手は縛られたまま。


 当然ながら武器や道具などの所持は許されない。


「早く行け!」


 森の入口に連れて行かれた罪人達に魔砲を向ける騎士達。


 動かなければ即座に射殺すると警告され、罪人達は森の奥へ向かって逃げて行く。


 彼らが逃げてから数十分後、遂にクリス王子が愛用の魔砲を握って立ち上がった。


「そろそろ行くか」


 魔砲に魔術シェルを込め、腰のポーチには予備の魔術シェルを詰めて。


 ハンチングを被り直すと、貴族達に「では」と声をかけた。


「まずは慣らしだ。すぐに戻る」


「ええ。存分にお楽しみ下さい」


 クリス王子と貴族達は互いにニヤリと笑い、王子は一人で森の中へと進入していった。


 ――ルイーゼの情報通り、クリス王子は一人でハンティングを楽しむようだ。


 側近の貴族達や他の連中も、全く彼を心配する様子がない。


 戦争を駆け抜け、大国であったサフィリア王国の人間を多数殺した勇敢な王子に万が一などあり得ない……といったところか。


「さて、どこに隠れている?」


 森の中に入ったクリス王子は静かに進んで行き――早々に最初の獲物を見つけた。


「…………」


 獲物の背中を捉えたクリス王子は静かに魔砲を構え――発射口をやや下に向けてから引き金を引く。


 ダン。


 森の中に一発の魔術発射音が響く。


「ぎゃああああ!!」


 直後、足を撃たれた罪人の悲鳴が木霊した。


「フフ」


 足を負傷した罪人の姿、絶叫を聞いたクリス王子の顔に笑みが浮かぶ。


 彼は動けなくなった獲物に近付いて行くと、振り向いた罪人の額に発射口を向ける。


「や、止め――」


「まずは二点」


 ダン。


 罪人の頭部が吹き飛び、首から上が失われた死体が地面に横たわる。


「これだからやめられん」


 首無し死体を見下ろすクリス王子の顔には酷く醜い笑みが浮かんでいる。


「さて、次はどうだ? 発射音を聞いて奥に逃げたか?」


 地面に生えた雑草を染めるように血が広がっていく中、クリス王子は再び森の奥へと歩きだす。


 雑草を踏む音を鳴らさないよう静かに、更には姿勢を低くして移動するという徹底っぷり。


 軍人であったことに加えて、より没頭することで『狩り』を楽しんでいる様子が強く窺える行動だ。


 しかしながら、彼の心中では興奮に支配されているだろう。


 心の底から湧き上がるワクワク感、ドキドキ感、頭の中に溢れ出るアドレナリンを没頭することで抑えつけているに違いない。

 

「…………」


 さぁ、次はどいつだ?


 さぁ、次はどの獲物だ?


 姿を見せろ。無様な姿を晒せ。無知故の行動を、生にしがみつくが故の行動を起こしてみせろ。


 ――などと、内心で思っているであろうクリス王子の目つきが鋭くなる。


 少し先の茂みから音が鳴ったからだ。


「ククク……」


 恐らく、茂みの中に隠れているのだろう。


 魔砲の発射音を聞いて恐怖したか。


 そんなことを考えているのがバレバレなクリス王子が静かに近付いて行くと――


「みゅん」


 変な声と共にボフッ! と茂みから頭が飛び出した。


 狼獣人の少女だ。


 ホワイトブリムを装着した、愛らしい獣人の少女。


 ミミである。


「え……」


「…………」


 こんな罪人いたっけ? とばかりに戸惑うクリス王子。


 対し、茂みから頭だけを出した状態でじっと彼を見つめるミミ。


 両者の視線が一秒ほどぶつかったところで――


「ハァイ。ウサギちゃん」


 音もなく、気配もなく、まるで影の中から現れたが如く。


 クリス王子の口を塞ぎ、背中に発射口を押し付けるのは正真正銘の狩人(ハンター)であるリゼリアだ。


「貴方、ハンティングがお好きなんですってね?」


「…………」


 背中にゴリゴリと発射口を押し付けられるクリス王子は喋ることすらできない。


 抵抗することすらできない。


 何故なら悟ってしまったから。


 ――彼は確かに才能もあって優秀な男だ。


 現在は最低最悪なクズ男かもしれないが、過去には人一倍努力を積み重ねて、何度も負け続けて、悔しさと努力を糧に生まれ持った才能を最大限引き出す力を得た。


 隠れて非道な行為を繰り返しながら悦に浸る男ではあるが、妄信的な国民からは『英雄』と称されるほどの力を持っていて、実際に自国へ多大な利益をもたらしたのも事実。


 しかし、だからこそ理解してしまう。


「実は私も好きですの、ハンティング♡」


 ――本物との差を。


 耳元で聞こえる邪悪な声。まるで悪魔が囁いているかのような状況。


 自分はもう助からない、という現実を()()が理解してしまう。


「特に……。自分を狩人だと思い込んでいる憐れなウサギを狩るのが、とぉ~っても大好きですのよォ」


「…………」


 状況を人一倍理解するクリス王子の体はビクビクと震えるだけ。


 彼は自分の股間が濡れ始めていることにすら気付いていない。


「あっ! リゼリア様! この人、オシッコ漏らしてます!」


 いけないんだ! と言わんばかりにミミが指摘した。


「まぁ、お行儀のなっていないウサギですこと。さっさと捌いてしまいましょう」


「は~い」


 ――彼はもっと早く気付くべきだった。


 早く気付くことができるレベルまで、もっともっと才能を磨くべきだった。


 彼らが森に到着するよりも一時間早く、この森は悪魔達の住処になっていたこと。


 決して足を踏み入れてはいけない場所だと気付かなかった時点で、彼の人生は詰んでいたということ。


「鳴き声が聞けなくて残念ですわねェ」


 狂った王子だとか、狂人などと陰で恐れられている自分よりも――ずっとずっと恐ろしく笑う存在がいることに気付いておくべきだったのだ。


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