閑話 青、後処理へ
急に寒い現在です。
割とテンポよく書いているのですが、書けば書くほど量が増えていきます。
難しくならないようにしたい気持ちはあります。
今回は閑話です。よろしくお願いします。
先輩は意外とおっちょこちょいだ。
ミスもするし、バカ笑いもする。
人間であるかどうかなんて既に通り越してる、良い先輩だ。
そんな先輩のミスを片付けに来た。
シアンは、ロッカールームで軽く身支度を整えてから、ドアを開く。
その先には、何もかもが止まった世界があり、城内の中庭で、血を流して死んでいる少女と、唖然とする兵士達、あとは人がまばらにいる。
「んー、まずはどうしようかな~、やっぱりあれかぁ、んー、よし!」
シアンは、少し考えてから気合を入れて決断した。
「おーい、パドラシアさーん。」
ハジャーが前に呼び出した、魔獣の名前を叫ぶ。しかし、静かな世界にシアンの声が響くだけで終わった。
「……いやー、やっぱ俺じゃ無理か。んー、どうしよ……」
「なんのようだ三下。」
突然後ろから遅れて返ってきた返事にひえぇ!とシアンが驚く。
「!……さ、三下はひどいなぁ。シアンって呼んでくださいよ。先輩もそう呼んでますよ?」
「貴様はハジャーの足元にも及ばない。三下でも贅沢だ。」
姿を表すなりシアンを罵倒したのは、淡い緑色の、セミロングくらいの長さの髪を左右に巻いた、目鼻のキリッとした、それは美しい女性だった。
髪色に合わせた、緑と白のコントラストの高貴な神官のような出で立ちで、きれいなヒールを脱いでも180cmはありそうな高身長だ。
「あはは……、きついなぁ~。」
引きつった笑いのまま、シアンは用件をパドラシアに話す。
「あのー、そこに倒れてる、別の世界であなたが食べた女性と、最初に食べたブルーデーモンを元に戻してほしいんですが、可能ですか?」
「なぜ私が、貴様の願いを聞き入れねばならぬのだ。くだらぬことを吐かすな三下。」
「やっぱり、そうですよね~。」
分かっていた。
パドラシアはハジャーの為にだけ力を貸す。
契約魔獣だから当たり前ではあるが。
今のこの神官の姿も誰かを食べて手に入れた姿で、本当のパドラシアではない。
表立ってルルと呼べるのも、好きな時に呼び出せるのも先輩だけ。だから、"これ"を持ってきた。
「あぁ、そうだ。先輩からパドラシアさんにお土産!って預かってきたんです。はい、マーロルチョコ!」
シアンは、ポケットから小さい包に包まれた四角いチョコを2個出して、パドラシアに渡した。
「あぁ、確かにハジャーのもの。嬉しい、こんなにも愛していただけて、ルルは幸せです!ハジャー様!!」
鉄仮面のように冷酷な顔が、突然、恍惚とした表情になり喜ぶパドラシア。
シアンが渡したのは、ここに来る前にハジャーに選んでもらったチョコで、ハジャーがパドラシアに選んだ、という価値を付けた、ただのお菓子である。
パドラシアは、そのチョコがハジャーからの贈り物、という価値が付いていることも見抜けるため、シアンは適当な物を渡したわけではない。
「そのー、今回のお願いも、私ではなく先輩からのお願いでして、そのお礼がチョコなんです。」
「……ふん、分かっている。ハジャーの願いをこぼすことなどない。ただお前にお願いされたのが、癪に障っただけだ。」
なんとも気難しいレディーである。
しかし願いは聞き入れてくれそうなので、シアンはホッとした。
「ありがとうございます!先輩にもしっかり伝えますので、よろしくお願いします!」
「頼んだぞ、シアン。それではな。」
パドラシアはそう言うと、ゆらりと煙のように姿を消した。
「ひー、よかった〜うまくいって〜。パドラシアさんは先輩じゃないとキツイですよ〜もう。」
軽い愚痴をこぼして、シアンは次の仕事にかかる。
その場に座り込むと、背負った黒いリュックからノートパソコンを取り出す。
「えーと、先輩が作った時間軸は、これか。さすが、消しやすくしてある。こういう所は尊敬できるんだけどなぁー。」
カタカタとパソコンを操作して、ハジャーが作ってしまった時間軸を削除していく。
「ん?なんだコレ?変な空白だな。人か?この時間軸から抜け出した……。まさか!」
シアンは、ガタッと慌てて立ち上がると、手を前にかざし円を描く。
星雲の靄が円形に広がり、その内側が青い空洞になる。中には無数の細い糸を束ねた縄のような物が、果てしなく左右に伸びている。
シアンは空洞に顔と手を突っ込むと、一本の糸を確認する。
「やっぱり、誰かがいたはずなのに存在を消してる。先輩がやっちゃった人はここだから、これは違う人物だ。」
すぐに時間軸の流れを追うため糸をたどる。
「くそ、足跡1つ残ってない。先輩がこれを作った後に確認しに来たんだ。やっぱり、先輩の読み通りこの世界にいる、それだけは消せなかったんだ。」
一通り見渡し後、顔と手を引き、もう一度円を描き空洞を消した。
「宇宙を消し去る破壊者か、喧嘩を売ってきたわけだな、必ず見つけてやる。」
決意とともにシアンは仕事を進め、ハジャーたちの所へ戻った。
ルルの姿をちゃんと書きました。
スタイル抜群で高飛車な女性です。ハジャーより大きいです。ちなみにシアンは165cmくらい。
ハジャーはルルと呼びますが、他の調律者はパドラシアと読んでいます。ハジャーがいればルルと呼んで合わせなければならず、ハジャーがいないところではパドラシアと呼ばないとキレるからです。
シアンは人間です。仕事のできる後輩で手がかからないので、ユイなどの指導官はとくにいません。




