表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

1-4

1-4

退院して三日目。

千聖は、ひとりで近所のコンビニに向かっていた。夜八時。

人気の少ない路地を通り抜けようとしたときだった。


――ザリ、ザリ、ザリ。


背後から、足音。


……誰か、歩いてる?


千聖はそっと振り返った。だが、誰もいない。

ただ……妙に冷たい空気が肌を這う。


いや、これ……


次の瞬間。


「――っ!!」


壁の隙間から、“それ”が這い出てきた。

漆黒の皮膚。三つに裂けた口。目はなかった。


異形の何かが、のたうつように地面を這い、千聖の足元に迫る。


「な、なに、あれ……ッ!」


思わず後ずさる。体が硬直して動かない。


やばい……やばいって……!


ガリッ――!


足首に冷たい何かが触れた。氷のような感触。

次の瞬間、強く引っ張られ、千聖の体が地面に引き倒される。


「やめろ……やめろっ!」


千聖は必死に足を振りほどこうとするが、影はまるで呪いのように食らいついて離れない。


喉から叫びが漏れそうになったその時――


「――退け」


静かな声が、闇を裂いた。


直後、風が唸った。

白銀の刃が閃き、黒い影は真っ二つに裂かれ、霧散した。


「……お前、見えてるんだな」


闇の中に立っていたのは、黒い羽織を纏った青年だった。

鋭い目つき、腰に佩いた日本刀。

何も言わずにそこに立っているだけで、空気が一変する。


千聖「だ、誰……?」


青年は答えなかった。ただ一歩近づき、千聖を見下ろす。


「名前は?」


「……如月、千聖」


「……如月、か」


青年は少し目を細めた。


「俺は小鳥遊 隼(タカナシハヤト)。陰陽師だ。さっきのは“垢嘗あかなめ”の成れの果てだ。普通は視えないはずだが……」


「陰陽師……?」


意味がわからなかった。ただ、助けられたのは事実だ。


隼「お前、これから“視える”ことで災厄を引き寄せる。普通に生きたければ、すぐにでもその目を閉じろ」


そう言い残し、小鳥遊は背を向けた。


隼「ま、もう遅いと思うがな。視た瞬間から、奴らはお前を“知って”いる」


「もし、こちら側になりたいなら歓迎する。

陰陽師は常に人手不足だからな。」


その背中を、千聖は言葉もなく見送った。

世界の境界が、音もなく崩れ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ