表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

1-3

退院の日は、雲ひとつない快晴だった。


病院の玄関を出ると、街の匂いがした。アスファルトと排気ガスと、花の匂いがまじった、懐かしい空気。

母が用意してくれた新しいジャージは少しゆるくなっていて、2年の時間の重みを改めて実感させた。


「さあ、千聖。まずは好きなご飯にしましょうね。焼肉? お寿司? それとも家でハンバーグにする?」


「んー……ハンバーグ……かな」


本当は、食欲なんて全然ないんだけどな。


視界の隅。道路の端っこに、誰もいない空間に“誰か”が立っていた。


白い顔、空洞のような目。ずっとこっちを見ていた。

でも、それを指さしたって、母も父も「誰もいないじゃない」と返すだろう。もうわかってる。


退院しただけで、状況は何も変わってねぇ……


夕飯は本当にハンバーグだった。

ジューシーで、ちゃんとおいしいのに、口の奥に違和感が残る。

“あれ”の視線のせいだ。家の外にまで、まだいる。


部屋に戻っても、窓の外に黒い影が立っていた。

もう気配は日常に溶け込みすぎて、違和感というより「在るべきもの」みたいな顔をしている。


スマホを手に取る。ニュースアプリを開くと、不可解な事故の記事が目に入った。


《高校生、踏切で不自然な転落死 目撃者「線路上に“誰か”がいたような……」》


「……」


その瞬間、耳元で何かが囁いた。


「つぎは……おまえ……」


バッと振り返っても誰もいない。


千聖(――なんなんだよ、これ……!)


体が震えていた。まるで、世界が変質してしまったような、取り返しのつかない違和感。


そのとき、机の上の古びた鏡に、黒い影がぼんやり映った。

見覚えのある、病室にいた“それ”だった。


けれど今度は、ただの影ではない。


――そいつの背後に、さらに巨大な“何か”がいる。


その存在感に、千聖は思わず息を呑んだ。

ただ“見える”だけじゃない。“呼ばれて”いる。どこかへ。


千聖「なあ……俺、やっぱおかしくなったのか……?」


けれど誰も、答えてはくれなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ