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3. いたさなくても初夜は初夜?


情緒もへったくれもない初夜を済ませ、夫婦生活が始まった。

いや、夫婦生活は始まったが、初夜は……



「で、するんですか?」


ベッドに座っていたクラーラにそう言われ、僕は彼女に近づいた。

クラーラは羽織っていたガウンを脱ぎ、今まで隠れていたその肢体が露わになった。想像以上の胸の盛り上がりに添う防御力の低いペラペラの下着。その格好を直視した僕の鼻から血液が滴り落ちてきた。要は鼻血が出た。


「「!?」」


クラーラの脱いだガウンを押しつけられて鼻を押さえたが、それに残っていた温もりと残り香で再び血が噴出したような気がした。


「まだ服も脱いでいないのにそれでどうするんですか?」


「……」


反論できない。

またその肢体を直視すると、再びまずい気がして目を逸らした。


「閨教育は……はいはい、その様子だと座学だけで実地は無しだったんですね。」


初めてはレナータと決めてたんだから、あたりまえだろう。彼女以外は触れたくなかったから、座学だけで済ませた……まさかこんな風に影響が出てくるとは。

だいたい、閨の教本の図解は色気も素っ気もないものだったからしょうがないだろう。


「しかし、困りましたね。裸になる前にこれでは、脱いだらどうするんですか?胸もお尻もあんな所もこんな所も見ちゃうし見られちゃうんですよ? 裸同士で抱き合って組んずほぐれつ。」


あんな所こんな所……組んずほぐれつ……想像で頭に血が上る。また血が……

って、なんで君はそんなに落ち着いているんだ?まさか……


「ちょっと待ってください。まさかとは思いますが、経験があるのか?なんて言い出さないですよね?

私は知識として知っているだけですから。

領民の皆さんと一緒に働いている時に色々と話を聞くんです。休憩中の話題としては多いんですよ、色恋話や夜のお話って。お陰で耳年増になりました。

そんな話の中で出てきたのが、先ほどの雑誌の『巷説貴婦人』ですね。あれは嫁姑問題など、婚家での揉め事の暴露記事が人気でした。閨関係の話が出てくる雑誌として『うわさの貴婦人』が有名かな。赤裸々な体験談に、これから初めてを迎える者としての心構えができましたもの。これを女性向けの閨の教本にした方がいいのではと思いましたわ。」


一体どんなことが書かれている雑誌なのか気になった。後で取り寄せてみようか……


「ユーリウス様は知らないと思いますが、女性用の閨教育で何を教わると思います?

深呼吸をしましょう。

力を抜いてリラ~ックス。

後は、旦那様に身を任せましょう。

ですよ。

何をするのか全くわからないですよね。そんな訳の分からないのに、リラックスなんてできませんよ。深呼吸したところで、落ち着くどころか余計に心臓がバクバクしそう。」


確かに全く分からないな。それでは閨教育の意味がないだろう。


「それはともかく、ユーリウス様は女体を見慣れるところからでしょうか。

高級娼館の方にお願いして慣れるとか……いや、それでは彼女たちの魅惑の裸体がユーリウス様の鼻血に染まってしまうかも……生身の前に、フォトグラフで慣れた方がいいですね。」


そこはかとなく、馬鹿にされているような気がする。


「ユーリウス様、ヌードフォトグラフとか見たことないですか?ほら、男性向け雑誌の『デッラ佳人』とかに載ってましたけど。え? 知らない? 『デッラ佳人』あれ、男性向け雑誌の売れ筋№1って聞いていたんですけど。」


学生時代、友人達はこそこそとそんな雑誌を見ていたように思うが、僕自身は見たことがない、ちらっとしか。レナータ一筋だったからな。

しかし『デッラ佳人』? いや、『ラ ゴルジュ』とか言う雑誌だったような……少ししか見ていないが。


「ああぁ……巨乳、というか爆乳専門の雑誌ですね。へぇ…………意外です。」


なんだかすごく誤解された気がするのは……気のせいだよな。


「分かりました。それも含めて数冊、ヌードフォトグラフが載っている雑誌を取り寄せましょう。それでとにかく女性の裸体を見慣れてください。話はそれからです。え? そんなことをしなくても、もう大丈夫ですって? そんな台詞は、私の方をちゃんと見ながら言ってくださいよ。目が泳いでますわよ。」


視線が定まらない僕を見て、クラーラが笑っていた。


「鼻血、治まりましたか?」


そう言って、僕の方へ手を伸ばそうとしたクラーラの肩からベビードールの肩紐が落ち、露わになった胸を見た僕は再び出血することになった。情けない……


こうして、初夜は持ち越しとなった。


「おやすみなさい」と言って、クラーラはベッドに横になるとあっという間に眠りについた。婚儀や披露などで疲れていたのだろう。

クラーラには隣で寝ていても気になりませんよ。そう言われたが、僕の方が気になってしまうので、結局ソファに場所を移した。

手に持っていた、鼻血で汚れてしまったガウンを見て思ってしまう。

相手がレナータだったらどうだったのだろう?と。

ちゃんとできたのか?

考えたところで答えは出ない。




後々クラーラは、女性向け閨の教本を本当に作り直してゆく。


「閨ですることが分からないのも問題ですが、ロマンス小説を鵜呑みにして、初めてで官能を求めてしまうのを避ける為に、注意喚起をしないとと思いました。

あれは夢物語だ……めくるめく官能の世界に行くには、幾重にも山がある。」


クラーラは眉間にしわを寄せながら、そんなことをぶつぶつとつぶやいていた。

いつになく真剣な顔をしたクラーラが作った閨の教本は、直接的な表現が古い世代の批判はあったものの、徐々に受け入れられていった。



あれ?幾重にも山、のいくつかは、僕に技術的な問題も入っている?



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