2. 安全だから安心なんです。
※嘔吐を表現するシーンがあります。
情緒もへったくれもない初夜を過ごし、僕たちの夫婦生活が始まった。
愛よりも食を重視のクラーラは、とにかく食べ物を美味しそうに食べる。
出される食べ物をいつもにこにこ顔で幸せそうに食べている。美味しいわ、ありがとう、と、お礼も必ず言っているようだ。
給仕の者達もその食べっぷりに皆嬉しそうな顔になる、調理場の料理人も作り甲斐を感じている、そんな幸せオーラを出しながら食事をする人だった。
ビーラー家の領地が災害に見舞われた時、とにかく食べられなくて困ったことから、食の大切さを実感したと言っていた。
領地を復興させるため、借りられるだけ借金をし、領主の館にある物でお金に換えられる物は、ほとんどと言っていいほど換金し復興に当て、領民を飢えさせない為に領主の館にある備蓄の食べ物を放出した。自分たちの食べるものは、飢えることがない程度でどうにか過ごしていたらしい。
どうにかこうにかやりくりしていたものの、それでもどうにもならなくなった時に、僕からの求婚が来て飛びついたのだと言っていた。それがなかったら、
「どこぞの大金持ちの狒々爺男爵の愛人か、でっぷりハゲ豪商の後添えコースになっていたでしょうね。」
笑いながらそう言っていた。
それを聞いて、この愛のない結婚も彼女の役にたったのでは?と、少し罪悪感も薄れた気がした。と思ったら、
「だって、アビーク家って偉大なる農地を持つ家じゃないですか。穀物も果実も野菜もなんでもあり♪ そして畜産も盛ん。素晴らしいです。食べ物に困る可能性が限りなく低いところがとにかく魅力でした。もう、迷わずアビーク家に嫁ぎたいと思いましたもの。他の家は、貿易が盛んだとか鉱山を持っているだとか、お金は助かりますが食に直接関わりがなくて魅力に欠けていたんですよね。金や宝石はお腹の足しになりませんから。」
え? 狒々爺が嫌とかハゲが嫌とかじゃなくてソコ? 魅力はソレ? 結局は食べ物?
レナータ一筋とはいえ学生時代にはそれなりにモテ、多少なりとも持っていた、見た目の自信に陰りが生じた瞬間だった。
そんな、なんでも美味しく食べるクラーラだけれど、唯一苦手なものが貝。その理由がまた、彼女らしかった。
「ある日、貝を頂戴したんです。その時は美味しくいただいのですが、その貝、貝毒に汚染されていたらしく当たってしまいまして酷い目にあったんです。」
顔をしかめてそう言うクラーラ。淑女が口にするような話ではないのでしょうが……
そう前置いて、
「汚い話ですが、全てリバースですよ。全て。その日に食べたものが上から下から止めどなく。なんてもったいない!悪かった物だけ排出されればよいものを、それ以外の物全て合わせて流れ出てゆく様子にもったいなくてもったいなくて……本当にもったいなくて、私は悔しくて涙しました。それから、貝だけは避けているんです。」
嘔吐の苦しさや辛さよりも、食べ物が腹に溜まらないどころか、出て行ってしまい、栄養にもならないことの方が、とにかく悔しかったそうだ。もったいないと何回言ったことやら。
僕は失笑した。
するとクラーラはむくれながら言う。
「淑女だって、お腹は壊すし嘔吐もしますわよ。」
そう言って、子どもの様に顔を膨らませるクラーラ。
そのふくれ顔のクラーラを見て、ほんの少し、本当に少しだけ、クラーラが可愛いと思ってしまったんだ。
「それからは衛生面に気をつけるようになりました。貝毒は避けられませんが、食事前の石けんでの手洗いは必須です。」
その後のクラーラは、公衆衛生に力を入れ、領民に手に入りやすい石けんを作り広めていった。お陰で食中毒や風邪が減少したと報告を受けている。
「安全安心に美味しい食事!が人生のテーマよ」
そう言って大きく笑うクラーラは、太陽のように眩しかった。




