第2話 能力も平凡
俺は佐藤打。
恐らく異世界転生した先で、カルナという女に頭を踏まれたまま、這いつくばっている無様な男だ。
先程、圧に負けてこの女の部下になった訳だが、毎回こんな事をされるのかなと、既に部下を辞めたい気持ちでいっぱいだ。
そんな事を考えている内に、この体制を維持するのも辛くなってきた。
「あのー、もう部下になったので、足を退けて貰うことは…?」
俺は勇敢にも、血まみれのイカれた女にそう問いかけた。
「あ?」
あっやばい、死ぬかもしれない。
顔は見えないが、声だけで分かるキレてる!
「いや、そうですよね!私如きただの凡人がカルナ様にご意見申し立てるなんて、なんて傲慢なこと…」
カルナは俺の言葉遮って言った。
「あぁ、確かにスキルの確認をするのを忘れていた、召喚された時にギフトを貰ってるはずだ、だから踏まれてないで、さっさと確認しろ!」
うん、この人話聞いてないし無茶苦茶だ!
あの近所の近藤さん並にやばい。
小学生の時に、近藤さんの家にピンポンダッシュした時から、ずっと顔合わせる度に「顔面ピンポンダッシュ」って言って、地味に痛いデコピン食らわせてくるあの近藤さん並に!
と、思い出に耽けるのはさておき。
足は退けて貰えたから、さっき言っていたスキルでも確認しようかと思う。
ただ、その肝心な確認の仕方が分からない訳だが。
どうしようかと思い、カルナの方に目線を向けるが、早くしろと言わんばかりにこっちの事を睨みつけている。
さっきは焦っていてよく見ていなかったが、カルナの見た目はイカれた性格とは違い、
白髪のボブで赤色の綺麗な瞳をしていて…
正直言って、見た目だけ言えば何処かのお嬢様の様だ。
そう思うと、さっき踏まれていた事に対する不満感が減少したのは何故だろう?
まあそんな事より、今直面している問題を早く何とかした方が良いようだ。
スキルの確認の仕方だが、もういっその事適当に何か言ってみるか。
どうせやるなら盛大に、俺は大きく息を吸い、覚悟を決めた。
「ステータスオープンッッ!!」
俺の勢いは虚しく、何にも変化は起きずに、部屋にはただ俺のでかい声が響き渡った。
「おい…何をしている?」
先程の威圧感はどこへやら、あのカルナでさえ、俺の行動に困惑している。
「あっいやちょっと、スキルの確認の仕方が分からなくて」
俺は恥ずかしさと、失敗した事によりカルナの機嫌を損ねてしまい、また先程の様になるのでは無いかと焦ってしまった。
「そういう事なら先に言えよ、スキルは目を閉じて神に祈れば、勝手に内容が頭の中に流れてくる」
と、呆れたような顔で言われた。
急にマトモになるなよ!と思いながら、言われたことをこなす。
目を閉じて神に祈る…
神よ!
頼むから良いスキルを!
平凡な人生を送っていた俺に唯一無二の非凡なスキルを与えて下さい!
すると、頭の中に傾れ込んでくる情報が…
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スキル名:極平凡
内 容 :このスキルを使用すると、どんな
物も平凡になってしまう。
神の言葉:似合っているものを与えるのが、
僕の役目だからね。
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俺は何となく神が嫌いになった気がする。
スキルの内容を理解し、目を開けるのと同時に、カルナから問われた。
「どんなスキルだった?」
さてと、どうするか。
さっきのスキルの内容はどう考えても、物語の主人公が持つような強スキルではない。
きっとハズレスキルと言うものだ、こんなスキルだったと、正直に言ったらどうなることやら。
あいつは近藤さん並みにイカれているから、弱いスキルを手に入れたなんて言ったら。
すぐに右手の銃でバンってされるだろう。
ここは素直に言うより、嘘をついてでも強いスキルをもらったと言う方が得策だな。
もし嘘がバレそうになったら…
まあ、また異世界転生するだけだな!
「俺が手に入れたスキルは…」
そこで、またもやカルナが遮る。
「あっそうだ、嘘ついたら殺すからな」
こいつは、何回俺の言葉を遮れば済むんだ。
流石にムカついてきたし、何気にさっき相当ヤバいこと言わなかったか?
嘘をついたら殺す…
まずい、もしかしたら嘘をついたかどうか分かる魔法でもあるのかもしれない、もしそうならヤバい。
とりあえず、嘘をついたか判別出来るものがあるかだけでも確認するか。
「えっと、嘘をついたかどうかは、どうやって判別するんですか?」
俺がそう問うと、カルナは言う。
「そんなの、俺様が嘘だと思ったらに決まってるだろ」
「何だ、もしかしてお前…今俺様に嘘をつこうとしたのか?」
「殺すぞ」
こいつ近藤さん以上にヤバいな。
どうしよう、今の状況だと何のスキルを手に入れたと言っても殺されそうだ。
俺は迷いに迷い、ある一つの結論に辿り着いた。
もう正直に言おうかな!
だって怖いもん、嘘をついてバレるまでの間が怖すぎるんだよ。
それに、嘘をついて拷問とかされるの嫌だし、それなら正直に言って一思いに殺されるほうがマシだ…
俺は緊張で心臓が張り裂けそうになりながら、貰ったスキルの詳細を言う。
カルナはスキルの内容を聞き、少し考え込んでから言った。
「弱そうだな!」
ですよね。
「だが、能力の本当の価値は実戦でしか分からない、どんなに強い能力でも、本人が使いこなせなかったら意味がない」
カルナは俺の能力の弱さを聞いても、一向に殺してこようという気配はない。
おっと、もしかしたら死亡ルートは免れたか?
流石のカルナも、能力が弱いってだけで殺すなんて事はしないのか、良かったー。
緊張で固くなっていた体が、少し安堵で緩んだ時、カルナは笑顔で言った。
「だから、近くにあるギャングの本拠地にカチコんでこい」
どうやら俺は死ぬのが少し遅れただけっぽい。