無限の友
「セィッ!ハァッ!」
「フッ、ハッ!」
ある近くの訓練場、そこで二人の男が互いの武器を打ち合っていた。一人は黒くて薄い動きやすそうな忍びの格好をした槍を持つ男、そしてもう一人は黒いコートに黒いサングラス、オマケに黒いズボンに麦藁帽子の様な黒いハットと全身黒尽くめで覆われた男だ。その手には十字架の様なデカイ剣が煌めいている。その両方がぶつかり、高い金属音が辺りの空間を支配する。
「ハァッ!」
「甘いです。」
黒いコートの男の剣が忍びの男の槍を弾く。忍びの男の手から槍が後方へと飛んでいった。どうやら勝負が着いたようだ。男達は汗を流しながら近くの地面に腰を下ろす。
「だ~ディン副隊長強すぎですよ!?」
「まだまだ甘いですねペケサ。オレが強すぎだったらキャッド隊長はどうなるんですか。」
「あれはもう人の領域じゃありません。」
ペケサと呼ばれた男の愚痴にディンと呼ばれた男が苦笑しながら返した。そこに近くで見ていた女性兵士が目に入った。ディンはその女性兵士を呼ぶ。
「そんな所で何をしているんです?こっち来て話に混じりましょう。」
「ヒァッ!?で、でも私なんかが入っても・・・」
「いいからいいから。新入りですか?」
「はぃっ…今年この無限の軌道部隊に入隊しました。ユメ・プラーと申しまひゅッ!?」
ユメと名乗った女性兵士は赤くなる。どうやら緊張で噛んだ事が恥ずかしかったらしい。
「はははっ!そんな緊張しなくて良いんですよ。同じ部隊同士、仲良くやりましょう。」
「そ、そんな…黒衣の僧侶様と漆黒の奏者様にただの兵士の私が仲良くなんて恐れ多い…」
「そんな大層なあだ名はオレには似合いませんよ。気軽にディンと呼んでください。しかしフフッ…私もこんな時代がありました。」
「そういえば隊長と副隊長ってヤオヨロズ建国初期からいる同期なんですよね?どこで隊長と出会ったんです?」
「そうですねぇ…アナタも聞きたいですか?」
「フェッ!?…聞きたいです。」
ユメはいきなり話を振られたせいで一瞬戸惑ったがそれからおずおずと小さな声でそう言った。ディンそれを聞くと満足気に頷いて静かに話始めた。
「今こそ黒衣の僧侶なんて呼ばれていますが…昔の自分はただの傭兵でした。傭兵といってもオレを雇う国はいつも小国だったのでほとんど負けていましたが…」
「まさか・・・道連の戦士!?」
「そんな呼ばれ方もしていましたね。」
「道連の戦士?何ですかそれ?」
ペケサは驚愕の表情で叫んだ。ユメの方は何の事か分からないようだが・・・ペケサはそれを見てユメに説明をし始める。
「勝てそうな大国の依頼を断り、弱い小国ばかりの味方についていた凄腕の傭兵。どんな安い金額でも雇われてくれるので一時は小国の間で英雄視されていた。」
「そんな凄い方が何で道連なんて不吉なあだ名を付けられるんですか?」
ユメが続けてペケサに聞く。どうやら先ほどまでの緊張は完全に無くなっているようだった。順応性の早い女性である。ペケサはさらに話を続けた。
「道連の戦士は確かに強かった。何回もの激しい戦いに生き残ったのがその証拠。それに何か皆を引き付けるカリスマ性のような物を持っていたんだ。さらに圧倒的な兵力差でも臆せずに突っ込んでいくその姿に、味方も負けると分かっていても勢いで何倍もの敵に突っ込んでいった。そして結果は・・・・」
「傭兵以外全滅。」
ペケサの言葉をディンが引き継ぐ。その時のディンの顔はどこか懐かしむような…そして悲しむかのように遠くを見ていた。
「そんな事が何回もあってから周りの小国はその傭兵を味方を道連れにする戦士、道連の戦士として恐れるようになった。死んだと聞かされていたけどまさかこんな近くにいるなんて・・・」
「死にましたよ。道連の戦士は・・・」
暗い雰囲気が辺りを包む。そんな空気を変えようとユメが慌てて話題を出した。
「そ、そういえばその過程でキャッド隊長と会ったんですよね?」
「そうですよ。五年前ですかね。当時自分はある小国に雇われていまして・・・その時の相手がヤオヨロズ国だったんです。」
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「敵が攻めてきたぞ!」
「怯むな!なんとしてもここで敵の進攻を阻止するんだ。」
「グファッ!?」
雇われていた小国とヤオヨロズ国との力の差は歴然で、敗戦に敗戦を重ね、とうとう最終防衛ラインまで押しやられたんです。その最終防衛ラインの戦いでも向こうとこちらの兵力差は約五倍。正直、誰が見ても勝敗は明らかでした。そこの最前線でオレは戦っていたんです。
「ダメだ!?数が違いすぎる!」
「逃げるな!?ここを破られたら祖国は終わりだぞ!!」
「腕が!?腕ガアァ!!」
「・・・・・」
「ガフッ!?」
オレの剣が急所を正確に切り裂く。相手はなす術も無く倒れていった。もう何人敵を切っただろう?オレは周りを見渡す。すでにそこにいる味方は血に塗れた屍に変わっており、敵しかいなかった。
この国ももうお終いだな・・・・
「ハアァアアッ!!」
「邪魔だ。」
後ろから襲ってきた敵の剣を受け止めると、上から下に袈裟切りに切った。口から血を流しながら襲ってきた相手は倒れる。オレは近くにいる敵数人を睨み付けた。
「ヒッ・・・」
「キ、道連の戦士・・・」
「こんな化け物に敵うハズがねぇっ!?」
「お、おい!?相手は一人だぞ!!ッツ!?」
オレは指示を出していた隊長格らしいヤツに近づくと手に持った大剣でソイツの首を切った。首と胴体が生き別れ、元人だったものが崩れる。
他愛無い・・・人とはこんなにも弱いモノなのか・・・
「アナタですね?最前線で暴れている道連の戦士とは…申し訳無いですがこれ以上の勝手は私が許しません。」
そこでオレンジの髪に赤いバンダナ、そして右手にはオーガトゥースと呼ばれる大剣を持っている男がオレの目の前に立ち塞がった。オレは一瞬自分の目を疑う。オーガトゥースは鍛え抜かれた男でも両手でようやく持てる代物だぞ。それを片手でなんてどんな筋力をしてやがる。
「許さなければどうだというんだ?」
「叩き伏せさせてもらいます!」
そしてオレの武器と相手の武器がぶつかった。相手は片手だというのに大剣を軽々と振り回す。オレもそれに合わせて剣撃を受け止めた。大剣の重さで足が沈む。
「中々やりますね。ではこれはどうです?…ブレイクハート!」
「なっ!?グゥウッ!!」
近距離で突然撃たれた魔法をオレは自分の愛剣を盾にして防いだ。体が勢いで吹き飛ばされるがすぐに体を回転させて着地した。
「ほぅ?あれも回避しましたか。すごいですね。」
「当然だ。オレとこの剣、レクイエムがあればこんな事は容易い。」
オレは血に塗れても金色に光り輝いている自分の剣を見つめる。それは戦場では不気味なほど光っているがいつもの事なので今更気にはしない。
魔剣 レクイエム
金色に光るその十字の大剣はまるで巨大な十字架を思わせるが侮る事無かれ。この剣は魔力耐性を高め、殺した敵の魔力を吸って力を得るまさに魔剣と呼ばれるに相応しい能力を持っているのだ。
たまたま殺した偉い騎士団長から奪い取った物だが敵に掠らせただけでも魔力を吸い取り、弱らせるので使い勝手が良く、それから愛用している。
「なるほど。それが有名な魔剣、レクイエムでしたか。でも・・・当たらなければ意味は無いです。」
「なら避けてみろ!」
オレはレクイエムを大振りに振りかざす。そんな大振りの剣が当たるハズも男はそれを難なく避けるとオレの腹を切った。
コイツは確かに強い…が。
「グブッ!?・・・ヘッ。」
「!?っつ・・・抜けない。」
相手の大剣は切ったままオレの腹で止まっていた。血が止め処なく流れてかなり痛いがオレは抜かせまいとさらに腹に力を込める。そして・・・
「これなら避けられないだろ?」
一気に上からレクイエムを振り下ろした。勢いで土煙が舞う。
勝った!
オレは心の中で歓声を上げた。勝った。この距離で避けられないは・・・ず・・・?ウソだ!?
「さすがに焦りましたよ。手を離さなければ真っ二つにされていました。」
男はオレから少し距離を開けて平然と立っていた。それとは逆にオレは完全に動揺してしまっていた。バカな!いくら武器から手を離したとしてもあの距離で避けられるハズが無い!?
「何故って顔ですね。タイミングを見計らって飛べばあの距離でも避けられなくは無いですよ。」
「なるほど、アンタがあの有名な仮面被猫か。確かに見事な仮面の被りようだぜ。」
「そんな大層なあだ名で呼ばれてるなんて光栄ですね。」
聞いた事がある。新しく出来た新国で正体不明の凄腕武士がいると…普段はのんびりとしているが戦いの時にだけ恐ろしく強い化け物のような存在になるらしい。なんでもソイツの正体を調べようと侵入した他国の暗殺部隊が全て消されたらしい。そして戦いになると豹変する事と本人が猫好きであるという話から仮面被猫と呼ばれるようになった。
噂だけしか聞いた事が無かったがまさかヤオヨロズ国にいたなんてな。だが好都合だ。隊長格であるコイツを殺せば敵は一気に崩れるだろう。
オレは腹に刺さったままの大剣を抜いて後ろに放り投げる。腹から大量の血液が溢れ、痛みは尋常じゃないが武器さえなければヤツには攻撃を防ぐ術が無い。いかにオレが手負いでも勝機はこちらの方が圧倒的に上だ。
「武器無しでオレに勝とうってか?」
「武器が無くても戦い様はありますよ。」
「舐めるな!!」
レクイエムに魔力を込め、走り出す。勢いをつけて切りつければヤツは必ず避ける為に態勢を崩す。そこで強烈な一撃叩き込めば今度こそオレの勝ちだ!
「ふぅっ・・・」
だが男は避けなかった。それ所か息を整えて受け止める構えさえ見せている。クソが…いつまでも舐めたマネしやがって、オレの一撃を無手で受け止めれると思うな!!
「…龍人拳技眼の型、心円。」
「ウオラァッ!!」
金色の刃が男に迫る。だが男はまるで円を描く様にレクイエムの側面を触るとと刃はいとも簡単に男の手で止まった。最高の一撃が止められたというショックにオレの思考が一時的に止まる。それは一瞬だったが男が反撃をするには十分な時間だった。
「少し本気でいきます。エンペラーマインド!」
「・・・!?っつオレに魔法は効かん!」
オレはすぐに意識を取り戻すとレクイエムを盾のようにして掲げる。魔法がオレにぶち当たる。が防い・・
「本気でいくって言ったでしょ。」
「グゥッ!?威力が、高、すぎて防ぎ切れな・・・ガアァアッ!?!?」
オレの体が紙のように吹き飛ばされ、近くの大木にぶち当たる。体から焦げくさい臭いが発生し、手からはレクイエムがこぼれ落ちた。そこにすかさずオーガトゥースを拾った男が剣の先をオレの首に当てる。
「勝負あり、ですね。」
「・・・オレの負け・・・か。」
体は全く動かない。魔力もレクイエムに全て込めたせいで0。例えあったとしてもコイツには勝てないだろう。
「キャッド様、我が軍は敵の最終防衛ラインを突破、敵国の王も先ほど降伏しました。」
「報告ご苦労、…お前はどうする?すでにお前の雇い主は負けを認めたぞ?」
「殺せ。」
オレは言い放った。これは戦争だ。負けた者は死あるのみ。そうして今まで生きてきた。
「・・・そうですか。死ぬ前に一つ聞かせてください。アナタは何故小国ばかり傭兵の依頼を受けるんですか?大国の方が金の額も大きいし死ぬ確率も低いでしょう?」
「・・・別にただ大国が気に入らないだけだ。」
「嘘ですね。」
ピシャリと男はオレの言葉を切り捨てる。それがオレの心に矢を放った。
「アナタはただ死にたがってるだけですね。」
「・・・お前に何が分かる。」
オレは怒気を含めて言い返した。そうだ、こんなヤツにオレの何が分かる…
「そんなもの話してもらって無いのに分かるわけないじゃありませんか。」
「・・・そうだ。オレは死にたかった。オレは昔、小さな村の村人だった。貧乏だったが村の皆は優しくて幸せだった。だが大国の軍が村を占拠してから全てが変わった。村は焼き払われ、村の皆、両親、友達も当時いたオレの恋人も殺された。」
なぜオレはこんな話を敵にしているのだろうか?きっともうすぐ死ぬからなのだろうか?オレの口は止まらなかった。
「オレは重傷を負いながらも村を逃げ出し、近くに落ちてあった剣を拾って傭兵になった。オレの村を焼いた奴らに復讐する為に生きてきた。そしてある時、戦場でそいつらを見つけて殺した。」
「・・・・・・」
男は黙ってオレの話を聞いていた。同情するわけでもなく、また下らない表情でもなく、ただその辺の会話を聞くようにオレの話を聞いていた。
「そいつらを殺した後、オレは生きる目的を失くした。だが自分から死ぬ勇気は無かった。だから危険な戦場で戦っていれば勝手に誰かが殺してくれると思った。」
結局今まで生き残ってしまったがな・・・と口の端を上げて小さく笑う。男はオレの話を最後まで聞くと大剣を取った。オレは目を瞑る。
やっと死ねる…思えばここまで無駄に生きてしまったな。親父、お袋、エース・・・そしてスズ。オレもそっちに行くからな。
ドズンッ!!
大剣が振り下ろされる。だが不思議と痛みは無かった。一瞬だったからなのだろうか?目を開ける。
「・・・どういうつもりだ。」
「いえ別に何でもありません。ただアナタを殺すのは惜しいなと思っただけです。」
男の大剣はオレの体にではなくオレの横の地面に突き刺さっていた。どういうつもりだ?コイツはオレにまだ生きろというのか?
「オレはもう死んだ人間だ。情けはいらない。サッサと殺せ!!」
「あなたはもう我が国の捕虜です。あなたに選択権はありません。」
「ふざけ「あなた、私に雇われませんか?」はっ?」
オレが怒鳴ろうとするとその言葉に被せて男は驚くべき提案をしてきた。雇う?オレを?コイツ何を考えている。男はオレに手を差し出してきた。
「ちょうど今度自分が作る部隊の人材を探していた所です。あなたのような実力者なら歓迎しますよ。生きる目的が無いなら私の部隊で見つけなさい。」
「・・・変わったヤツだ。分かった、どうせここにいても死ぬだけだし依頼を受けよう。ついでに生きる目的もな。」
オレは男の手を取る。この男…いや隊長についていけばあるいは生きる目的も見つかるかもしれない。
「私の名前はキャッド。キャッド・ラゴン。アナタを無限の軌道部隊に歓迎しますよ。」
「・・・オレの名前はディン。ハテナ・ディン。これからよろしくお願いします。隊長。」
こうしてオレは無限の軌道部隊に入る事となった。
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「・・・っというわけです。って何で泣いてるんです?」
「ヒグッ…ウグッ…」
「隊長・・・」
話終えたディンの前には号泣しているユメとなぜか目をキラキラさせているペケサの姿があった。
「ディン様にそんな過去があるなんて知りませんでした・・・」
「部隊創設にそんな感動的な話があったなんて知りませんでした!」
「いえまぁその後色々あって今は無限部隊の副隊長に落ち着いているんです。」
ディンは懐かしそうに遠くを見る。その時偶然にもキャッドが来た。
「何の話をしているんです?」
「あ、キャッド隊長。」
「いえディン副隊長とキャッド隊長の出会いの時の話を聞いていまして・・・」
「また古い話を・・・それより任務です。近くの街が攻撃を食らっているらしいので至急救助に向かいます。ディン、着いて来てください。」
「了解しました!」
ディンとキャッドが訓練場を出て行く。ディンはふと訓練場を振り返った。思うのだ。オレはキャッド隊長に会わなければどうなっていただろう?まだ戦っていただろうか。それともどこかで死んでいただろうか。
少なくとも今を生きるのは悪くない。この無限の軌道部隊に誘われ、さまざまな友が出来た。そしてオレはこれからもこの無限の軌道部隊でキャッドさんと共に戦い続けるだろう。この部隊を守る。それが・・・
オレの生きる目的だ。
完
さてさてようやっと終わりました。皆さんも気づいていると思いますがこれはヤオヨロズシリーズ無限の軌道部隊の小さな続編です。
何気にヤオヨロズシリーズはオレの気にいっている作品です。無限の軌道部隊がどうやって出来たかお分かりになられましたでしょうか?
ではまた次の機会にお会いしましょう…最後に、この短編を書くきっかけをくれた友人に無限の光あれ!!