〜渦巻く画策〜⑧ 作戦会議
エリィはゆっくり丁寧に思い出すように語った
エリィの話しを黙って聞いていた二人はしっかり目を見て俯かず涙を流した
「エリィありがとう……聞かせてくれて」
「ううっエリィちん……レイさんも……そんなことがあったなんて」
――エリィとレイさんにはネネちゃんという絆があるんだな……だからこんなにレイさんを慕い、レイさんもエリィを大切に想っているんだ……――
「聞いてくれてありがとうございます、ミストの街に寄った時はネネちゃんのお墓に一緒に行ってくれますか?」
「ぜひ行かせて!」
「もちろんっちゃ!」
エリィの微笑みはとても穏やかで二人の笑顔を誘った
次の日の朝、シュンカが宿を訪れた
「朝からすまんな、夜の取引について話しておこうと思ってな」
トーマ達はシュンカを招き入れテーブルに四人で腰掛けた
「そうですね、「八咫鏡」は届きましたか?」
「ああ、まもなく届くと思う」
エリィは四人分の紅茶を出し、シュンカも軽く礼を言って紅茶を口にする
「第八騎士団が来てくれるはずだ、全員ではないが騎士長代理のビオルクという調子のいい男が取引前に君に預ける予定だ」
「第八騎士団!ドイルさんと師匠の!?」
トーマとエリィは目を合わせて笑顔がこぼれる
「……やはり「戦鬼ガランド氏」が君の師か、剣技がドイル隊長なのもガランド氏に教わったのだな」
「そうです!この大剣もその時にいだだきました!」
――シュンカさん、試験の時この大剣見てたもんな――
「だったら私が姉弟子みたいなものだな、私はドイル隊長から剣技を学んだ」
「――!」
「そうなんですね!いや〜狭いなぁ世界は!あっサラちゃん無事に呪い解けましたよ!」
「そうか、ドイル隊長もあの世で喜んでいるだろう、私からも礼を言う」
「ドイル隊長の意志を受け継いでくれてありがとう」
「とんでもないです!ほとんど師匠が倒したし、オレなんて作戦考えただけだから……その作戦もエリィがいなかったら無理だったし……」
「でもトーマくんがいたから救えたんですよ」
すかさずエリィがトーマを肯定する
「トーマっちすごいっちゃ!あの「戦鬼ガランド」の弟子でシュンカさんの弟弟子!……こりゃゼロになる日も近いソ!」
「……ゼロか……獣人族の英雄、勇者ゼロだな」
「そうなソ!トーマっちはゼロになるソ!」
シュンカは当時幼かったが、グリディアにとってゼロといえばゼグ獣王国の勇者として名が知れ渡っているので納得する
「そうか君ならきっと……そういえばセブンっていうのも最近いたな……まあ詮索はいいか」
「……」
トーマとエリィは答えない
――シュンカさんにはバレてそうだが二人が心配するから知らないフリしよ――
「話し戻しますけど、集合時間と場所はどうします?」
トーマは自然に話題を切り替える
「場所は街の南口で夕方までに来てもらう、人質交換は夜になってから街の外だ」
「オレとエリィの二人だけでですか?」
トーマはエリィを心配そうに見る
「街の中に第八騎士団が待機、私と君達だけで行く」
「ウチは?」
コーラルは身を乗り出してシュンカに尋ねる
「コーラルはここに居てくれないか?危ないし」
トーマが心配してそう言い、立ち上がったコーラルの肩を優しく押して座らせる
「なんて〜!ウチも冒険者っちゃ!エリィちんも行くのにウチだけ安全はイヤっちゃ!」
コーラルはトーマに食ってかかりまた立ち上がる
「う〜ん……でも向こうの要求に反すると、じゃあ第八騎士団と一緒とかってダメですか?シュンカさん」
トーマは自然にコーラルを座らせながら譲歩する提案を出す
「そうだな……ではコーラルは第八騎士団と君とエリィは私と行こう」
「だがみんな心配するな、誰も死なせないし八咫鏡も渡さない、向こう側も軍隊ではなく少数だろうからな」
――八咫鏡は渡さない……大丈夫か?――
「つまりこちらの見解では向こうは戦うつもりでは来ていないはず、ズーク宰相は取り戻すけど八咫鏡も渡さないと…………じゃあきっと戦いは起きますね」
トーマはエリィやコーラルのためにも慎重に作戦の確認をする
「そのために私がいる、交換して皆の安全を確認できたら取り戻す!」
――でも嫌な予感がするんだよな〜これだけ計画されてて、シュンカさんがいるこの状況で帝国はどうやって要求を通すつもりだ……そういえば――
「帝国の工作員は……つまり誘拐を手引きした人物は分かったんですか?」
シュンカは首を横に振る
「まだだな……君は帝国がまだ何か仕掛けていると思ってるんだな……たしかにこの後無策で人質交換をしてくるなんて無謀か……君はよく全体が見えている」
シュンカは顎に手を添えて頷く
――シュンカさん、なんかめっちゃ褒めてくれるんだよな……はっ!まさかシュンカさんオレのこと……なんてそれはないか、ないない……ない…のか?――
「では君は誰か怪しいと思う者はいるか?」
トーマは熟考する
「……きっと立場が上の人ですね!誘拐は一人では難しいのでこの街にすんなり入れる事が出来る人物……ズークさんとも面識あると実行しやすいですし……一般の人ではないでしょう……複数人が潜入してたらまた話しが変わりますが、単独の工作員なら一番怪しいのは…………ギルドマスターのマイメロさんかな〜」
「――!」
とんでもない考察に三人は驚愕する
「いや、あくまで可能性ですよ!オレがこの街で出会った人数も限られてますし……ただ工作員はこの街である程度の権力を持ち信頼されている人物ではないかなと」
「君は……本当に凄いな……」
「怖っ!トーマっち、いつも妄想ばっかしてるからそんな事思いつくソ?」
「トーマくん……軍師様みたいです」
三者三様の意見を言う
「え〜!いや普通だと思うけどなぁ」
「では念のため工作員が何か仕掛けてくる可能性を考慮して、騎士団の中にマイメロ氏をあえて入れて見張らせる、後はなるべく少数精鋭のほうが混乱しにくいな」
シュンカは一介の冒険者であるトーマの意見を参考に作戦を立てる
「参考にしてくれてありがとうございます、用心するに越したことはないですからね」
ではまた後でとシュンカは宿を出た