〜結婚という夢〜
「――え?「妖族」って……魔族?……」
「ああ……魔力を隠しているが人族に化けている……おそらくかなりの「高位魔族」……ビビは会ったことないから遥か昔から人族の中に紛れて生きてきたのだろう……」
「……でも……関係ないっちゃ……種族なんて……」
「いや……あの妖族は……アイボリーは自然と「呪い」をかけてしまうのではないか?……「愛した者」を……」
「――!アイちゃん……結婚……過去に六回ダメになったって……今まで全部「愛する人を呪う」ことで破談になって……じゃあアイちゃんは誰とも結婚出来ないの?……「夢」だって言ってた……う……うっ……」
コーラルはあのアイボリーの嬉しそうな表情を思い出し涙が止まらない
「でも!それでも相手の人が受け入れれば!」
「……相手は知らないんだろう……アイボリーが「妖族」であることも、「呪い」をかけていることも……」
「バレたら?」
「殺されるな……なんせ相手は「ソウニン・グリディア第三王子」だからな!」
「「「――!」」」
双方の話を聞いていたのはビビだけ、ファブニルに聞いた話を皆に説明するビビ
「ソウニン第三王子」の寵愛を受けたアイボリーは自身の「夢」もあり、その愛を受け入れる
貴族でもないアイボリーとの結婚はコレスト王からすればあまりいい話ではない、しかしグリディアの第三王子は我儘で有名、一度言い出すとそれを通すまで聞かない、コレスト王はその事を分かっていた
ただ王族には「妻」とは別に「側室」を持つことがある、よってアイボリーには「側室」として王族に入ってもらうということで話をつけた
「ソウニン第三王子」自身はアイボリーのことを「正妻」のつもりで求婚しているのだが国はそれを認めないだろう
ソウニンはどうしてもアイボリーと正式な「夫婦」になりたかった
アイボリーももちろん受け入れた
ソウニンは「御神木」の噂を耳にして、二人で「誓い」を立てれば願いが叶うのではないかとこの旅を計画したのだ
しかし思わぬ事態が起こる
ソウニンが急に体調を悪くし寝込んでしまったのだ
この旅に同行した従者は「最重要任務」として急遽「指名依頼」を出した
「Sランク冒険者ファブニル・ヴァレイ・ヤージュ」に「龍の花」を急ぎ調達するようにと
「エルフの秘薬」は先の戦いにより失われてしまった、頼れるのは「龍の花」だけ、そうなるとファブニルが適任であると国は判断したのだ
アイボリーには分かっている
自分には誰かを愛することは出来ないのだと
愛するとその人を殺してしまうから
過去に六人もの男性を「呪い」にかけてしまった
すべて結婚まで届かずに破談になっている
今度こそはと願うが呪われる
どれくらいの月日が経ったのだろう
また一人の男に愛される
始めはいい、愛してないから、愛した途端にその人を蝕んでいく
最後の望みは「御神木」
これでダメなら諦めるしかない、彼の側には居られなかった
アイボリーはギリギリまで側に居ないようにずっと「御神木」で待つことにする
「奇跡」が起きるかもしれないから「御神木」で「誓い」を立てよう
アイボリーにとって「結婚」は届きそうで届かない「夢」だったから
「ファブは気付くんじゃないソ!?アイちゃんに会ったら「妖族」ってこと!」
「……わからん……魔力はかなり抑えられているから」
「止めないといけんっちゃ!」
「待て!……それでいいのか?アイボリーは望んでいるんじゃないか?「奇跡」を……もしかしたら「御神木」のチカラで「愛する者を呪わない体」になれるかもしれないという「奇跡」を……」
「ファブが……気付いたら?」
「殺されるだろうな……」
「……それなのに放っておくソ?」
「止める理由はどうする……お前は「妖族」だから諦めろと言うのか?……ビビ達が出来るのは二人が無事に「誓い」を立ててアイボリーの正体がバレずに「奇跡」が起きるのを祈るだけだ……アイボリーもきっと危険は承知の上で「夢」を追いかけてる」
「ファブが殺そうとしたら?」
「それを止めたらビビ達はグリディア王国に帰れないぞ!「ソウニン第三王子」を騙した魔族を庇った罪で!」
「「「……」」」
エリィもイルミナも二人の会話に口を挟むことは出来なかった
コーラルの気持ちもビビの思いも分かっていたから
「ソウニンの「愛」が本物かどうかにもよるがな……」
ビビは独り言のようにそう言った




