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80億分の1  作者: 宇治かりん
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第四話

 大輔がうつ病と診断を受けてから、大輔と日向子は話し合い、迷った末、落ち着くまでは陽茉梨を日向子の実家に預けようということになった。日向子の両親は陽茉梨が生まれてすぐの時から「日向子も大輔さんも頑張りすぎちゃうところがあるから」と大輔達を心配してくれていた。実家に預けたいという旨を日向子の両親に伝えると、日向子の母は心配そうに大輔達をやさしく見つめながら、「もちろん大丈夫よ。二人のペースで、ゆっくりでいいからね。」と言って微笑んだ。それから陽茉梨は、彼女の母方の祖母の家で暮らすことになった。陽茉梨は名前の通り、明るくひまわりのようで、祖母、雨宮静子あまみやしずこと祖父、雨宮正生あまみやまさおを笑顔にさせた。静子達は陽茉梨を大切に、大切に育てようと思った。


 そして陽茉梨は3歳になり、幼稚園に入園することになった。可愛い制服を着て小さな黄色い帽子を被った陽茉梨は天使のように可愛く、祖父母たちの顔を緩ませた。「入園式」と丸い文字で書かれた可愛らしい立て看板の横で写真を撮り、陽茉梨は新しい世界へ飛び込んでいくこととなった。その背中はなぜだかとても立派に見えて、静子達は誇らしいような気分になった。

 園児が入場します。暖かい拍手でお迎えください。というアナウンスが部屋中に流れて周りが静かになると、ファンファーレのようなBGMが流れ始め、緊張した面持ちの園児たちが続々と入ってくる。当の陽茉梨はというと、緊張のあまり手と足を同時に出してペンギンのように歩いていた。その様子が可愛らしくて、静子達は顔を見合わせて微笑んだ。

 入園式が終わると、園児たちはそれぞれの組に分かれてレクリエーションを行う。陽茉梨は”りす組”になり、他の園児、約15人と一緒に活動をすることに決まった。陽茉梨は持ち前の明るさで同じ組の子たちに話しかけ、すぐに友だちになった。でも、りす組の中でもとても静かでいつも一人のさやかちゃんとは仲良くなれなかった。

 レクリエーションの時間も終わり、解散の時間になると、陽茉梨は一番に門をくぐり、静子たちの方へ向かって走った。「おばあちゃんおじいちゃん聞いて聞いて!!」陽茉梨はそう言いながら、静子たちと手を繋いだ。興奮冷めやらぬ陽茉梨は、幼稚園であったことをたくさん話しながら、家に向かって歩いた。静子たちはその陽茉梨の様子を穏やかな表情で、でもすごく嬉しそうに聞いていた。だが、心のなかでは、日向子と大輔にも聞かせたいと思っていた。陽茉梨と彼女の両親が直接会うことは無かったが、静子と日向子たちは連絡をよくとっていた。静子は今日の出来事を日向子たちに話し、もしよければ、陽茉梨と会わないかと提案した。日向子たちはすごく迷った。

 陽茉梨に会えば、私達が育てたいと思ってしまうはずだ。だがまだ大輔のうつが完全に寛解したとは言い切れないし、私がまた体を壊してしまうかもしれない。しかも陽茉梨と私達が離れたのは、まだ陽茉梨が1歳にもならないときのことなので、きっと覚えていないだろうとも思った。言い訳のようだが、私は、また育児をして、体が壊れるのが怖かった。

 日向子は静子に対して、今はまだ会えないとだけ伝えた。

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