信治との出逢い
朝食後、アトリエに通された菜美子は、数々の絵に魅了されていた。
――凄い。今じゃ美術の教科書に載る程の絵を、まさか生で見られるなんて。こうして見ると、ひいおじいちゃんって本当に凄い人だったんだなぁ……。教科書で見ていたし話には聞いていたけど。
菜美子は画材置き場にある画材を借りると、絵を描く準備を始めた。昨日は暗くて分からなかったが、アトリエには大きな窓があり、窓の外にはとても見事な日本庭園が広がっていた。桜の木が生えていて、池があり飛び石も置かれている。
――美しいなぁ。
菜美子は感嘆のため息を漏らしながら早速、アトリエの窓から見える庭の景色をデッサンして行く。
「先生、どうでしょう?」
デッサンを一通り終え、利治に意見を求める。利治は菜美子の絵を受け取り、じっくり眺める。
――うわぁ。ドキドキする……。
「ここをこうして、こういう風にしたらどうかな?」
利治は菜美子に手本を見せる。
「ああ! なるほど……。本当ですね、さすがです、先生!」
菜美子は、利治から絵を受け取ると続きを描いていく。そうして数時間が過ぎ、気がつくとお昼になっていた。
“コンコン”とノックの音がしてみちの声が聞こえる。
「利治さん、菜美子さん、そろそろお昼にしましょう」
菜美子は壁にかけてある時計を見た。時計の針は12時を指している。
お昼を食べ終えると、今日はもう終わりにして良いと言うことで、自由にして良いと言われた。菜美子は特にすることがなくなり、昨日の土手へ行ってみることにした。
しばらくそこへ座り、デッサンしていると後ろから声が聞こえて来た。
「あれ? 菜美子さん?」
振り返るとそこにいたのは治弥さんともう1人。見知らぬ男性がいた。
彼は高身長で、スラリとしている。肌が浅黒く逞しい感じだ。顔は濃い目で目鼻立ちがはっきりしている。
「治弥さん! 大学はもう終わりですか?」
「はい。今日は午前だけでしたので。あ、紹介しますね。僕の親友の吉野信治です」
「どうも」
吉野さんはペコリと会釈をする。
「で、こちらが昨日から父の弟子になった、菜美子さん」
「高須原菜美子です。よろしくお願いします!」
私は笑顔で挨拶をする。
「僕達も丁度、土手で絵を描こうと思って来たんですよ」
そう言って2人は私の側へ腰を下ろした。
「吉野さんも大学生なんですか?」
「いや、俺は大学へは行ってないです」
「働いているんですか?」
「アルバイトですけど」
「そうなんですか。吉野さんも絵が好きなんですね」
「ああ」
「そういえば、治弥さんは何歳ですか?」
「僕ですか? 僕は22です」
「ということは、大学4年ですか?」
「そうです。来年には卒業して、就職します」
「そうなんですか。吉野さんも治弥さんと同じ位ですか?」
「ああ。治弥と同じ年」
「そうなんですね」
「そういう菜美子さんは何歳ですか?」と吉野さんが聞いてくる。
「私は16です」
「16かぁ。若いなぁ」
「ふふふ。そんなに変わらないですよ」
「いやいや、若いよ。なあ、治弥?」
「ん? ……ああ、そうだよね」
「悪い、集中してた?」
「うん。少し。大丈夫だよ。話してても」
そう言って治弥さんは暖かな笑みを浮かべる。
――本当、おじいちゃんって穏やかだなぁ。いつか言った方が良いのかな?おじいちゃんだって。