崎本家にて3
「何ですか?」
「お腹空いたでしょう? ごめんなさいね。家は今お手伝いさんがいないから。あの子達も言っていたわね。急いで用意するから、部屋で待っていてもらえる?」
「分かりました」
菜美子とみちはこっそり廊下へ出ると、部屋へ移動した。
「この部屋が菜美子さんの部屋よ」
「はい、ありがとうございます」
菜美子は軽く頭を下げた。
「良いのよ。もし、何かあったら私に言ってちょうだいね? 女同士だし」
ふふっと笑いながらみちは出て行く。
「分かりました」
菜美子は部屋に入り襖を閉めると、周りを見回した。空き部屋だったこともあり、家具は何もない。なんとなく襖の側に座ってみる。
菜美子はポケットからスマホを取り出すと、電源を入れた。
――圏外。……これじゃ、家にも友達にも連絡出来ないよ。どこかの漫画とかみたいに時が止まっているとかじゃないなら、心配かけちゃう……。
菜美子は小さくため息をついた。少しして、襖を軽くノックする音が聞こえてくる。
「菜美子さん」
みちの声だ。
「はい」
襖を開けると、みちはおぼんに美味しそうな料理を乗せていた。
「1人で悪いけど、冷めないうちに食べて」
「ありがとうございます」
「いいえ。後でまた、取りに来るわね」
夕食をすませてのんびりしていると、みちがやってきた。
「口にあったかしら?」
「はい。とても美味しかったです。ありがとうございます。ごちそうさまでした」
「良かったわ。口にあったみたいで。皆お風呂に入ったのだけど、利弥も部屋に行ったし良かったら菜美子さんも入らない?」
みちは穏やかに微笑む。
「ありがとうございます」
私はお言葉に甘えてお風呂に入りに行った。
服を脱いで洗い場へ入ると、現代と違う煙突のついた浴槽があった。
――何これ? 凄い! 今じゃ当たり前の全自動の浴槽と違う。珍しすぎてスケッチしたい……!どうしよう、描きたくてうずうずする! 後でみちさんに聞いてみよう。
「っくしゅん!」
――いけない。こうしてたら冷えちゃうから、早く入らないと。
菜美子はお風呂に妙な感動を覚えながら、入浴した。
お風呂から上がり部屋へ戻ると、みちが布団と寝間着を用意してくれた。布団の上へ座るとだんだん眠気が襲ってくる。
――疲れた……。今日はもう寝よう。まさか自分がタイムスリップするなんて……。
菜美子は自分の身に起きたことが信じられないまま、眠りについた。