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時を超え巡り逢う初恋  作者: 宮守 美妃
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序章

 木枯らしに落ち葉舞い散る9月の夕暮れ時。彼女は、高校の校舎を急いで走っていた。

 彼女は高校一年で美術部に所属していて日本画を描いている。

 つい先程まで友達といたのだが、美術室にスケッチブックを忘れて、慌てて戻っている。


 美術室にたどり着き、息を整えると勢いよくドアを開け、電気をつけ誰もいない美術室に入り、自分の座っていた場所へ歩み寄る。スケッチブックに触れると夕陽が顔を照らし、目がくらんだ。

「眩しい!」

 その夕陽は教壇に置いてある絵に光を当てた。

 “女の子の絵?“ と思ったのもつかの間、絵は光り輝き始め、彼女は謎の光に包まれだんだん意識が遠のいて行った。





 川のせせらぎのような音に彼女は目を覚ます。

 ――何か、肌寒い。

 薄目を開けるとゴワゴワした草の上に寝転んでいる。

 ――何ここ? 何で私、こんな所に?


 ゆっくり起き上がり辺りを見渡すと、丸くて赤い郵便ポストが彼女の視界に入る。車も、珍しいような丸みを帯びた小さな車が目立っている。行き交う人々の服や学生服も、どこか現代と違う気がする。


 ――これは一体……?

 彼女は状況を理解するのに苦しんだ。


 ――あ、あそこに学生帽をかぶって学生服を着た男の人がいる。よし、聞いてみよう。


 彼女は立ち上がると服の汚れを払い、彼の元へ近づいて行く。

 川べりは肌寒く、草を踏むとカサカサ音を立てる。近くへ行くと彼が音に気付いたのか、こちらを向いた。彼女が声をかけるよりも先に彼は口を開いた。


「僕に何か?」

 深めに被られた学生帽を少し上にずらし、帽子のすき間から短い黒髪が見える色白の彼は彼女を見上げる。彼女は少しかがみながら声をかける。


「突然すみません。ここはどこですか?」

 彼はかすかに目を見開き、しかし人の良さそうな彼は答えてくれる。

「ここは東京ですよ」

「東京……もう一つ良いですか?」


 彼女は知っている東京とは違う景色に戸惑いながらも尋ねる。

「良いですよ」

「今、何年ですか?」

「何年とは? 昭和33年ですよ。あの、もしかして記憶……ありますか?」

 彼は心配そうに聞いてくる。


 ――え? ちょっと待って。今2018年、平成30年じゃないの? 昭和33年っていつ? お母さんも産まれてないよね? 私、美術室にいたはず……。

 彼女はパニックになりながらも彼を見つめる。


「……大丈夫ですか?」返事をしていないため、もう一度聞かれてしまった彼女は、反射的に答える。

「あ、はい! 大丈夫……です。実は、あなたの言うように記憶がありません……」

 何とかそう言った方が良いと思いそれだけ答えると、彼はますます心配そうになる。

「病院へ行きますか? それとも警察?」


 病院や警察が嫌と言う訳ではないけれど、この時代の人間ではないため、行きたくない。


「いえ、記憶は曖昧ですけど、大丈夫です」

 何とか笑いながら答えるものの、引きつってしまう。彼は彼女をじっと見つめると、少し考えるように視線をはずし下を見る。

「……良かったら、(うち)へ来ますか?」

「え?」

「家は自慢ではありませんが、結構広くて部屋も沢山あります。……気のせいかもしれませんが、訳ありではないですか?行くあてはありますか?」

「確かに訳ありです。帰る場所も今はないので……もし、あなたのお言葉に甘えても良いのなら、よろしくお願いします」

「分かりました。父も母もきっと許してくれるはずです。ただ、記憶がないと言うのはまずい気がするので、他の理由を考えましょう」

「他の理由ですか?」

「はい。例えばですけど……父の弟子になりたいとか」

「失礼ですけど、お父さんってどなたですか?」

「あ、失礼しました。父は画家で崎本利治(さきもととしはる)と言います。そこそこ有名ですよ」

「えぇ! あの、崎本利治さんがお父さんなんですか!?」

 彼女は驚きの余り大声を出してしまう。通り過ぎる人がちらりとこちらに視線を向る。

 彼もまた、彼女のリアクションに少し驚いたように見えるものの、話を続けた。

「はい、そうです。知っていると言うことは、あなたも絵が好きなんですか?」

「はい! 高校を出たら美術大学へ行こうと思っています!」

「……へぇ。そうなんですね。それなら尚更丁度良い。先程の例え話を現実にしましょう」

 にこやかにそう言うと彼は立ち上がる。


「行きましょう。そろそろ辺りも暗いですし。寒いですから」

「はい、よろしくお願いします!」と私は勢いよく頭を下げる。

「こちらこそ。……それはそうと、僕達まだ自己紹介していませんね? 僕は崎本治弥(さきもと はるや)と言います」

「私は高須原菜美子(たかすはら なみこ)です」

「少し歩きますが大丈夫ですか?」

「大丈夫です!」

 元気良く答える菜美子を見て治弥は微笑む。

 

 治弥さんと歩きながら菜美子は思っていた。これから先どうなるのか。まさか過去へ来るなんて……。こんなありえないこと全部、夢の中の出来事のようで。

 ……いっそのこと、夢なら良いのに……。

 心の中でつぶやきながら菜美子は治弥さんと崎本家へ向かって行った。

初めまして。初めての作品になります。主人公共々よろしくお願いします(*^^*)

まずは序章の開幕です。お楽しみ頂ければ幸いです。

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