3話 入学式当日
「ふふっ。ついに2人も高校生かぁ」
正門へと続く桜並木の下を歩きながら感慨深そうに言ったのは、母である日野美奈子。
母さんの視線の先では、満開の桜をスマホに収めている沙紀と麗華の姿があった。
2人ともかなり浮かれている様子だ。
まぁ、2人ともこの日を凄く待ち望んでいたみたいだし、無理もないか。
今日は入学式当日。
俺たち家族5人は、並んで高校へと向かっている。
俺以外の4人は、これから入学式に参列する。
新2年生の俺は入学式には参列しないので、校内掲示板でクラス割を確認してから、新しい教室へと向かう予定だ。
「そう言えば、晴翔くん。沙紀と麗華の制服姿を見た感想は?」
「とても良く似合ってて可愛いと思うよ」
「フフンッ。当然ね。私の自慢の娘達なんだもんっ」
母さんは誇らしそうに、大きく胸を張ってドヤ顔を見せた。
母さんは近所でも評判の美人。
沙紀と麗華が超絶美少女なのは、母さんの遺伝子をしっかりと受け継いでいるからなのだろう。
「晴翔くん。直接2人にも言ってあげたら? きっと凄く喜ぶと思うわよ」
「昨日の夜にちゃんと言ったよ」
昨日の夜。
夕食終わりに、沙紀と麗華が制服姿で俺の部屋にやって来てお披露目会が開かれたのだ。
その際、沙紀と麗華に「制服姿……似合ってる?」と何度も尋ねられ、俺は先ほど母さんに言ったのと同じ言葉を2人に伝えた。
そして母さんの予想通り、2人はとても嬉しそうに喜びを露わにしていた。
そんな会話をしていると、やがて俺たちは高校の正門へと着いた。
正門の周囲では、多くの新入生とその親御さんが写真撮影をしている。
「それじゃあ2人とも。記念に写真を撮るから、立看板を挟むようにして立ってくれ」
父さんの指示通り『祝 入学式』と書かれた立看板を、沙紀と麗華が挟むようにして立つ。
そして写真撮影が始まる。
「な、なぁ。あの2人、めちゃくちゃ可愛くないか?」
「アイドルじゃないのか?」
「俺、この高校に来てほんとに良かった」
ふと、周囲が何やら騒ついている事に気がつき周りを見渡すと、多くの生徒が沙紀と麗華に目を奪われていた。
2人の話は瞬く間に広がっていき、話題の美少女新入生として注目の的となるだろう。
……予想していたとは言え、やっぱり2人は凄いな。
「ね、ねぇ、見てあの人。カッコよくない!?」
「新入生なのかな? それにしては凄く落ち着いてるよね」
「わ、私、声掛けようかな」
……ん? なんだ?
なぜか視線を凄く感じる。
もしかして、俺が2人の義理の兄だってさっそく知られたのか?
それなら見られるのも納得だけど……それにしては何か様子がおかしいような気が……
「あ、あのっ」
不意に声を掛けられたので振り返ると、見知らぬ女子生徒が緊張の面持ちで立っていた。
「わ、私、新入生の宮川って言います」
「え、えっと、自分は2年の日野です」
「ひ、日野先輩。良ければ連絡先を教えてくれませんか?」
「……はい?」
そう言って、宮川さんはスマホを差し出してくる。
ど、どうゆう事だ!?
今までこんな経験が無かったので、俺は思いきり動揺してしまう。
「えっ」
突如、両腕に柔らかな感触が当たり、柑橘系の香水の香りが鼻腔をくすぐる。
何事かと思い視線を左右に向けると、父さん達と写真撮影をしていたはずの沙紀と麗華が俺の腕に抱きついていた。
2人は思わず目惚れてしまいそうになるほどの満面の笑みを湛えている。
……ただし、目はまったく笑っていない。
「何してるの?」
「何をしてるのかしら?」