またもや転生
私はどこにでもいる普通のOLだ。
ある一点を除けば……
実は私、悪役令嬢だった。
何を言っているのか意味不明に思われるかもしれないが、どうやら異世界に転生していたらしい。
そんな私は悪役令嬢にありがちなお決まりのバットエンドを避けるために聖人君子として振舞っていた。
その甲斐があってか、なんとか無事に現生に戻れはしたものの酷く疲れた。何しろ一歩間違えれば悪役令嬢お決まりの末路は確定なので発言一つ一つに物凄く神経を使ったからだ。相手にどう思われるか客観視して自分が思う完璧な聖人を演じてはいたが、精神疲労が半端ではない。
現生に戻れた私は異世界のことは忘れてこれからは私らしく生きようと決意していた。
なのに……―――
―――「お嬢様ッ…お嬢様お目覚め下さい。朝ですよ」
体をゆすられ、容赦なくカーテンが開かれた。朝の陽ざしを浴びて、眠気を覚ます。いつも通りの日常。
ん?お嬢様?いつも通りの日常?何かがおかしい。だんだんと眠気がさめて頭が冴えてきた。
部屋を見渡すと私の部屋には到底置いてないような華美なソファやベッドがあり、まるで本の中の女王の部屋のようだった。
そんな豪華絢爛な部屋をみて、私はすぐに理解した。
ああ……私、何かに転生したんだ。
一度、転生している私にとってはこの光景は特段に驚くことでもなかった。
またか……そう思いながらまずは己が何に転生しているのか知ろうと考えた。
この部屋をみたところかなりのお金持ち、もしくは気位の高い人間らしい。
鏡を見ると、そこには私ではない私が写し出されていた。
金髪碧眼の長身な美形。透き通るような青い目に少しウェーブのかかった金髪。身長は170㎝はあるだろうか。また手足が長くまるでモデルのようだった。黒髪で身長の低かった私とは全く違う。完全に別人になっていた。
部屋には先ほど私を起こしてくれたメイドが不思議そうにこちらを伺っていた。
「お嬢様?どうかされましたか。先程から様子が少しおかしいように見受けられますが」
どうやら私は相当挙動不審だったらしい。
「ごめんなさい。少しぼーっとしていたわ」
そういい取り繕うと、この世界の情報を少しでも得るためにメイドと会話をすることにした。
「私、朝は弱いの。おかしなことを言っていたらごめんなさい。アンナ」
メイドの名前すら知らないのは不便だと考えた私はまだ寝ぼけているふりをしながら冗談めかして適当な名前を呼んでみた。普通にメイドに名前を聞いては余計に怪しまれると思ったからだ。
「お嬢様……本当に大丈夫ですか?私はアンナではなくセリーヌです」
「セリーヌ。冗談よ。本気にしないで」
メイドのセリーヌがこちらを本気で怪訝な目でみていたのでもうこれ以上はまずいと思い、情報を得ることを諦めて適当に話を切り上げた。
そういえば以前、何かの本でセリーヌというメイドがでてくる物語をみた記憶がある。その記憶によればメイドの主人である令嬢は物凄く性格が悪く、主人公に嫌がらせばかりしている。いわゆる悪役令嬢と呼ばれるものだったと記憶している。ただ、まだ私がそうだと決まったわけではない。だってメイドの名前が同じなんてことはまだ偶然の範囲内なのだから…そうよね?
そんなことを考えながら身支度を整えて、朝食を食べるためにリビングへと向かった。やけに広い屋敷で、リビングに向かう途中にいくつも部屋があった。
食事の席には私しかいなかった。
メイドとの他愛のない会話から分かったことがある。
どうやらこの屋敷に住んでいるのは私とメイド数人。母は幼いころに亡くなり父は家にいないことが多いらしい。
ブックマーク、評価を頂けると励みになります!