無題Ⅻ
「でもさ、因果の無い贈り物って怖いよね。例えば道ですれ違った見ず知らずの人間に、君、これを上げるから好きにお使い、って分厚い札束渡されるようなもんでしょ。さすがにそれはあたしでも気持ち悪いと思うな。タダより怖いものはないっていうじゃん」
「Tちゃんにしては、まともなこと言う」
「ああん?」
娘は二人のやり取りを聞きながら、あの白い影と出会った時のことを思い出した。
因果とは…。
娘は考えた。確かに、あの白い影はなぜ私を助けてくれたのだろう。
娘は己の両の掌をそっと開いた。あの時祈った己の手の感触を今でもありありと思い出すことが出来た。
あの光を目の前にした時、抱いていた憎しみをことごとく忘れることができた。もしあのまま憎しみに囚われていたら、醜い悪魔にも変貌するところを寸でのところで正常な世界に留められたのだ。
娘はその成果について自分の素質が一分も噛んでいないと思っていた。あの光を見た途端、無から何か新たな領域が爆発するように胸に生まれ、その領域に圧されるように己の意識は刷新された。娘は凌駕され、かつ光に崇高な高揚を覚えた。娘は平伏すように光に両手を合わせていた。
因果なら、きっとあの光はその時の私の心を察し、さらに一匙の慈悲を与えようと思ってくれたのだろう。慕う心に反応してまた新たな反射を与えてくれたのだ。そう思えば、娘は一層深い親愛をかの光に覚えて止まなかった。また会えたならどうやってこの感謝を伝えようかと思った。