好きって十回言って? → 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き → 私のことは? → だいしゅき♡
「ねえ小林君、ピザって十回言って?」
「朝からそんな濃いもの食えるかよ」
まだ眠気が覚めぬ登校時、幼馴染みの真里亜がいつものように謎の遊びを始めてきた。
「言って!」
頬を膨らませ、まるでだだをこねる子どものように。真里亜はツンとそっぽを向いた。
「……ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」
指を折りながら、眠気と格闘しつつもゆっくりとピザピザを唱えた。
「これは?」
「濃厚チーズがたっぷりのった本格石窯でじっくり焼くフォルテッシモおじさんのとろーりピザトースト」
予めファスナーが開いていたバッグから、コンビニで買ったと思われるピザトーストの袋を取り出しご満悦な真里亜。
てかピザじゃくてトーストだな、それは。
「新発売だって。一緒に食べよ?」
「朝から濃いもの食えるかよ」
俺はイタリア人にはなれそうにもない。てかイタリア人は朝からピザ食うのか? ボーノ言いながらチーズとろけさせてボーノするのか?
「ふふふ、食べたくばもう一度十回ゲームで勝つが良い」
「朝飯食ったからいらん」
「いくぞ!」
「あ、強制戦闘なのね、これ」
ピザトーストを掲げ、真里亜が不敵に笑った。
「ピザって十回言って?」
「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」
「ここは?」
「ピザ」
「肘だって。せめて膝って答えてよ! ああもうダメ、可笑しすぎてお腹痛い……!!」
かなりツボに入ったのか、真里亜が血相を変えて笑い始めた。あまりにも笑いすぎてしまいにはむせ込んでいる。
「──ゴッホ! ゴホッ! ああもう、朝から笑わせないでよ。あー、おかしい」
「あんまり笑うな、恥ずかしいだろ」
「仕方ないからお情けで上に乗ってるサラミをあげるわ」
「いらねぇ……」
サラミの油で手がベタベタのまま学校へ到着すると、クラスでは修学旅行の班決めの話題で持ちきりだった。今年は一泊二日で鎌倉。
──鎌倉って何県だ!?
「鎌倉ってカリフォルニア州か?」
「馬鹿じゃないの? 鎌倉は北海道よ?」
ぼそっと真里亜が嘘の情報を流してくる。騙されてはいけない。この女は嘘つきだ。
「朝からお熱い事で」
冷やかすように、友人の寺田がニヤニヤと笑いながら寄ってきた。
「班決め、一緒にどうだ?」
「お前と組むとろくな事にならなさそうだ」
「おいおい、そう言うなよ。お前は真里亜とイチャコラしとけばいいだろ? 俺は……」
と、寺田は真里亜と仲睦まじく話し込む女子の床溝さんを、それはそれは嫌らしい目付きで視姦していた。
「お前と真里亜は班確定だ。そして真里亜は床溝さんと組むだろう。つまり、お前と組めば床溝さんと同じ班になれる」
「悪事の片棒は担ぎたくない」
「おいぃぃぃぃ!! 親友である俺を見捨てる気か!?」
「親友を悪の道に進ませるわけには行かないからな」
「頼むよお願いだ! 俺鎌倉で床溝さんに告白するつもりなんだからさ……!!」
コイツ……リア充に進化しようとしてる!!
ならば俺がこの手で引導を渡してやろう。
「なら、一つ問題だ」
「なんだ?」
「鎌倉って何県だ?」
「…………テキサス州だろ?」
「フッ……俺達は親友さ」
こうして俺は寺田と組むことにした。
後は女子だが、正直真里亜とは組む気があまりしない。いつも一緒にいるから、たまには違う女子とお近づきになりたいと思うのが一般高校生の心理ってもんだろ?
「おいおいどこ行くんだ小林」
「俺は見上さんを誘う」
「オイ馬鹿止めろ!! そんなことをしたら脳に負担が掛かりすぎて破裂するぞ!!」
「止めるな寺田よ。俺は超モデル級と言われるクラスのマドンナを誘うって今決めたんだ!!」
「止めろ! 落ち着け! それと今時は『マドンナ』なんて言わねーぞ!」
俺は止めに入った寺田を振り払い、自分の席で予習に励む勤しむ見上さんに声をかけた。
「見上さん、ちょっと良いかな?」
「なに? 手短にお願い」
見上さんはツンが過ぎる、ちょっとクールなキャラだ。そこがいい。それがいい。
「修学旅行……一緒にどうかな?」
「……鎌倉って何県か知ってる?」
何処かで聞いたようなやり取りだ。
だが抜かりはない。既に正解は知っているさ!
「北海道?」
「私、馬鹿は嫌いなの。じゃあね」
見上さんはそれっきり俺の方を向いてくれなかった。
「騙したなこの野郎!!」
「な、何よ急に……!?」
国際指名手配されてもおかしくない凶悪犯罪人である真里亜に詰め寄る俺。
「お前のせいで見上さんに馬鹿だと思われたじゃないか!!」
「遅かれ早かれバレる事よ……」
「折角見上さんと組めると思ったのにー!!」
「えっ? アンタ見上さんと組む気だったの?」
「悪いかよ……!!」
「ふーん……」
腕を組み、なんだか不機嫌な素振りを見せて口を尖らせる真里亜。隣にいる床溝さんは俺と真里亜を交互に見ては笑いをこらえていた。
「余りって十回言ってみてよ」
「またかよ、面倒だな」
「いいから!」
「……余り余り余り余り余り余り余り余り余り余り余り」
何だか知らんが俺を余らせる作戦だな?
そうはいかん。朝のサラミの敵討ちだ。どっからでも掛かってこい!
「で、誰と組むって?」
「まりあ」
「良いわよ。決まりね」
「あ」
床溝さんが口を手で覆いながら、ニヤニヤと笑っていた。何見てんだこのアマ、しばくぞ。
「でかした小林……!! 俺はお前を信じていた……!!」
「いや、あれは……はめられた」
何故俺はあの時、真里亜の名前を口にしたのかさっぱり分からず、それでも斑決めはその通りになってしまい、俺はイマイチ気乗りしないまま、修学旅行当日を迎えてしまった。
「えー、右手に御座いますのは──」
オバチャンバスガイドがうんちくを傾けたり傾けなかったりするバスの車内。
俺は酷い車酔いにうなされていた。子どもの頃から乗り物だけはダメで、親父の車なんかタバコ臭くて本当に嫌だった。
修学旅行当日、酔い止めを忘れた俺は地獄を見ていた。因みに鎌倉は横浜県だった。
「……もう吐く」
「頑張れ小林……! この先の寺を見たら自由行動だぞ!?」
「俺が吐いたら三年間は影武者を立てよ。そして東大を目指せ」
「何だかんだ元気だな! あと少しだ頑張れ小林……!!」
ギリギリのギリでリバース行為を回避した俺は、トイレから戻るとすっかり自由行動になっていた。
今の時代GPSだのSNSですぐに連絡が取れるから、特に注意事項も無くあっさり解散となったようだ。
寺田も姿が見えず、今頃は竹林の隅っこで床溝さんにフラれて泣いているだろう。ククク、後で八ッ橋のお土産でも差し入れてやろうぞ
「ちょっといつまでトイレ入ってるのよ!? 時間が勿体ないじゃない……!!」
真里亜が怒りながらトイレの入り口近くで待っていた。床溝さんが武田としっぽり消えたから、残されたのか……ある意味コイツも被害者だな。
「ね、仕方ないからアンタと回ってあげるわよ」
「同じ班だからな」
「……そうね、同じ班だからね」
ちょっとムスッとした真里亜は、先にズカズカと歩き出した。が、すぐに後ろを振り返り、不敵に笑った。
「ね、ホテルって十回言ってみて?」
「こんなとこでもやるのかよ」
「気晴らしはなるわ」
真里亜なりの気遣いなのだろう。そりゃあ真里亜としてもMr.ゲロッターとは一緒に居たくない筈だ。仕方ない。甘んじて受けてやろう。
「ホテルホテルホテルホテルホテルホテルホテルホテルホテル」
「一回少ない」
「HOTEL」
「発音が宜しい」
褒められ何故か嬉しい俺。
そしてこの後、ホタテを取り出して『これは?』って聞くんだな?
仕方ない。あえて引っかかってやるか。
「この後どこ行きたい?」
「HOTEL」
「発音が宜しい」
やられた。
「じゃ、ホテル行こうか」
「えっ!? おい! 流石にそれは……!!」
「今日泊まるビジネスホテルに決まってるじゃない? え、なーに? もしかして嫌らしい方考えてたの?」
ニヤニヤと後ろで手を組み、上目遣いで俺を笑う真里亜。俺は恥ずかしくなり思わず目を逸らしてしまった。
「図星」
「ち、ちげーし……!!」
「ま、いいわ。アンタとならどこ行っても同じよ。さっさと集合場所のホテルに行きましょ」
「今からだとかなり早く着くが」
「それで良いのよ。夜ご飯まで少し休みなさい。明日もバスなんだから」
「お、おう……」
なんだか申し訳ない。
途中のコンビニで酔い止めを二つ買い、俺と真里亜はビジネスホテルへと向かった。
あまりにも早く着きすぎて担任の教師が何かあったのかと心配していたが、真里亜が『乗り物酔いが凄くて観光どころじゃないので、部屋で看病してます』と、一言。
担任が『それは大変だ。後は任せたぞ』と言うと、真里亜はにっこりと笑ってカードキーを受け取った。
「……何故真里亜が俺の部屋に?」
使い慣れぬベッド。ビジネスマンの香り。そして何故か隣に寝そべる真里亜。
「看病」
「そ、そうか……」
看病って隣に寝てするものだったか?
ベッド隣にもう一つあるんだけど……。
「静かね」
「ああ」
外を走る車の音だけが、6階のこの部屋に聞こえてくる。
「ねぇ?」
「ん?」
「スキって十回言って?」
「スキスキスキスキスキスキスキスキスキスキ」
言い終わり真里亜の顔を見ると、かつて無いほどに赤く染まっていた。
言わせておいて何恥ずかしがってんだか。
「……もっかい」
「へ!?」
「もっかい」
「……スキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキ」
「…………ふひ」
「なんだよ『ふひ』って!」
「ごめんごめん、あまりに真面目そうな顔で言うもんだから」
あまりのアホ臭さに、バス酔いも完全に消え失せた。これなら夜飯は普通通り食べられそうだな。
「私のことは?」
「好きだ」
「へえっ!?」
鳩がコロニー落としを食らったような顔で飛び起きる真里亜。
言わせておいて何驚いてるんだか……。
「ありがとな、真里亜」
「なによ」
「俺の乗り物酔いが酷いの、真里亜は知ってて、それでもこうして俺を気遣ってくれて……」
「あほたれ、何年の付き合いだと思ってるの?
もうすっかり馴れたわよ」
「それが嬉しいんだ」
そっと真里亜の手を取った。
あっという間に耳まで赤くなる真里亜。とても分かりやすくてありがたい。
「スキって十回言ってみて?」
「な、なによ……!」
「いつものおかえし」
「……好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き──」
「言い過ぎ言い過ぎ」
「で?」
「俺のことは?」
真里亜は間髪入れず言いそうになった言葉を、グッとこらえた。
そして、ゆっくりと、完全にあかくそまりきった顔で、恥ずかしそうに言った。
「……だいしゅき」
「俺も」
バッと俺の胸に顔をうずめる真里亜。恥ずかしそうにグリグリと顔を押し付けてくる。
「小林の心臓がうるさい。止めて」
「無理言うな!」
顔を離す真里亜。
「ね、スキって十回言って?」
「スキスキスキスキスキスキスキスキスキスキ」
「これは?」
と、真里亜の顔が俺の目の前に迫った。
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(*´д`*)