デートと後悔
後一話で花見沙織編エピローグです。
感想くださると助かります。
聖スタレチア学院に入学するまで後、約1年半である。
沙織とは、あの日以降、毎日遊ぶようになった。
大体は公園で砂遊びをしたり、遊具などを隣同士で漕いで、喋りながら遊ぶ。
今では、気兼ねなく、沙織が俺の家に来たり、一方で俺が遊びにいったりもする間柄だ。
つまり、平和な日々を過ごしていました
しかし、俺の心は常に焦っていた。
その背景を知るために、時を遡る必要がある。
◆◇◆◇
初めて、沙織の家へ泊まった日は、準備などする時間がなかった。
そのため沙織のパジャマを借り、ベッドで一緒に眠ることとなる。
沙織は、すぐに「すー…すー…」と可愛らしい寝息を立てながら、眠ってしまったが、前世で恋愛経験値1の俺は眠れるわけがない。
どうにかして、寝ようかと試行錯誤してみたものの…無理だと、すぐに匙を投げてしまった。
しかし、そんな時に彼女の父親が、こちらの部屋を訪ねてきた。
そのまま手招きをするような素振りを示してくれていたので、かなり早く、俺は彼女の父親の意図に気づき、彼の後ろをついていく。
彼女の父親が、案内してくれた先の部屋へと足を踏み入れる。
「君が、僕に色んなことを聞きたいのは、重々承知しているつもりだよ。いずれ必ず君に話そう。それと、これは忠告なんだけど…僕にはゲームとやらは分からないし、主人公が誰なのかも見当がついていない。でもね…この世界をあまり甘く見ない方がいい。敵は、君の言う所のゲームの中だけとは、限らないからね。ふふふ…そんなに怖い顔をしないでくれないか。少なくとも僕は、紗夜ちゃんが沙織を傷つけない限り、君の味方さ。後、僕のことは、気軽に『遊助さん』でも『お義父さん』でも構わないよ。それではおやすみ」
何も言い返す事ができなかった。
本来女の子とお泊まりイベントとして心臓の動悸が抑えられずに、興奮して寝れなくなるイベントだった。
しかし、俺はその日、沙織の父親の言ってる意味が理解できず、長い時間、頭を働かせてしまっていたこともあり、寝れなくなってしまった。
気がついた時には、今日も世界を照らす太陽を迎えてしまっていた。
◆◇◆◇
あの忠告から結構経つが…特に変わった様子はない。つまり、平和そのものである。
それに今日は、初めて沙織と商店街へと出かける日だし、存分に楽しむべきだと自己解釈をしてしまう。
「ま、待たせてしまいましゅたか?」
おお…頭には、白の帽子を被り、ピンク色のワンピースを着た沙織が、私の顔を下から覗いていた。
——思わず、その姿に一瞬、見惚れてしまう。
「大丈夫。私も今来た所だよっ!!」
それでも、不安そうな表情をする彼女…
こう言う時は、笑顔で安心させるに限るのだ。
俺に、もっと恋愛経験があれば、「沙織のためならいつまでも待つよ…」とか「今日はかわうぃーね。子羊ちゃん、寝かせないぜ?」とか言えたのになぁ…
勿論、そんな事を言えば、彼女に引かれただけなので、紗夜は、無自覚ながら、恋愛経験の乏しさのおかげで地雷を回避することに成功していた。
その後、沙織と手を繋いで、色んなお店へと回る。
2人とも子供の為…予算は2000円ほどしかなかった。
それでも、アイスクリームやクレープなどを食べ合いっこしたりなど共有することで満足感を満たした。
夕陽が差し込む頃、暗くなる前に帰ろうかと2人で決めた矢先——
「紗夜しゃん、今日はとても楽しかっ…むぐぐ」
突然、沙織を太った男が、拐ったのだ。
こんなイベントはもちろん、俺の保有する攻略情報にない。
『敵はゲームだけとは限らない』
『この世界を甘く見ない方がいい』
脳裏に突如として頭に浮かんだ。
くそっ…思わず、心の中で舌打ちをし、必死に男を追いかける。
しかし、子供の足では、追いつきたくても、追いつけない。
『俺の嫌がらせだろ?お前の相手は俺のはずだ。俺の彼女を巻き込むなぁぁぁぁ』
『そうそう、その顔が見たかったから仕組んだんだよ。あっはっはっ、それなのに叫ぶとか何?思い通りの反応すぎて、超ウケるんですけどー』
トラウマが、思い浮かぶ。
頭を横に振り、全力で追いかける。
ゲーム情報に頼りすぎた。
——本当にそれだけか?
いや、分かっていたはずだ。
——このゲームが、決して『恋愛だけの甘いゲームではない』なんて事は——
もう息が…せめて帰れるだけの体力を残して、今から花見家へ向かう?
——あんた、また逃げる気?
誰?勝手に決めつけるなっ!!
絶対に逃げない!!
でも、俺は、決してヒーローなんかじゃない。
それでも俺は『無力』ではない!!!
「誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ助けてくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい」
恥を捨てて、大きな声で男を見失わないようにしながら、周りを頼る!!
何度も、声が出なくなるまで、体力が切れても、ここで限界を越えなければ、後悔すると分かっているから高槻紗夜は、走り続けた。
「やれやれ…やっと気づいたのかい?」
すると遊助さんは、まるで、風のように物凄い速さで男に接近し、男の腕を自身の肩へと担ぎ、背負い投げで地面へと叩きつけ、確保した。
「魔法調査機関一等審問官の花見遊助である。これ以上の抵抗は、死を意味するぞ?」
騒ぎに近寄って来た人…少し離れていた俺にでさえ、彼から発した死が連想された。
太った男は、大人しくなり、抵抗をやめて…遊助さんに連行されていった。
——こんなにも攻略情報が、ないと俺って無力なんだ。
空を見上げて、誓った。
今度こそは、必ず、自分の手で、沙織を守れるくらいの強さになることを