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沙織視点から見える景色

このエピソード実は気に入ってます。

 恥ずかしがり屋の私は、お母様とお父様に、心配かけないようにとこの地に引っ越してから、無理しながら、毎日、公園へ足を運んでいた。


 最初の方は、公園に来てた子達が、私へ話しかけたりもしてくれていた。


 でも…恥ずかしがり屋の私は、中々上手に返す事ができなかった。


 すると、周囲の子は、決まって誘った子に対して、こう言うの…


「その子、嫌そうにしてるし行こうよ」


 心の中では、歓喜していたのに、口でそれをすぐに表現する事は叶わなかった。


 そんな幼かった彼女の自信を損なうには、十分すぎる出来事だった。


 その日を境に、花見沙織の日常背景は、ブランコで他の子供達が、楽しそうに遊ぶのを眺める——ただそれだけとなる。


 他の子にも誘われた事もあった。しかし、期待してはダメ…しちゃダメなんだ——と彼女は、己にそう言い聞かせていた。


 そして、遂に誘われる事さえなくなってしまい、彼女にとってそれが日常となる。


 ——別に寂しくなんかないもん


 偽りの心にそう言い聞かせながら——


 ある日、彼女は、いつもと同じように公園へ足を運んでいた。


 公園に行っても、きっと意味なんかない。


 沙織自身もそんな事は、承知の上での行動だ。


 でも、通わなくなったら、彼女にとってそれは、負けを認める行為と同じ意味をする。


 ブランコに乗り、いつものように、他の子達を眺めていた時だった。


「ねぇ、良かったら一緒に遊ばない?」


——誘われない事が、当たり前になっていた彼女にとって、それは不意打ちだった


 しかも、その子は、美少女…で太陽のような笑顔を私に見せてくれた。


 そんな素敵な彼女に思わず、照れながら、2度も聞き返してしまい、更に遊ぶ事の確認まで取ってしまった。


 うまく返事を返せず、幻滅されたのかな?とか思っていたら、間髪いれずに、私へ自己紹介をしてくれた。


 私も咄嗟に、自己紹介をした、しかし、やはりうまく行かなかった。


 それでも彼女は、また太陽のような笑顔を見せてくれた後、私の下の名前を呼んでくれた。


——輝きを失っていた心に太陽のえがおが私に差し込んだ


 結果として、沙織は、さーやとそのまま遊ぶこととなった。


 さーやに遊ぶ内容を聞かれたので、幼稚と思われるかもしれなかったが、私のどうしてもやりたかった事を彼女に告げた。


 にもかかわらず、彼女はなんの不満気もなく…まるで、何かを懐かしむような表情をしながら、私よりも慣れた手つきで綺麗なお城を形作る。


——結果、さーやは沙織よりも砂遊びが上手だった。


 私と比べて性格も良い、思った事を話せる彼女に思わず、嫉妬をしてしまう。


——何もかもが完璧すぎるんだもん…


 約1年と半年ちょい程で、私は『セントスタレチア学院』に通う事になっていたから、紗夜も入学するのかを確かめたくなり、思わず、質問をしてしまった。


——少し話をしただけなのに、沙織は、無意識に自らのさやを求めてしまった。


 彼女が、絶対に誘わないと誓っていた自分の家へまで、気づけば、自然に紗夜を招待していた。


 何を隠そう。この時点で花見沙織は紗夜に対して、惚れてしまったのだ。


 幼少期の心とは、白紙である。


 要は、どんな色にもすぐに染まる。


 花見沙織の取り巻く環境が、彼女にとってのさーやが現れなければ、きっと彼女の心の中はいつまでも灰色のままだっただろう。


 しかし、今は違う。彼女の心の中は、今、枯れかけていた蕾に花を咲かせたのだ。


◆◇◆◇


 その後、お父様とお母様と挨拶してから、紗夜と私の提案によりお風呂へと入る。


 彼女は、紗夜とお風呂に入ることに対して、嫌悪感どころか心の中で歓喜していた。


 それもそのはずだ。


——惚れてしまっているのだから


 同じ同性同士と分かって居ながらも、彼女は、紗夜に照れていた。


 紗夜も(違う意味で)照れていた。


 極め付けは…紗夜自身の無自覚無意識による「綺麗」と褒め称えながら、私の顎を彼女の顔の近くに持っていく行為だ。


 あんな事されれば、今の沙織には、耐えれるはずもない。


 結果、ドキドキとバクバクに耐えれず、お風呂の湯ではなく、紗夜にのぼせてしまった。


 目が覚めた時には、彼女が、心底申し訳なさそうな表情を浮かべながら、膝枕をしてくれて居た。


——可愛い


 のぼせた代わりに、彼女の新たな一面も知れてよかったと思った。


 彼女は、このままお母様の作ってくださる御飯よりも彼女の膝枕の方にいたいと思ってしまう。


◆◇◆◇


 その後、沙織は紗夜を案内し食卓へと着く。


 晩御飯の際もお父様の意地悪な質問に耐えながら『私の事を親友』と言ってくれた。


 ここまで行けば、流石に分かる。


——私はさーやが大好きなんだ


 その日を境に、彼女の灰色だった心のノートにさやが差し込み、一輪だけだった花が次々に咲き、やがて綺麗な花畑を彩るのだった。



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