トカゲの尻尾きり
時は、夢魔王が紗夜に降参して、抱きつくシーンへと遡る。
「リリス…君を仲間へ受け入れるには、私とたくさん話し合った後でね?」
その言葉通り、彼女とは、今後のことについて、たくさん話し合う必要がある。彼女を引き入れるメリットもあるが、デメリットも存在する。
——しかし、今は時間が惜しい。
「きゃはっ♡お手柔らかにぃ♡じゃぁ…軽く信用される事から、始めるとしようかしらぁ?♡そこの里奈ちゃんはぁ、私が守ってあげるぅ。私のキングになるなら、配下を信頼して行ってください。」
——彼女もまた、私を見定めているのかもしれない。
ここで、彼女が里奈への危害を及ぼす可能性を考慮してみたが、鞍替えを宣言した後に、鞍替えをするメリットが存在しないので、裏切る確率は、低いと判断する。
それに、キングと呼ばれる頭のキレる者が、任務に2度も失敗した破廉恥女を重用するとは思えない。
その場で、罪悪感に押し潰されそうになっている里奈をリリスへ任せ、高槻紗夜は屋上から、文字通り飛び降り、綾香と沙織がいるであろう倉庫へと急ぐ。
——お願い…間に合って!!
◆◇◆◇
紗夜は、右手に聖剣を抱えて、己の全力を尽くして、やっとのことで倉庫へと到着した。
倉庫からは、何かを殴るような不吉な音が、彼女の耳へと小さい音ではあるが…微かに聞こえた。
大きな音を立てて牽制するのも一つの手だが…それでは、身動きを拘束されているかもしれない沙織と綾香が人質になってしまう可能性がある。
湧き上がる感情を、なんとか沈ませ、彼女は、自然の振る舞いで、倉庫へと静かに足を踏み入れた。
◆◇◆◇
倉庫は全体的に薄暗く…それでも、小さいながらも、灯りが付いていたので、周りを確認できる。
魔法の実践を行うときに使うであろう備品を傍目に、奥へと進む。
彼女が進んだ先に、人影が見え始める。
更に進むと…紗夜の視界に飛び込んできたのは、綾香が、沙織を庇うために、前へと出張ったためか、入学式で挨拶していた代表者に殴打されている光景だった。
怒りのあまり…聖剣を握る拳から熱い液体が垂れるのを感じながらも…彼らに発した。
——「ねぇ、死ぬ覚悟はできてる?」と
高槻紗夜の言葉を聞いた反応は様々だった。
前生徒会長の三森奈々は彼女の殺気に充てられたのか…綾香へ振り翳そうとした拳のまま、尻餅を床へ着き…片岡修二以外の人間は、私に対して、後退りした。
——しかし、片岡修二だけは笑っていた
その後、彼は私にその汚い口を開く。
「高槻紗夜さん、本当にひどいよね。僕も本当は、こんなことしたくはなかったんだけど…そこで尻餅を付いている三森奈々元生徒会長に命令されて、仕方なく、動いたんです。ううっ…辛かった。木崎さんと沼瀬君…小倉さんも僕と同じ気持ちだよね?」
——クソがっ…ここで、蜥蜴の尻尾切りか。
当然、片岡修二グループのメンバーは彼の発言に顔を上下に振ることで、同意の意を示す。
綾香と沙織は目を見開き、そんな彼らの言い分を否定しようとしたが、度重なる殴打による恐怖のせいか、その場で、話すことは、難しそうな状態だった。
三森奈々は…ただ、必死に大声で泣き叫びながら、弁明している。
そんな情けない三森奈々に、思いっきり、ビンタを彼女の右頬へお見舞いした後、片岡達を無視して綾香と沙織の元へ駆けつける。
なぜなら…ここで紗夜が、片岡達を襲撃すれば、彼らに証拠がない以上、彼女の立場が悪くなるからだ。
例え後日…2人が話せるようになったとしても…証拠がない以上、きっと注意喚起のみが行われ、本当の意味での解決はしないまま終わる。
震える2人を抱きしめ…拘束具を外し、倉庫の扉に手をかけ、外へと出る。
——紗夜は誰もいない教室を無理矢理開けた後、彼女の机の周りに椅子を3つ用意して、3人は大きな声で泣いていた。
この日は、月が、珍しく空気を読んだのか…3人を照らすことはなく…ただただ、静観しているかのようだった。




