二階堂文香の葛藤
二階堂文香は、屋上の下にある聖スタレチア学院初等部6年生御用達の最近使い始めたとある場所に足を運び、扉を開く。
「やぁ…君は僕達の方に着くって事でいいかい?」
——中々、踏ん切りがつかない彼女を出迎えたのは、優男の仮面をしている片岡修二だった。
片岡修二グループにいる二階堂文香ならば、彼が、彼女に問いかけている質問の意図が分かる。
これはつまり、彼と前生徒会長の三森奈々《みもりなな》が、突如として画策し始めた高槻紗夜への復讐を担うかどうかって事だろう。
——片岡修二は天童綾香を取られた事を
——三森奈々は生徒会長の座を降ろされたことを
つまり、彼らの行動原理は高槻紗夜に対する利害の一致。そこに絆や仲間意識などあるはずがない。
彼の後ろに控える小倉と沼瀬は勿論…あの真面目だった木崎までもが、片岡修二には服従しているが、三森奈々《みもりなな》への警戒心を抱いている様子だ。
——当初は…片岡修二に、諸星博の可能性が僅かにでもあったから…私は彼に近づいた。
結果的に、彼は優しかったものの…時折見せる本物の顔に気づいてからは、毎日、胸が苦しい日々を送ることになる。
——答えはYES以外あり得ない癖に、何言ってんの…
そう、既に彼女の周りを前生徒会長と片岡修二が取り囲んでいたのだ。
「…私に…何させる気よ…」
「簡単な話よ。あなたには、学院終了後、高槻紗夜の相手をしてもらう。ただ、それだけよ。高槻紗夜はあの方の推測通りならば、いじめが始まった最初のうちだけは、花見沙織と天童綾香との距離を彼女達に危害が及ばないように、空けるそうよ?その時を狙って、修二達が沙織と綾香を拐い、私が用意した決闘場の倉庫で高槻紗夜が、心から、大事にしてる人達を壊してあげるだけよ?裏切ったら、あなたの命は保証しないわ」
三森奈々が彼女にそう告げた瞬間、音もなく、気づけば、二階堂文香の首には、鎌の先端が添えられていた。
流石の彼女もこれには驚愕する。気配すら、察知できなかったのだ。そして、振り向けば殺す…まるで振り向けられた鎌から、語られてるような気がした。
——要は…脅し…って訳ね。高槻紗夜の周りからの信頼を落とし、関係のない彼女の大事なものまで…ね。
——これじゃ前世のの繰り返しじゃないの…
「はいはい…わかったよ…」
彼女は、肩を竦め、両手をあげて、裏切らない事と…作戦の了承の意を示した。
◆◇◆◇
一方、高槻紗夜も、悩んでいた。それもそのはず。二階堂文香が、自身と同じ憑依者だったのだ。
そして、最後に零した『好きだった人と似ている』について、思考を巡らせる。
——彼女が、日本人なのは間違いないが…どこの人なのかはわからない。確かに、さーやに佐藤里奈が、この世界にきているって情報はあるものの…可能性としては無数の星の中から手探りで一等星のみを引き当てる確率と同じくらいである。
故に、それはないと、彼女は判断し、暫く、佐藤里奈との大切な思い出に感傷に浸った後、教室へと戻る。
——しかし、戻る途中に、高槻紗夜は階段で待っていたかのように、二階堂文香と出会い…放課後屋上に来てと誘われ、行く事になった。
◆◇◆◇
教室に戻ると、私にわざと聞こえるように、喋り出す片岡修二グループ達の陰口があった。
田中君達のグループは、やや不安そうな表情をしている。
沙織と綾香を抜いた高槻紗夜のグループは、心配そうな表情で南條さんは相変わらず読書…である。
私の姿を見るや否や、走ってくる大事な沙織と綾香…
そんな彼女達を優しく、抱きしめながら、「今日は申し訳ないけど、2人で帰って…?二階堂文香に呼ばれたの」と小声で耳打ちをする。
若干、不満そうな表情を示しながらも、彼女達は、仕方ないと言わんばかりにこくりと頷いた。
「ありがとう」と2人に感謝を述べ、私達はその後も授業を受けるのだった。
◆◇◆◇
授業中に窓から見える青い空を眺めて、ぼーっとしていた高槻紗夜は、気づいていないだろう。
——二階堂文香が、己の胸を抑え…未だにどちらに付くか葛藤していた事に——




