花見遊助の心労
僕が、止めようと説得を試みても、彼女が諦めない事は、分かっていた。
だからこそ、彼女に様々な便宜を図った。
彼女より風魔法を使い、先回りをする。
きっと、なんだかんだ僕の薦めた『愚民共よ くつろげ』に足を運ぶと推測し会計を済ませる。
「ふふふ。もし、彼女が、無事に帰ってきたら、僕のオリジナル魔法の存在に気づくだろうね」
——別にそれはそれで構わないのだけど
5大属性(炎・水・風・雷・闇)のいずれかは、必ず彼女も覚醒すれば、取得するだろうし、彼女なら、オリジナル魔法も取得すると思っている。
オリジナル魔法は別名『古代魔法』取得できる人間は極僅かであり、それはその人のみが行使できる素晴らしい物だ。
◆◇◆◇
一旦、沙織や妻の様子を確認するために、自分の家へと帰宅する。
「お、お父様…さーやはいってしまわれたのでしゅか…?」
予想に反し、玄関には、娘の沙織が不安げな表情を示して、僕を待ち構えていた。
そんな彼女の頭を撫でて…
「紗夜ちゃんは、きっと大丈夫さ。聞いてくれるかい?あの子は、僕に向かって『沙織を私にください』って宣言したんだよ?」
その後、その言葉と共に彼女へ向き直る。
「ひぇ…さ、さーやが?え、えへへ。そ、それが本当なら、さーやが帰ってきたら『さーやは沙織の物』でしゅよね?…………や、やった!!あの計画ができる…」
最後の方のボソリと呟いた言葉は、聞こえなかった。
しかし、沙織が先程までの不安げな表情から一変し、蕾が満開になるような笑顔を浮かべる。
本来、娘の元気になった様子を見て、安堵するの親の姿だろうが…僕は大事な娘を、この時ばかりは、なぜか恐ろしいと思ってしまった…。
「あー…多分?そ、そうなるんじゃないかい?あっはっはっ…すまないね。僕は今から、紗夜ちゃんの両親に会わなくてはならないんだ。そ、それじゃ行ってくるね」
「お、お父様、行ってらっしゃい」
紗夜ちゃん…なんかごめん。
僕は、そう心の中で呟いて、沙織の豹変の凄まじさに臆してしまい、妻の様子を見るの忘れてしまった。
心の中で、しまったと思いながらも、車を走らせて高槻家へと向かった。
◆◇◆◇
紗夜ちゃんの家へ到着し、インターホンを鳴らす。
「…どなたでしょう?」
「花見遊助です。娘さんのことを改めて説明に伺いました」
すると、玄関扉が開き、食卓へと案内された。
「紗夜ちゃんの件ですが…」
「遊助さん、単刀直入に聞かせてもらってもよろしいですかい?娘の修行とはなんですか?」
「あなた…遊助さんにも理由が…」
「いえ、当然の質問だと思います。彼女は自らの意思で遺跡に行きました」
その瞬間、紗夜ちゃんの父親に胸ぐらを掴まれる。
「なぜ、止めて…くれなかったんだいっ!!!なぜだ…なぜぇ…」
「…遊助さん、それがどれほど危険な事かわかってらっしゃいますよね?それでも行かせたんですか?」
覚悟は、していたものの…子を持つ親の身として彼らの対応は、真っ当だ。そして、これ以上ないくらい穏便に済ませてくれている。
僕は、殴られて当然なのに未だに振り翳した拳を振るわれていない。それどころか胸ぐらも解放されていた。
——だからこそ、余計に心が抉られる
「はっきり言わせてください!!彼女と、とある約束を交わしました。だから…もし彼女が亡くなってしまったりしたら…僕の命でどうか…ご容赦ください。そして、彼女が帰ってきたら…何も言わずに、彼女の願いを抱きしめてあげてください…!!お願い…致し…ます。僕ではなく、僕と約束した彼女を信じてあげてくださいっ!!!」
話の途中で、目から涙が、ポタポタと溢れる。
どうやら、いつのまにか、僕は彼女を本当の娘のように感じていたらしい。
だから、彼らの気持ちも痛い程分かってしまった。
「つい、熱くなってしまった。悪い。顔を上げてくれるかい…1つ聞かせてくれ…沙織ちゃんはどうしているかい?」
「沙織には、とある約束の内容を聞かせました。そのため、完全に戻ってくると信じて待っています」
「沙織ちゃん…あの子はとても強い子なのね。それなのに、母親である私でさえ例えとある約束を聞いても信じる事はできないと思うの…」
当然だ…遺跡は、大人達でさえ、行くのを躊躇う。
「遊助さん…娘の安否が決まるまでの間でしたらその言葉を信じてみましょうかい…」
最後に、紗夜ちゃんの父親がそう言い切った後、お開きとなった。
僕はその後、自分の家へと戻り、なかなか寝付けない夜を過ごすのだった。




