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説得と決意

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 ローレイ山の麓で、風が吹いている中、俺と遊助さんはお互いに視線を合わせた後、


「紗夜ちゃん、君はまだまだ幼いんだ。それに…沙織は君の事を愛している。はっきり言うね。あの子のためにも、君を死なせたくないんだよ。僕は、君に少し危機感を少し持ってほしかっただけさ。君の親御さんも心配しているだろう。だから、帰ろう?」


 遊助さんは、まるで、俺に対して自分の子を諭すかのように真っ直ぐな目で語りかけてきた。


 あぁ…この人は、時に意地悪だけど…それと同時に強くて優しい。


 だからこそ、俺もこの人を心のどこかでお兄ちゃんと思ってしまう。


 でも…それじゃダメなんだ。ここがゲームのようでゲームでない世界ならば、いつ()()()()がいてもおかしくない。


 そのルートに入り、手遅れになるような事態に陥ってしまうと、学院中の大勢の生徒が犠牲になる。


 今回の沙織誘拐未遂事件でゲーム外情報が、必ずしも良い結果を知らせてくれる物では無いと分かった。


——遊助さんが勝てなかったら?


——主人公が敵側になってしまっていたら?


 私は、()()守りたい者を守れずに、全てを失ってしまう。


——高槻紗夜もろほしひろが壊れてしまう


 だから、その手は残念だけど、受け取れない。


「遊助さん…私は貴方を倒してでも、通ります」


「そうかい。仕方ないね。そんな悪い()にはお仕置きが必要だ」


 俺は、全速力で彼に向かって走る。


 それに対して、彼は涼しい態度をしている。全く、構える気配がない。


 当たり前だろう。


 遊助さんと今の俺では、雲泥の差がある。


 象が蟻に対して、警戒心を微塵も出さないのと同じような物だ。


 しかし、蟻は蟻でも()()()な俺は、彼の目の前に行くと…


「必ず戻ります!!!もし、戻った時は、貴方の大事な娘さんを私にください!!!幸せにします!!!」


 大きな声で、そう叫んだ。


 遊助さんは、これに驚いてしまったのだろう。無意識に身体が硬直をしていた。


 人間は、想定しない事をされると一瞬とはいえ、硬直をしてしまう。


——倒す必要なんてない


 その隙をついて、俺はローレイ山の中へと足を運ぶ。


 彼のスピードならば、大きな荷物を抱えている俺なんて、すぐに追い付くことなんて容易いはずだ。


 それでも彼が、俺を追ってくる気配はなかった。


◆◇◆◇


「やれやれ、参ったね。一瞬とはいえ、虚を突かれるとは…ね。大事な娘を取られてしまうかもしれない相手なのに、心のどこかで、彼女に帰って来て欲しいと思ってしまう僕がいるよ」


 彼は、必死で険しいはずの山道を走る紗夜を傍目にしながら、沙織と彼女のご両親には、どう説明しようかと右手で頭の後頭部を撫でる。


「まっ…僕に任せるといいさ。こういう子供のやらかした後始末は大人の役割だろう」


 彼は、紗夜が見えなくなったのを確認し、空を見上げた後、その場を後にした。


◆◇◆◇


 ローレイ山の道は、険しいものだった。


 何より、この山が、人の手であまり整備されていないため、草木そうぼくが今の俺の身長の半分ほどにも達する。


 それでも、道があるだけまだ良心的だと考えて進む。


 ローレイ山で気をつけるべきポイントは、獣…だと思ってるが、ゲーム外情報であり、ファンブック等にも詳しいことは書かれていないため検討が付かない。


 とりあえず、喉が渇いたので、1口だけ水を飲むため、出来るだけ草木が少ない場所を選び、まずは、リュックを下げた後に腰も下げる。


 すると、地図とメモ帳のような物が、リュックの上に貼り付いていた。


 こんな物…準備してたっけ?


 それを水を飲みながら開く。


 あの人か…


 何が『帰ろう?』だよ…。


 あんたの大事な娘を危険に晒した挙句、その上で烏滸がましい事に貰う宣言までした相手になんてものを…送ってくるんだよ。


「バカ…」


 上を見上げると、空は、雲ひとつなく晴れていた。


——それなのに彼女のいた所の葉の部分には、光り輝く雫が付いていた。


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