第61話 第一回戦
「──それでは続いての試合になります。両者入場ください!」
「うおおおおおおお!」「やれー!」「きゃーーー!」
司会の言葉と共に場内に怒号と歓声が飛び交う。
先刻より始まった武闘祭は、既に第一回戦組の二試合を終えて場内のムードは指数関数的に高まりを見せていた。
そんな中で迎えた第一回戦三試合目。俺の出番となった。
俺は係りの人間に指示され、入場門から舞台へと進む。そしてそれに合わせるように反対側からも同じように対戦相手らしき男が舞台へと上がってきた。
「え、あの子まだ子供じゃない?」
「相手の男と体格が違い過ぎるだろ……これじゃあいくらなんでも」
「いやでも、若くして名を上げてる冒険者かも……!」
そんな場内のざわめきと共に俺は相手と向かい合った。
「ふん、ガキか」
「はじめまして、どうぞよろしく」
「ふん!」
俺の挨拶に鼻を鳴らして返した男は身長は二メートルを大きく越そうかという巨漢。
がっちりとした体格とそれに見合った筋肉量。そして得物が斧ときた。
(インファイトメインのパワータイプってとこかね)
俺はそれらの情報からまず予想を立てる。とはいえ見た目がさほどあてにならないのがこの世界の常識だ(現にジルなんかは普通より少し筋肉質、くらいな腕のくせに一撃で大岩を砕くのだから)。ともかくあくまでどのような攻撃をしかけてくるかをシミュレーションして備えることにした。
「さて、これより第一回戦第三試合。それぞれの対戦者をご紹介いたします。東側、銀級冒険者レモ=ノヴェリ! 対する西側、青銅級冒険者カイル=ウェストラッド! 会場の皆様、栄えある武闘祭に臨む勇気ある参加者に惜しみない声援をお願いいたします!」
「青銅級って、無茶だろ……」「ガキ、がんばれよー!」「にげてー!」
何故だか俺に対する同情や心配めいた声がなげかけられるが、気にしないことにした。
「カイルさーん! がんばってー!!!」
そんな声援の中に一つ、聞き覚えのある少女の声が聞こえる。俺は後ろから聞こえたその声に振り向かないまま片手をあげて応えた。
「なるほどな」
そんな俺の様子にレモと紹介された男が口を開く。
「さしずめ自分の女に良い恰好付けたくて参加した手合いか。くだらねぇな」
「自分のっていうのは否定するけど、女性に格好つけたくなるのは男のサガってものだよ」
「ちっ! おい! さっさと始めさせろ!」
俺の言葉にレモは舌打ちすると、司会の男を急かした。
「良いでしょう。それでは第一回戦第三試合をはじめます。両者構えて!」
その言葉と共に俺は腰に下げた剣を。レモは担いでいた斧を取り出した。
「それでは………はじめ!」
「おらぁぁ!!!」
開始の合図と同時、いきなりレモが大声をあげながらこちらへと間合いを詰めてくる。そのスピードは見た目に合わずかなり素早い。
「ふむ」
「おらぁっ!!」
ブォン!という空を切る音と共に縦一閃、斧が振り下ろされる。
そして次の瞬間、轟音と共に先ほどまで俺のいた場所の地面は大きく抉れた。
「ちぃっ!」
立ち上る土煙を振り払いレモは周囲を見渡す。そして大きく北の方へと移動していた俺を捉える。
「逃げるんじゃねぇ! オラぁ!」
「おっと」
そうして次々に迫りくる斧の攻撃を俺はするりと避け続ける。
そんな俺の様子に次第に顔を歪め始めたレモが叫ぶ。
「てめぇガキ! いつまでも逃げてんじゃねぇぞ! 正々堂々戦え!」
「そんなこといったって、これだって体力を削る立派なさくせ……いやまぁそろそろいいか」
俺はレモの言葉にそう返して、改めて彼と向かい合うと剣を中段に構えた。
「ちっ! ようやくやる気になったかよ!」
そう言って鼻息を荒くしたレモが再度武器の持ち手を握りしめ、そして。
「今度こそ受け止めてみやがれ! うおおおおおおおおおおらああああ!!!」
大声を上げこちらへ飛び込みながら、これまでより更に一層力を込めて斧を振り下ろしてきた。
「死ねぇええええええええええええ!」
(いや、殺しちゃダメだろ)
俺は内心でそんな突っ込みを入れながら、レモの攻撃を剣で受け止めることなく、姿勢を低くして瞬間彼の横をすり抜けた。
「なっ!?」
「シッ!!!」
俺はレモの背後に回るとそのまま、斧を大きく振り下ろして地面に突き刺したままの彼の足を力いっぱい横なぎに蹴りぬいた。
「んがっ!?」
すると、地面に深く突き刺さったままの斧から思わず手を離したレモは、そのままくるりと後ろへ半回転して地面と身体が平行になるように浮かび上がった。
その様子に観覧席からもざわめきが聞こえる。
それもそうだろう。自分より圧倒的に大きく、重いであろう相手を、少年はこともなげに足払いしてのけたのだから。
「フゥ──」
「なっ! てめッ!」
一瞬の出来事にいまだ理解が追い付かないままに宙に浮くレモが、何かしようと身体を捻らそうとする。しかし俺は剣を手放し、抵抗されるその前に彼の首元目掛けて勢いよく手刀を振りぬいた。
「ガッ──!?」
音もなく振るわれたその攻撃は、その分厚い首を意に介せずそのままレモの意識を刈り取った。
そのままドサリと地面に身体の落ちる音が場内に響き渡ると、それに合わせるかのように静寂が満ちる。そして──。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」
次の瞬間場内が歓声に沸いた。レモがその声で起き上がる様子もない。
判定員が近づき、彼の状態を確認した。
「ノヴェリ選手! 気絶により行動不能! よって勝者、カイル=ウェストラッド選手です!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」
司会がそう告げると、再び場内が沸きあがる。
俺はひとまず無難に一試合目を終えられたことに安堵しつつ、歓声を背中に受けながら舞台を後にするのだった──。
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