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合理主義者の異世界魔法改革論 ~『解析』から始まる新世界史~  作者: きぬき
第4章 リースタリア公国編
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第58話 首都アベイオニス

 あれからしばらく進み続け、山脈の中腹を超えて進んだ先。俺たちは大きな門の前へと到着した。


「止まれ」


 馬車に乗る俺たちを見た兵士らしき人物がそう声をかけてくる。


「貴殿らは何をしにこのアベイオニスを来られたのか」


 俺たちをじっと見据えたまま兵士はさらに続けた。


「俺たちは冒険者をやっています。ここへは、新たな依頼とか仕事を求めて」

「冒険者か、ふむ……」


 俺の答えを聞いた兵士は手元の書類?らしきものに目を落としていたが、しばらくして口を開いた。


「良いだろう。入ることを許可する。ただし今は武闘祭の期間だ。くれぐれも問題を起こすことのないように」

「武闘祭?」


 俺は、兵士から出た聞き覚えのない単語を思わず繰り返す。


「あのー、武闘祭っていうのは……?」


 俺の代わりにエミリアが質問した。


「なんだ、武闘祭を知らないのか……。武闘祭は我らがリースタリア公国で一年に一度。建国の父アベルが生まれた冬のある日から一週間かけて行われる武術大会だ。先日その受付が始まって、締め切りが明後日。だから今は他国の人間が多くてな」

「へ~……全然知らなかった」

「俺も父上や師匠からも聞いたことなかったな」


 そうして兵士からもう少しだけ詳細に、武闘祭について聞くことができた。


 曰く武闘祭とは自由参加型の剣術、魔術、体術を武器として競い合う腕自慢大会らしい。

 この国の君主であるアバンデルト公爵家主催の催しであり、毎年各国から参加者が集うイベントとのことだ。勿論優勝賞品もあり、優勝者には賞金とリースタリア公国からの勲章が授与されるらしい。ある意味ここで優勝し力を認められばその後の活動でも名前を売れるため、参加者自体はかなり多いらしかった。


「あと、もう一つ特別な賞品があってな」

「と、いうと?」


 興味津々で話を聞く俺たちに得意げになった兵士が、こっそりと俺たちに告げてきた。


「優勝者には、公爵家の方に勝負を挑む権利が与えられるんだ」

「へぇ……」


 俺はそれを聞いて「なんだそりゃ」と心の中で呟いた。


「いやな、言いたいことは分かるが、実のところこれが俺たち国民のなかじゃ一番の目玉でな」

「ほう?」

「何せこれまで長く続いてきた武闘祭の歴史の中で、公爵家の方がその年の優勝者に負けたことなんて、ほとんどないんだぜ」

「そんなに強いんですか?」


 この国の貴族というのは、力で地位をもぎ取ってきたみたいな経緯があったりするのだろうか。

 俺は、疑わしい声音で兵士に問いかける。


「俺も初めてあの方たちの戦いを見るまではお前さんと同じように思ってたもんだが、生であの戦いを見るとまぁその歴史も素直に納得できたな。何せ強い。剣術も体術も、並みの人間じゃ歯が立たないくらいに凄まじいんだ」

「そりゃ是非とも見たいですね」

「ああ、せっかくだから見ていきなよ。見る分にはタダだしな」

「そうさせてもらいます」


 そう言って俺はエミリアと共に改めてアベイオニスへと入ろうとしたが、ちょっと気になって再び兵士に声をかけた。


「そういえば、直近で公爵家に勝った優勝者ってどんな人なんです?」

「あー……確か十年くらい前だったか。珍しく女が優勝してな。だがその女がヤバいのなんの。化け物みたいなやつだったんだが、流石の公爵様もその戦いには敗北されてたな」


 アレは仕方がない、とウンウン頷く兵士に俺は嫌な予感がして質問した。


「ちなみにー……なんですけども……その女性のお名前は……」

「ん? あぁ、よく覚えてるよ。ジル=ブラッド。お前も冒険者なら知ってるだろ? 『烈火』のジルだよ」

「アーハイ、ヨクゾンジアゲテオリマス」


 最早何も言うまい。いや、「あの人何やってんの」くらいは言ってもいいかもしれない。


 俺は兵士の不思議そうな目をかわしつつ別れを告げると、そそくさと街へと入っていったのだった──。



 ---



 リースタリア公国。

 遠い昔この地を切り開き、リースタリアという国を興したアベル=ルミナス=アバンデルトを建国の父とする公国である。

 貴族を君主として頂き、現在そのトップとなっているのがアベルを祖先に持つアバンデルト家だ。


 アベル山脈にある街、アベイオニスを中心として、山脈だけでなくその周囲一帯を国土に持ち、主に鉱石や美術品などを主要交易品とする。

 かつてはダリア王国を含めた近隣諸国と長きにわたり国土の奪い合いをしていたが、現在は和平協定の下で協調路線をとっているのがこの国の現状だ。


 アベイオニスの最奥には〝大神殿〟と呼ばれる巨大な神殿がそびえたち、この地を治めるアバンデルト家をはじめとした貴族たち、並びに政治家たちはこの場所に集い、まつりごとを取り仕切っている。

 それ以外の部分については他所の国と変わらず、さして不自由を感じさせない国だった。


 強いて言うなら先ほどの兵士が言っていた武闘祭など、どちらかといえば血気盛んな催しが多めらしいことだろうか。


 ともかく。


「まさかあそこでジルさんのお名前を聞くなんてびっくりですね」


 アベイオニスの中央を通る大通りで馬車を走らせる俺に、後ろのエミリアが話しかけてきた。


「いやほんとさ、あの人なら何やっててもおかしくないんだけどさ」

「あはは……でもまぁ、そんな有名人を師匠にもってるなんてカイルさんもすごいじゃないですか」

「エミリアはあの人を知らないからそんなことが言えるんだよ」


 ジルとの旅を思い出し、死の恐怖の連続だった日々を思い返すと思わず目頭が熱くなってしまう俺であった。


「そういえば、カイルさんはどうされるんですか?」

「ん? 何が?」


 エミリアの質問に、俺は目元を拭いながら聞き返す。


「武闘祭ですよ、武闘祭。カイルさんも参加されたりするんですか?」

「武闘祭、かぁ……」


 正直それは悩みどころだった。確かに賞金は魅力的だが、そのためだけに何度も戦い、挙句の果てに公爵家の人とまで戦いたいかというと……。


「いやまてよ」

「ほへ?」


 思考の途中であることが脳裏をよぎった。


「そういえば、『氷の魔法』を使う噂……『氷獄公』ってやっぱりこの国のトップ……アバンデルト公爵家の人間のことなのかな」

「あー、そういえば私がカイルさんに、リースタリアに行く理由を聞いた時にそのお話されてましたね。……まぁ〝公〟っていうくらいですから、やっぱり偉い人……あ」


 どうやらエミリアも気づいたようだ。


「〝公〟ってだけなら別にアバンデルト以外にも候補はいるだろうけど、氷の魔法を使う……強さと《《氷の魔法を継承する家柄》》ってところを考慮して考えると、あながち見当違いってわけでもなさそうだよね」

「でも兵士さんのお話では一度も、武闘祭でそんな魔法を使った話出なかったですよね」

「そこが気になるね……」


 元々この国へきた大きな目的は、『氷獄公』の存在を確かめることだ。そしてその可能性として考えられるのは今のところ大きく三つ。


 一、アバンデルト公爵家がその噂の『氷獄公』である。

 二、どこか別の貴族家あたりが『氷獄公』である。

 三、そもそもそんな存在はいない。


 まぁどうであれこの国でその人物を探すとなれば、一番手っ取り早いのはアバンデルトの人に直接聞くことだろう。この国のトップともなれば、仮に氷の魔法使いが実在したとして、その情報を握っていないとは考えづらい。


 じゃあどうやって話を聞くか。

 流石にアポなしで行ったとしても門前払いを食らうか、あるいはよしんば話を聞けたとして信用もされていない状態ではあまり情報を開示してくれない可能性もある。


 であればテオドールからもらった例の身分証とやらを使うかとも考えたが、さして困ってるわけでもない現状でホイホイ使うのも忍びない。あれはダリア王家としての後ろ盾であるから、使ってしまったら最後俺はダリア王国の関係者とみられてしまう。

 そうなれば俺の行動一つがテオドール達への風評被害につながる可能性もあるし、俺自身もダリアの人間とみられては動きづらい。


 俺は一通り考えて、〝一介の冒険者カイル〟として動いた方がやり易そうだと判断した。


「よし、ここはいっちょ直球勝負で行ってみようか」

「直球……というと?」

「武闘祭で優勝して公爵家の人に直接聞く」

「…………」


 あの兵士との話を思い出す。

 彼は大会に優勝すると賞金や名誉、そして公爵家に挑む権利があると教えてくれたが、そのあとでもう一つ重要なことを教えてくれていた。

 それは、大会優勝者は後日陛下に拝謁し、賞金とは別に何かしらの意見ないし要望を提示する機会が与えられるらしいということだ。ただこれはあくまで意見や要望を出す機会を与えられるだけであって、何でも願いを叶えてくれるわけではないらしい。ただ重要なことは、直接話ができる機会が得られるということだ。


「たまにカイルさんって脳筋思考になりますよね」

「兵士さんが言ってたじゃない、優勝したら話が出来る機会がもらえるって。だから決してその方が楽しそうだからとかそういったことはなくてだね」

「はいはい」


 呆れながらも微笑むエミリアにそう言い訳しつつ、俺たちは無事アベイオニスの中心地……焦点の立ち並ぶ商業エリアを抜けて宿屋へと到着した。


「まぁ、時間はあるさ。ともかく今日のところは一休みして、明日本格的に調査を開始しようか」

「りょうかいです!」


 頷きあった俺たちは、その後も宿屋で今後の動きについて話し合いながらその日を終えたのだった。

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