第52話 出立
「なんだか、すごいものをもらっちゃいましたね」
王宮を出て少ししたところで、エミリアが先ほどテオドールからもらった証印を眺めながらぼそりと呟いた。
「……冷静に考えると結構すごいものだよねこれ。なくさないようにしないと」
「今更何言ってるんですか、もう……」
俺の言葉に呆れ顔でそう答えたエミリアに俺も苦笑で返す。そのまま市街へと向けて歩き出そうとしたところで、遠くから声をかけられた。
「おーい!」
「ほえ? ……あ! カイルさん! あの方!」
そう言って俺の視線を促すエミリアに従って向こうを見やると、
「ん……? 騎士団長!」
「やあ」
片足を固定され松葉杖をつきながらこちらへと向かってきたのは、誰であろう王国騎士団長オレグだった。
「もう、身体の方は大丈夫なんですか?」
「うむ。もう万全だとも」
「万全じゃないでしょう! もう!!!」
オレグが自信満々に答えたところで、その後ろから(おそらく付き添いであろう)騎士に突っ込まれる。
「大体本来ならまだベッドの上で安静にしていなきゃいけないんですよ! 傷口が開いたらどうするんですか!」
「なに、これくらい何てことはない。それにこのままでは我が主君を救ってくれた恩人を挨拶もしないで送る無礼を働くことになってしまうところだったからな」
「そんなことは気にしませんよ」
オレグの言葉にそう答えると、彼は笑って続けた。
「ふはは! まぁこうしてお会いできたのだ。……改めて此度は主君の命を救っていただき感謝のしようもない。本当にありがとう」
そう言って騎士に支えられながら、頭だけ下げるオレグに俺は答えた。
「いえ、いいんです。それにオレグ騎士団長もご無事で何よりですよ。むしろあれだけの怪我をされていて既に動ける時点でさすがです」
「なに、これしきのこと栄誉あるダリアの騎士であれば何の問題もありませぬ」
「大ありです!! 大量出血に全身打撲、骨折……普通に生きるか死ぬかの大けがだったのに何で一週間でそんなに元気になれるんですか……」
「お前たちとは鍛え方が違うのよ! ふはは!」
「はぁ……」
俺の言葉に笑ってそう答えるオレグと、呆れたように首を横に振る付き添いの騎士。
かつて謁見式で見えた際の威厳ある雰囲気とは違う、どこか親しみを感じさせる空気をオレグは纏っていた。
「と、引き留めてしまってすまなかったな。これから何処かへ?」
「えぇ。家族へ挨拶を済ませて、出立しようと思っています」
「なるほど、それは失礼した。それではカイル殿、エミリア殿、旅のご武運をお祈りしております」
そういって松葉杖を脇に挟み、右腕の前腕を上へと直角に上げて敬礼のポーズをとるオレグと騎士。
俺とエミリアもそれに倣い敬礼する。
「またローゼンへお越しいただいた際は、あの謁見式の際の再戦としゃれこみたいものですな」
「騎士団長!!!」
「はは、是非」
そんなやりとりをして、俺たちはオレグと騎士に見送られながら改めて市街への道を歩き出すのだった。
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「お兄様! お姉様!」
市街の一角……家族が滞在している宿へとやってきた俺たちは、入るなりさっそくミリスの抱擁を受けた。
「ただいまミリス。元気そうだね」
「はい!」
「えへへ、ミリスちゃんただいま」
「おかえりなさい!」
そんなやりとりを微笑みながら見つめているジューダス達に、俺は改めて挨拶する。
「父上、母上、それにノア、レーナ。ただいま戻りました」
「うむ。よく戻った」
「おかえりなさい」
実は動乱から一週間の間、俺とエミリアは一度も家族とは会っていなかった。とはいっても伝令を通して互いの無事を確認をしてはいたが。
というのも、件の謎の襲撃者の件やその魔法……相手の目的や状況の整理など、今回の動乱の状況を整理する手伝いをするために、当事者である俺たちは王宮に泊まり込みとなっていたからだ。
だからこれが動乱の後の、一週間ぶりの再会となった。
「みんな元気そうで何よりです」
「うむ。ノアやレーナがよく頑張ってくれた。本当に自慢の子たちだよ」
「えぇ、二人がいてくれて本当によかった」
「そんな、滅相もないです……」
「姉さん、泣かない」
ジューダスとマイナにそう声をかけられて嬉し泣きするノアをレーナが窘める。そんな様子を見ながら、何となく俺は緊張が解けた気がしていた。
そんな俺を見て、横にいたエミリアがくすりと笑って声をかけてくる。
「良かったですね、カイルさん」
「……あぁ、本当によかった」
大切な家族をこうして無事守ることが出来た。その事実をようやく実感できたせいか、少しばかり入っていた肩の力がスッと抜けるのを感じた。
「そうだ。二人とも昼の食事はまだかな?」
「「はい!」」
「それでは久々に家族で食事としようか」
そんなジューダスの号令のもと、俺たちは束の間の団欒を楽しんだのだった。
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それから一夜明けて。
俺たちは王都ローゼンの北門に立っている。
あの食事の後今後の動きについて改めて家族に伝えた後で俺とエミリアは旅に必要なものを準備するために街へと繰り出していた。
まだあの動乱から一週間しか経っていないにも関わらず、既に街はいつも通りの活気を取り戻し、大通りには多くの人が行き交っていた。
無論まだ周囲を監視する騎士や、おそらく雇われたであろう冒険者たちの目は多いが、それでも活気に満ちていた。
そんな街を巡って旅の準備を整えた俺たちは、一晩経って今こうしてローゼンの出口にいるというわけだ。
門の近くではジューダス達が見送りにきていた。ミリスとノアは若干目元を潤ませていた。
「二人とも、元気で帰ってくること」
ジューダスの言葉に俺とエミリアは頷く。横にいたマイナも、彼の言った言葉以上のものはいらないといった様子で、微笑みながら見つめていた。ミリスはまだ少しだけ顔を俯かせている。
「坊ちゃん、エミリアさん。いってらっしゃいませ」
「い、いっでらっしゃいまぜぇ……」
ノアとレーナにもそう挨拶され、俺たちは頷く。
そろそろ時間だ。
「ミリス」
「はい……」
尚も俯いているミリスの頭の高さまで屈み、俺とエミリアは声をかけた。
「行ってきます」
「ミリスちゃん、また遊ぼうね!」
「はい………」
そう短くやりとりをかわし、俺たちは購入した馬車に乗り込む。
そろそろ時間だ。
「じゃあ行こうか、エミリア」
「はい!」
俺は手綱をしならせ、今回の旅のために用意していた馬車を進ませ始めた。そうして少しばかり家族の姿が遠くなり始めたところで声が聞こえる。
「いってらっしゃいーー!!」
ミリスの大きな声が、後ろから響き渡る。
「いってきまーーーーーーーーーーーす!!」
俺の分までエミリアが元気にそう返事する。俺も心の中で「いってきます」と呟いた。
こうして俺たちは、ダリアを後にするのだった。
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