第46話 白き大樹の下へ
「ふっ!」
「──ッ!」
まるで呼吸が合わさったかのように、俺の剣戟とエミリアの弓矢とが同時に放たれる。そして、目の前の天使モドキを切り裂き、打ち抜いた。
「Gaa..a...」
おそらく(生きているといっていいのかは甚だ疑問だが)死んだであろうソレは、不気味な鳴き声を上げながらその輪郭をぼろぼろと崩していき、やがて灰のようになって宙へと消えていった。
「魔獣……っていっていいんでしょうか。これは」
「何とも言えないね。といっても、敵意があるって点じゃ似たようなものだし。やることはかわらないさ」
「カイルさんはこういうときでも飄々としてますよね……ッ!」
俺にそう声をかけながらエミリアが再び矢を放つ。その先には、剣を落とした騎士を今まさに殺そうとする敵の頭があった。
「AGaaaa!?」
その矢は脳天をつらぬき、その動きを一瞬止める。
その隙に騎士は剣を取り、天使モドキの胴体を切り裂いた。
「助かった!」
「いえ! お気をつけて!」
エミリアが相手とそうやりとりをすると、騎士は他の味方への加勢へと向かった。
「エミリアもあの短期間でよくそこまで弓を扱えるようになったね」
「レーナさんの教え方が上手だったんですよ。それに私にはこういう得物の方があってたのもあるのかもしれません」
「そっか。それなら期待しようかな」
そう言って俺は再び剣を構える。元凶ともいえるあの白い大樹はまだ先だ。
「はい!」
エミリアも弓を構え、再び俺たちは進み始めた。
▼
「おらぁっ!!」
大広場から離れた場所、大通りの一角で男の大きな声が響く。そしてその声に合わせるように、白い怪物の頭はその男の持つ大斧によって叩き割られた。
「っし! これで何体目だ!? ってかいつまで湧いてくるんだよこいつらは」
そう言ったのは、金級冒険者で『双鷹』の通り名を持つデックス=ルーダルカ。そして、
「泣き言いってないでとっとと次いくわよ!」
彼の相棒のオリヴィエ=ウィンザーだった。
彼女もまた二本の短剣を構え、素早い動きで確実に敵の急所といえる部分を切り裂く。
今や王都は大混乱の最中にあった。
とはいえ王族は何事もなければ王宮へと退避しているだろうし、その護衛には当然あの王国最強ともいわれる騎士団長がついているだろうことも想像に難くない。その点に関しては問題はないだろう。
どちらかといえば問題は、今こうして目の前で絶えず現れ続ける怪物のほうだった。
そこまで凶悪な存在というわけでもなかったが、それでも戦闘能力のない市民から見れば十分な脅威だし、自分たちとていつまでも戦い続けられるわけでもない。
「さっさと大本を叩かねぇとまずいな……」
そう呟くデックス。しかし彼は広場から離れた場所を見回っていたために、『敵が突如現れた』という情報しか把握できていなかった。
そんな時だった。
「こちらです!」
声のする方を見れば、騎士たちが市民らしき集団を誘導しているのが見える。そしてその中に、騎士に混ざって市民を……特にある家族を守るエルフの二人組の姿も見えた。
とはいえ敵の数も多い。ひとまずはあそこに加勢しにいったほうがよさそうだ。
そう判断したデックスは、斧を担ぎなおすとオリヴィエと頷きあい、その集団の方へとつっこむ。
「ふっ!」
「やああっ!」
弓を正確に打ち抜く少女と、敵の攻撃をひらりと交わしながら細剣を敵へと突き刺す少女。騎士と、その二人の少女に向かってデックスは声をかけた。
「よう! 加勢するぜ!」
「! 助かります!」
騎士がそう答え、エルフの二人組もうなづく。
──それからしばらく。雪崩れ込んでくる敵を一通り一掃すると、デックスはおそらく方角的に広場の方から向かってきたのであろう集団を率いる騎士に声をかけた。
「状況を説明してくれ」
「は、はい! 実は──」
そうして広場で起こったこと、そして広場に大樹のような奇妙なモノが生えてきたことを聞かされる。
「いやはや全くどうなってやがる……」
「さすがに今回ばかりはアンタに同意するわ。ひとまずこの後どうしようかしら」
騎士について市民たちの護衛に回るべきか、あるいは広場の方へ向かうべきか。二人がそう悩んでいると……
「お兄様を助けてください!」
「ミリス!」
集団の中から一人の少女とその父親らしき男が飛び出してきた。
「どういうことだ嬢ちゃん」
「お兄様とお姉さまが広場で戦っているの!」
「ミリス! ……申し訳ない。私はジューダス=ウェストラッド、この子は娘のミリスという」
手短にそう挨拶する男の言葉を聞いてデックスはふと気づいた。
「ウェストラッド……アンタらカイルの家族か?」
「! そうです!」
「なるほどな……」
どうやらあの有名人は広場で戦っているらしい。
「おじさん……?」
デックスが少し考え込んでいると、カイルの(おそらく)妹が不安げなまなざしで覗き込んでくる。
「おっと、わりぃな嬢ちゃん。安心しな、俺が今から援護に向かってやるぜ」
「ありがとう!」
ミリスの言葉を受けてデックスはすぐさまオリヴィエに視線を向ける。
「おいオリヴィエ! お前はこいつらの援護に回ってくれ!」
「はぁ!? アンタはどうするのよ」
「もちろん、広場に向かう」
「ッッ~~! ……はぁ、了解」
長年一緒にやってきただけあってか、オリヴィエはこういう時のデックスが梃でも動かないことをよく理解していた。彼はそんなオリヴィエの表情を見て笑う。
「かは! さすが相棒だぜ。とにかくまかせた」
「ったく! 死ぬんじゃないわよ!」
「おうよ!」
そう短くやりとりをすると、二人は互いに正反対の方向へと走り始めた。
オリヴィエは騎士と市民たちと共に王都外苑へ。
デックスは王都中央の大広場に向けて。
まもなく戦いは次の局面を迎えようとしていた──。
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